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三坪のカレー屋から始めます。~二〇〇六年、大学四回生の博之は一杯三百八十円で成り上がる~

最新エピソード掲載日:2026/11/05
二〇〇六年九月、滋賀県草津市。立命館大学四回生の博之は、草津駅前、平和堂アル・プラザの向かいでカレーを売っている。店は三坪、カウンターに丸椅子が六つ。値段は、五百円玉を出した客が帰りに缶コーヒーを一本買えるように、一杯三百八十円にした。おかげで毎日、釣り銭の十円玉ばかりが先になくなる。
大学に入った二〇〇三年ごろ、博之は学生のうちに会社を起こす連中に
憧れていた。ところが自分が就職を考える年には、年明け早々
ライブドア・ショック。大学の起業講習で作った計画書を銀行に
持っていけば、「一日四十人というのは、どうやって見積もりました?」と聞かれる。四十人来たら借りた金を返せる。そういう順番で
計算したとは、よう言わなかった。

結局、なけなしの三十万円で借りられたのが、この店だった。月の家賃は六万円。前の店主が残した椅子の裂け目をテープでふさぎ、ハウス食品の箱の裏の通りにカレーを作る。昼休みを逃した現場のおっちゃんが食べに来る。「安かったし、また来たるわ」。うまかったとも言うてほしかったな、と思っていたら、あとで同僚を連れて戻ってきた。

一緒に簿記を勉強した友達は、有名な電機メーカーの経理に決まった。
博之は今日も四十五杯売って一万七千百円。米と肉を買い、家賃をよけて、「ほんで、お前にはなんぼ残るん?」と聞かれると、同じ簿記を習ったはずが返事に困る。そもそも木曜の三限はどうする。店を閉めたら客が困るし、授業を休んだら自分が卒業できへん。

まずは友達に四時間だけ店番を頼む。そのうち一人に鍋を任せられたら、自分はもう一軒、別の学生街で安い飯屋を開けるかもしれない。暇な時間にめくる『会社四季報』には、地方の飯屋から始まって、何軒も店を持つようになった会社が載っている。そんな会社の数字を眺めるのが、博之は昔から好きだった。今はそこの社長に、最初の二軒目の家賃をどう工面したのか聞いてみたい。

正月、松阪の実家に帰ると、両親から「仕送りは卒業までやで」と言われる。店の家賃は毎月きちんと払ってきた。さて、四月からは自分の寝る部屋の家賃も、このカレーで払えるか。

「メンヘラオジサン」シリーズ、博之の青春起業編。草津の三坪から商いを広げていく、一人の青年と、そのカウンターに居合わせた人たちの物語。
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