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『声を覚えられた話』

作者:普通
最新エピソード掲載日:2026/04/21
社会人二年目の秋、俺の部屋で音がし始めた。
最初は冷蔵庫の近くから聞こえる細い音。次に、身に覚えのない写真。部屋の隅に現れる黒い染み。そして、暗闇の中で俺の名前を呼ぶ声。
職場の先輩・田中さんは言った。「返事をするな。声を出すな。お前の声を、これ以上覚えさせるな」
やがて田中さんは消えた。
俺は一人で抱えることになった。声を集めるものを。俺の名前を、漢字まで正確に知っているものを。夢の中にまで入ってくるものを。
知っている人間の顔を借りて話しかけてくるものを。
これは祓った話ではない。逃げた話でもない。声を持っていかれないように、ただ黙って、息を殺して、年を越した男の記録だ。
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