4「重なる再会」
最も早くクレーターに到着したのは、エロメロだった。遠くから警備隊のものであろうサイレンが聞こえ、上空には報道陣のヘリが飛んでいる。
雨が降っていると言うのに、どこもかしこも騒がしい。
エロメロはヘリの方を睨み付けた。その瞬間、ヘリが突如として進行方向を変え、クレーターから遠ざかっていった。
すると警備隊の車両が幾つも現れる。
舌打ちをしたエロメロは一刻も早く、彼女の兄である『破壊神』ザンシを見つけるべくクレーターの中へと降りて行った。
シンフォニ王国の第三地区全域を吹き飛ばしたのだから、クレーターの規模は途轍もない。
エロメロはクレーターの中を進んでいく中で、ふと、とある布切れを見つけた。それを手に取る。
「そんな・・・」
瞬間、エロメロは膝から崩れ落ちた。これはザンシが着ていた服の布切れだった。
つまりザンシは――。
「お兄さま・・・!!!」
エロメロは目に涙を浮かべ、喉が焼き切れそうなほど大きな声で叫んだ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
適当に捕まえたタクシーに乗って第三地区までやってきたルノートとリオティナ。
警備隊の隊員がクレーターの前に集まる野次馬たちの対応をしていた。クレーター近くに止められた幾つもの警備隊員の車両が目に入る。
雨が酷いというのに、傘を差している者は少ない。
「あちゃあ、警備隊の連中に野次馬までいやがるな」
リオティナが面倒くさそうに溜め息を吐く。
「ったく、これじゃクレーターにまで行けねぇな」
リオティナは頭を掻きながら言うと、ふと、隣に立っていたルノートのもっと向こうを見て目を見開いた。
彼女の動きが固まったので、ルノートは気になり、リオティナが目を向ける方向を確認した。
そこには――。
狐の女と、赤い髪の――間違いない、ドミナだ。ドミナがそこにいた。
彼女と目が合う。その瞬間、ドミナはルノートの元へ駆け寄って来た。
「ドミナ、ちょっと待つのじゃ」
狐の女がドミナを呼び止める。しかし、ドミナは止まることなくルノートの側へやって来る。
ドミナが傘を捨てて、ぎゅっと飛び付くように抱き着く。
何も言わずにただ彼女は小さく震えている。ルノートはそんな彼女の背中へ手を回す。
「ドミナ、いや、まさか・・・本当に、ドミナなのか・・・」
リオティナが近くで小さく言う。
しかし、ドミナの耳に彼女の言葉は届いていなかった。
ルノートとドミナは雨に打たれながら、互いの体温をただ感じている。
この世界にいるのはドミナとルノートだけ。そう錯覚するほど、ハグの時間は長かった。
しばらくの間抱き合って、ドミナが離れる。彼女はルノートを見つめる。ルノートもまた彼女を見つめる。
視線が交わされる時、雨が少しだけ弱くなった。
野次馬とその対応に追われる警備隊員の騒がしい声も、ヴェイラの呼び止める声も、リオティナの呟く声も、何も聞こえない。
あるのは二人の飛ばす視線だけ。言葉にせずとも二人の意思は通じ合っていて、互いに顔を見合わせて、そしてゆっくりと口付けをした。
口付けが終わる。
「ドミナ・・・」
「ルノート・・・」
名前を呼び合う二人は、二人にしか感じられない独特の心地良さに包まれた。
「お前がもう一人でも大丈夫だってことくらい、私は知ってる。それでも、私は結局、お前に会いたくなってしまう」
ドミナが言いながら、またルノートの体へ抱き着く。
「とある方が私の『魂』に眠っている『てぃーく』? とやらの意識を消してくれたんだ。だから、無事にこうしてお前と会える」
「それは本当なの?」
「ああ」
するとルノートが力強くドミナを抱き返した。それに驚いて、ドミナが小さく「わっ」と声を上げる。
「良かった・・・」
ルノートが震えている。彼の震えに気付いたドミナは、優しく彼の背中を撫でた。
「本当に、良かった・・・!!」
周りの目など気にせず、ルノートは大声を上げて泣き始めた。
「ルノートは私のために一人になったんだよな。魂とかそういう訳の分からないことに縛られて」
ドミナはルノートの頭を撫でる。背はドミナの方が高い。ルノートはまだ十三歳なのだ。
「もう大丈夫だから」
ドミナは言いながら、ふと、頭の中にロクリアの姿がちらついた。途端に胸の中へちりちりと擦れるような痛みが走る。それを感じながらもドミナは我慢して、ただただルノートの背中を撫で続ける。
しばらくしてルノートが落ち着く。彼は泣き腫らした目をドミナへ向けている。
「なぁ」
ドミナは話を切り出す。
「私たち、もう一回やり直さないか」
ドミナは酷く真剣な目をしていた。ルノートは彼女の目を見て、
「僕は君を一度振った挙句に、新しく恋人を作った。君を二度振ったみたいなものなんだ。そんな最低な僕が、今更君と付き合うなんてできないよ」
「最低とか、それを言うならあたしもだ。お前が一人になった理由を知らずに執着して・・・」
するとルノートが体を離した。彼はまた一人になろうとしている。それを知ったドミナが、彼の腕を掴んだ。
「待て。ちなみに、お前の新しい恋人の変な女はどうしたんだ」
「殺した」
ルノートは間を置かずに答えた。ドミナは戸惑うも、
「そうか。でも、ちゃんと理由があってのことだもんな」
「うん。殺してと言われたから」
彼は淡々と答える。
「じゃあ私が殺してと言ったら、お前は私を殺してくれるのか」
「うん」
「じゃあ、私が死ねと言ったらお前は死ぬのか」
「そうだよ」
「じゃあ、私と死んでと言ったらお前は私と死んでくれるのか」
「もちろん」
彼の答えを聞いた途端、ドミナは薄く笑みを浮かべた。
「ああ、やっぱりそれでこそルノートだ。なあ、ルノート、やっぱり私たちやり直すべきだ。私たちは私たちで手を組み合って生きるしかない。傍から見たら私たちは『異常』なんだ。だから、な」
ドミナは力強くルノートの体を引き寄せる。
ルノートは困ったように眉を垂れさせて、ゆっくりと、確かに頷いた。
「分かった。君の魂からあの意識とやらが消えたから、一人になる理由もないしね」
「なにより」とルノートは言葉を続ける。
「僕はもう一人になりたくない。どんな時も、ドミナのことが頭を離れなかった。そう、どんな時も」
ルノートの台詞を聞いたドミナが満足げににっこりと笑みを浮かべた。
「決まりだな!」
ドミナはそう言ってもう一度ルノートを抱きしめた。ルノートも優しく抱き返してくれる。
「はぁ、全くいつまでくっついているのじゃ」
「ヴェ、ヴェイラさん! こ、これはその・・・」
ドミナが慌てて説明をしようと口を開く。
その前に――。
「ドミナ、やっぱりそうだな」
と、リオティナが口を挟んだ。彼女はドミナを見据えている。
「えっと、誰?」
「あたしはリオティナ・ローズブレイド。そうだな、オマエの家族。ああ、姉と言った方が分かりやすいか」
ドミナは目を見開いた。
「私の、家族・・・」
ただその一言が、野次馬の騒音に溶けるように散って行った。




