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「そういえばマーティンって司祭だったのよね?」
「昔の話だ」
「どういう経緯で鼠になっちゃったわけ?」
「それは私が一番知りたいさ。大方どこかのバカが、魔法の練習か何かで私の魂を移動させたんだろう。それか事故か。いずれにしてもそれが悪夢の始まりになった。死者を軽んじるなど。おっと、悪気はないんだ」
「信仰の教えはどの神だったんですか?」
「パクスだ」
「非情だとは思わないわけ?」
「パクスの加護あっての事。もっと悲惨だったかもしれない。そう思うと感謝しかないさ」
「物は考えようね」
「そういう君はどうなんだ? 若いのに、故郷を遠く離れ危険な冒険を続けているようだが」
「知ってるかもしれないけど、獣人文化には肉食、草食、雑食って根強いヒエラルキーがあるの。私は最下層の雑食ってわけ。故郷じゃ肩身が狭いのよ。世界は広いんだから、態々殻に籠もってる必要はないと思ってね」
「噂だけでも酷いと聞く。吾輩はジャスミン王女やマーラの気持ちが痛いほど分かる」
「そうだったのか。ならばジャスミンが王家の血筋とは意外な事だな」
「そうでもないわ。お互い身を寄せ合うものだし。ジャスミンは確かに王家の出だけど、かなり辺境だったもの。おかげで…友人になれたけど」
「…………」
辛そうなサム。
「んんっ、イエナはどうなの?」
「私!? 私は…人に語るような大それた事はないかな……」
「いいから話してよ」
「私は…ドルイドだったの。力を取り戻させてもらってから、ようやく 徐々に思い出してきたところかな」
「ドルイドということは、サンクチュアリ出身なのか?」
「ええ」
「私の妻がドルイドだったんだが、ドルイド になるための試練はかなり辛かったと聞く」
「確かに…そうです。ドルイドの試練は自然と一体になることでしたので。試練の途中でディアーナの怒りを買えば、そのまま自身が自然の一部となってしまいます」
「なにそれ怖っ。そんな神によく従おうと思ったわね」
「当時は、国や家の古くからの習わしで、疑問に思った事がなかったの。ヘスペリデス地方じゃ、ディアーナの信仰はそれ程強くはないの?」
「うん。どっちかと言うとルーナの方が影響力があるかな」
「それとミネルヴァだな」
「そうそう」
「ヘスペリデスでのミネルヴァの影響力は絶大だ」
「武器を製造せねば。棒切れと石で戦う事になる。だったか」
「流石リッヂだ」
「故郷じゃ嫌になるほど聞いたわね」
暫くして目的地へ着く。
── Ⅺ章『悪魔狩り』──
シーラセライ。訳:ご機嫌よう。は獣人達が初めて交わした言語である。『神々の言語』より。著:フースカヌーン:言語学者。
── ロクスソルス城前。
「ロクスソルスの城。何かあると思ってたのよ」
「行くぞ。警戒を怠るな」
「正面から行くの?」
「他に入り口があるのか?」
「ええ、こっちよ。ついてきて」
パイプを通り、城の中へ入る。
「やるじゃないか。マーラ」
「マーネ」
「なぜ知っていた?」
「そんな事より今は警戒しましょ♪」
ドアを念動で開こうとするが、意外と重い。
力を強め押し開く。
メトゥスが先行する。
ドアにはデーモンの死体がもたれかかっていた。
「こりゃひでーな」
壁や床は焦げ、フロアにはデーモン達の死体が散乱していた。デーモンの切断された頭部や腕、脚も無造作に散らばっている。
「先客がいたようね」
「まだ息があるかもしれん。用心しろ」
其々が警戒しながら散開していく。
ドアにもたれかかっていた1体のデーモンを凝視する。
闇の穢れが魂の離脱を妨害している。これはまるで…。
奇妙な咆哮がフロアに響き渡る。
フロア中央に青黒い靄が立ち込め、1体のダークナイトへ姿を変えた。
「領域侵犯の代償を払え」
ダークナイトが周囲に闇を放ち、こちらへ急接近してくる。
マーラは小型のアイスシャードを、サムは中型の闇の刃を放つ。イエナが毒の壁を放ち進行路を防ぐ。だがダークナイトはアイスシャード数発を受けると闇の歩みを放ち、闇の塊となって移動し、毒の壁を躱し迫ってくる。
ダークナイトに中型の死の火球をメトゥスと共に複数放っていく。ダークナイトは避ける素振りをみせず、そのまま死の火球を全て浴び、消滅してしまった。
「サム! ちゃんと狙ってよね! 私に当たりそうだったじゃない!」
「はぁ、はぁ。すまない。いきなりこんなのが出てくるなんて思わなくて」
「まったく。戦場で一番怖いのは同士討ちなんだから。気を付けてよね」
「ああ、気を付ける」
「以前の私みたいですね」
「…………」
「どうされたんですか?」
「ふむ (疑問)」
「にしても手応えなかったわね」
「デーモン達のおかげで負傷していたのかも」
「リーケン?」
「ああ、サムの言う通りかもな。運が良かった。2階へ行こう」
「アンデッドにしないの?」
「闇がデーモン達の魂に干渉している。先に闇の束縛を解かなくては」
「ちぇ、援護を期待できそうだったのに」
2階へ上がる。
階段にも死体や血が散乱していた。
「気を付けろ。デーモンの血は触れると燃える」
どのフロアも似たような光景だった。
浮遊する種族型の靄、ダークスカウターが複数巡回していた。
「気付かれる前に最上階まで行くぞ」
最上階にはデーモンの死体も、モルスの刺客の姿も気配もなかった。




