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【割烹板前短編小説】三番目の皿

作者:霧崎薫
最終エピソード掲載日:2026/10/29
 神楽坂の老舗料亭「葵屋」。

 創業九十年の看板は、会席の三皿目に出す椀物「月見椀」だ。

 常連が「三番目の皿」と呼ぶその一椀が、ある日、雑誌の記事で暴かれる。四谷の新しい割烹で、葵屋と寸分違わぬ椀が出ているというのだ。

 作り方を紙で持つのは、大女将と、ほんの数人だけ。いったい誰かが流したのだ。

 しかし翌朝、大女将は置き手紙を残して姿を消した。

「三番目の皿は湊に」

 手紙で託されたのは、入店六年目の若い板前、柚木湊。塩を秤で〇・一グラムまで量り、味見のあとは必ず料理長の顔をじっと見る、几帳面な男だった。

 大女将の行方を、若女将も料理長も語ろうとしない。やがて明かされる三枚の紙――。

 先代が遺したその言葉の本当の意味を、湊だけが知っていた。湯気が消えるまでの、わずか三秒にこそ、すべての答えがある。
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