- あらすじ
- 七泊のスペイン旅行。語り手はスペイン語をほとんど話せないが、ラテン語の知識を頼りに看板や案内表示を読み、「指さし会話」の本を使いながら旅を楽しんでいた。
マドリードで自由時間ができた日、ほかの参加者がガイドと街を回るなか、語り手と妻は大通りの中央分離帯のような場所に設けられたバルのテラスに腰を据える。パラソルの下で大きなグラスのワインとピンチョスを楽しみ、気づけば小一時間が過ぎていた。
やがてトイレに行きたくなった語り手は、乏しいスペイン語の中から「セルビシオ?」と尋ねる。さらに「Vale」と返すと、店員は「¡Ah, vale, amigo!」と笑顔になり、親しげに案内してくれた。わずかな言葉でも通じたことが、思いのほかうれしかった。
しかし店を出たあと、皆と一緒に観光すればよかったかもしれない、と少し後悔する。集合場所へ急ぐ途中、思いがけずユダヤ人街らしい一角を通り、予定表にはなかったマドリードの別の顔を見る。
旅では、一つを選べば一つを見損なう。それでも、見逃したものの代わりにしか得られない記憶がある。マドリードと聞いて今も思い出すのは、有名な観光地ではなく、パラソルの下のワインと、店員の「アミーゴ」、そして「セルビシオ」というたった一語なのである。 - Nコード
- N6570MX
- 作者名
- 朝吹龍一朗
- キーワード
- 秋の文芸展2026 ほのぼの 西洋 現代 セルビシオ スペイン語 スペイン ピンチョス ワイン マドリード
- ジャンル
- エッセイ〔その他〕
- 掲載日
- 2026年 10月22日 21時48分
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- 文字数
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