緋翠の忍 ―― 隠形の陰陽師
最新エピソード掲載日:2026/08/06
刀岐忍(とき の しのぶ)。二十歳。陰陽寮にも属さず、字も読めず、六壬も方位も知らない。だが、二羽の孔雀を従えている。緋(ひ)と、翠(すい)。二百年、その一族に仕えてきた式神である。
忍が使えるのは、二つだけだ。隠形(おんぎょう)と、遁甲。
消える術と、渡る術である。
七つのとき、忍は路地裏にいた。
誰にも数えられない子供として。冬になれば人が死に、朝には片づけられる。誰も、数えない。名も、無い。そういう場所である。
そこから十三年。忍は、消えることだけで生き延びた。
ある夜、そんな男の前に、白い狩衣が立つ。
「――お前、いま、いくつだ」
安倍晴明。当代随一の陰陽師である。
その男が率いているのは、記録に残らない部隊だった。名を、六合という。六人しかいない。表に出ない仕事だけを請け負う、都のいちばん昏いところにいる連中である。
そして忍は、そこで初めて、数えることを覚える。
辻に落ちていた、名も知れぬ櫛。
橋の下で、顔を失くした鬼。
名を呼ばれなくなって、鬼になった女。
地の底で二百年、誰にも聞かれなかった声。
――全部、数えられなかったものだった。
なぜ、自分の一族は滅んだのか。
なぜ、晴明は自分を路地裏に置いたのか。
なぜ、この都は、こんなにも静かなのか。
問いは、都の下へ降りていく。
二百年ぶんの、深さへ。
そこで忍は、一つの選択をする。
封じるか。
焼くか。
――それとも、聞くか。
これは、“名前の物語”である。
呼ばれないものは、消える。
だから誰かが、呼ぶ。
忍が使えるのは、二つだけだ。隠形(おんぎょう)と、遁甲。
消える術と、渡る術である。
七つのとき、忍は路地裏にいた。
誰にも数えられない子供として。冬になれば人が死に、朝には片づけられる。誰も、数えない。名も、無い。そういう場所である。
そこから十三年。忍は、消えることだけで生き延びた。
ある夜、そんな男の前に、白い狩衣が立つ。
「――お前、いま、いくつだ」
安倍晴明。当代随一の陰陽師である。
その男が率いているのは、記録に残らない部隊だった。名を、六合という。六人しかいない。表に出ない仕事だけを請け負う、都のいちばん昏いところにいる連中である。
そして忍は、そこで初めて、数えることを覚える。
辻に落ちていた、名も知れぬ櫛。
橋の下で、顔を失くした鬼。
名を呼ばれなくなって、鬼になった女。
地の底で二百年、誰にも聞かれなかった声。
――全部、数えられなかったものだった。
なぜ、自分の一族は滅んだのか。
なぜ、晴明は自分を路地裏に置いたのか。
なぜ、この都は、こんなにも静かなのか。
問いは、都の下へ降りていく。
二百年ぶんの、深さへ。
そこで忍は、一つの選択をする。
封じるか。
焼くか。
――それとも、聞くか。
これは、“名前の物語”である。
呼ばれないものは、消える。
だから誰かが、呼ぶ。
第1部
第一話 隠形の子 01
2026/08/01 22:00
第一話 隠形の子 02
2026/08/01 23:00
第一話 隠形の子 03
2026/08/02 08:00
第二話 六合の門 01
2026/08/02 22:00
第二話 六合の門 02
2026/08/03 22:00
第二話 六合の門 03
2026/08/04 22:00
第三話 辻に百の目 01
2026/08/05 22:00
第三話 辻に百の目 02
2026/08/06 22:00