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『はしにも棒にもかからないと言われても、私は私を見捨てない』

最新エピソード掲載日:2026/08/29
注意欠陥多動性障害と識字障害を持つ水城千尋は、子どものころから「どうしようもない子」「はしにも棒にもかからない」と呼ばれてきた。文字を正確に読むことも、決められた手順どおりに行動することも苦手だったが、彼女の頭の中には、色や音や匂いを伴った物語が絶えずあふれていた。

大人になった千尋は小説家を目指し、投稿サイトで作品を発表し続ける。しかし誤字や大量投稿、規約の読み違いによって警告を受け、ようやく信頼した人気作家・柊木廉には未発表原稿を盗まれてしまう。さらに運営責任者の黒崎は、千尋の障害や過去の失敗を利用して彼女の訴えを退け、千尋を盗作者として永久追放する。十年分の作品も、読者から届いた言葉も、わずかな収益も、一夜ですべて失われた。

創作を諦めて普通に生きようとしても、千尋の中から物語は消えなかった。図書館司書の白石澪、厳格な編集者の藤堂真一、複雑な確執を抱える姉・美沙の助けを借り、千尋は失った小説を書き直し始める。何度も失敗し、自分の文章を削ることに傷つきながら、彼女は「助けてもらうこと」と「自分の力で生きること」は矛盾しないと知っていく。

やがて古い保存データから、廉へ送った原稿の記録が発見される。千尋は感情的な反論ではなく、作成日時、送信履歴、改稿記録という客観的な証拠を集めて立ち上がる。その調査によって、廉がほかの無名作家からも作品を盗み、黒崎が抗議する力の弱い投稿者を意図的に切り捨てていた事実が明らかになる。

誰かに認められなければ、自分の物語には価値がないのか。人の手を借りて完成させた作品は、本当に自分のものではないのか。何度追放され、名前を消されても、千尋は自分だけは自分を見捨てなかった。

これは、不完全なまま生きる一人の女性が、奪われた作者の名前を取り戻し、かつて破られた物語の続きを書くまでの逆転と再生の物語である。
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