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私のドレスを切り刻んだお母様、それ国を守る結界だったので伯爵家ごと詰みです

作者:かおるこ
最終エピソード掲載日:2026/06/07
白い布に見えたでしょう。
けれどそれは、ただのドレスではありませんでした。

一本の糸に祈りを込め、
一針ごとに願いを縫い込み、
幾つもの夜を削って紡いだ、見えない城壁でした。

誰も気づかなかったのです。

風を防ぐ壁は見えるのに、
災いを防ぐ壁は見えないから。

「地味ね」

その一言とともに振り下ろされた鋏。

しゃり、と鳴った音は布ではなく、
信頼を断ち切る音でした。

あなたは笑いました。

どうせ娘の趣味だと。
どうせ代わりがあるのだと。
どうせ壊れても困らないのだと。

けれど世の中には、
失ってからしか価値が分からないものがあります。

空気。
健康。
平和。

そして、守られていた日常。

花が枯れ、
人が病み、
屋敷に不幸が忍び寄る。

それでもなお、

「どうしてこんなことに」

と嘆くのでしょう。

答えは簡単です。

誰かが毎日、黙って支えていたから。

褒められなくても。
感謝されなくても。
存在そのものを当たり前だと思われても。

その人がいたから。

結界とは魔法だけではありません。

家族を守る人。
職場を支える人。
誰にも見えない場所で働く人。

そんな人たちの積み重ねです。

鋏は簡単に振り下ろせます。

けれど、一度切れた信頼は戻らない。

一度壊れた結界は戻らない。

だから私は去りました。

怒りではなく。
復讐でもなく。

ただ、もう守る理由がなくなったから。

やがて人々は知るのです。

失った後で。

あの地味なドレスが、
あの無口な娘が、
あの当たり前の日々が、

どれほど尊いものだったのかを。

朝日が昇る。

新しい結界が光を帯びる。

今度は誰にも壊されない場所で。

私は静かに針を持つ。

守るべきものを知る人々のために。

そして胸を張って言うのです。

「これはドレスではありません」

「未来そのものなのです」と。
第4話 再会
2026/06/07 02:55
第7話 宣告
2026/06/07 03:17
第8話 崩壊
2026/06/07 03:24
第9話 降臨
2026/06/07 03:31
第10話 夜明け
2026/06/07 03:37
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