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ritard. ――リタルダンド――   作者: 花厳 幽花
復讐の影編 第5章「再会を夢見て」

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3「魂操術」

『テンペスト』の元にロクリア・シンフォニの遺体が運ばれてきた。『夜の蜘蛛』の下に付くことを決めた対価だ。


 棺に入るロクリアの姿は、生前と変わっていないような、そんな綺麗な見た目をしていた。服も仕立てられて、まるで葬式前の遺体のよう。


 アデラの部屋、棺が運び込まれたそこでヴェイラとイデラに見守られながら、彼女はロクリアに触れた。

 白いオーラのようなものがロクリアの体を包んでいる。これが、アデラの『魔力』だ。


 アデラは手を翳(かざ)し、魔力を吸い取る。


 ロクリアは相変わらず生前のように綺麗な体をしたまま、オーラだけが消えた。


「これで・・・」


 アデラは呟きながら、イデラとヴェイラに目配せをする。その意思を汲み取った二人はゆっくりと頷く。


「ロクリアの遺体を頼むわ。私はドミナのところへ行く。そして『魂操術』を使って、ティークの意識を魂から消滅させる」


 アデラは二人にそう言って、部屋を出た。そしてドミナのいる部屋へと向かう。

 ドアをノックする。


「開けるわよ」


 そう言ってドアを開けると、ドミナがベッドの上で体を起こしている姿が目に入った。

 彼女は何か考え事でもしているのか曇った表情をしている。


「アデラか。一体、どうした」

「前と同じく『魂操術』をしに来たの」

「そうか」


 ドミナは寝転ぶ。


「今すぐやるんだよな」

「ええ」


 ドミナはそれから目を瞑った。そんな彼女の元へ歩み寄って、アデラは額に触れる。

 するとドミナの胸元に白い球体が出てきた。意識を失ったのか、ドミナはすうすうと静かに寝息を立てている。


 アデラは白い球体に触れる。その途端、アデラの手は白い光に包まれた。手を離し、ベッドの側に椅子を持ってきて、アデラはそこに座ると目を閉じる。


 アデラの意識は魂の中へ入っていく。完全に成熟してしまった肉体を持つ者の魂を『魂操術』で操作するには、ちょっとばかし手順が変わる。

 未成熟の肉体を持つ対象――要するに子供などの場合は、球体に触れるだけで操作できるのだが、大人の場合は違う。大人の場合、『魂操術』を使うには球体に触れた後に瞑想をし、その中に入らなければならない。


 この球体とやらは、魂だ。魂は体から飛び出して、丁度心臓の位置に浮かび上がる。


 アデラは目を瞑ってから、深呼吸を繰り返す。しばらくすると世界が変わった。


 世界はとある丘の上にあった。広大な丘の上に立つアデラは、目の前にいる男女を確認する。

 赤い髪の小さな少年と、藍色の髪をした小さな少女。少年の名はティーク、少女の名はミュゼリアという。

 ティークは『神殺し』として知られる少年であり、長く神々を苦しめた存在である。

 ミュゼリアは半神半人ということで、神々の間でタブーとされる人間との交わりによって生まれた者である。彼女は親である神に捨てられ、それを怨んでいる。


 アデラは拳を握った。少年の元へ歩み寄り、


「えいっ!」


 少年の顔面を思い切り殴りつけた。少年は靄のように散らばって消滅する。

 世界はまた変わった。


 今度は真っ白な世界。何もなく、ただぽつりとアデラが立ち尽くしているのみ。


 背後から黒い影が迫ってきている。この影はティークの意識による、アデラへの攻撃だ。意識は消されないよう抗う。


 この影に呑まれてしまえば、アデラは死ぬ。


 この世界のどこかに存在する、ティークの意識を探し出してそれを壊さなければならない。見た目はドミナの胸元に浮かんでいた球体と同じ。


 アデラは走る。空間を少し進むと、その球体は見えた。


 剥き出しのままふわふわと浮かんでいる。


 アデラは球体を握った。とてもかたい。


 力をぎゅっと込める。球体にひびが入った。それと同時に影の迫り来るスピードも速くなった。

 アデラは急いでさらに力を入れる。


 ついに球体は割れた。瞬間、目の前が真っ暗になった。


 そうしてアデラの意識は現実へと引き戻される。終わった。これでドミナの魂に眠るティークの意識は完全に消滅した。


 勇者――ティークの意識を継いだ者はこの世界であと一人、魔王の意識を継いだ者はあと二人。


 アデラは考える。


 決してアデラはウツグの計画を邪魔したいわけではない。なのになぜ、こんなことをしている。

 ウツグと協力していたはずなのに。どうしてか、ドミナを計画から救ってしまった。


 目を開いて、アデラはドミナの側へ。彼女の額に触れると同時に、光が胸の中へ入っていった。

 その後数分ほどしてドミナが目を覚ました。


 彼女はぼうっとした様子で起き上がって、アデラを見つめる。


「終わったのか」

「終わったわよ」

「これで・・・」


 ドミナの顔がみるみる笑顔に染まっていく。


「これでルノートに会えるな」


 アデラは彼女に『魂操術』を行えば、ルノートと再会できると言ってある。だからこそ、ドミナは嬉しいのだろう。彼との再会を夢見るように、笑顔まで浮かべて。


 ふと、アデラは自身も笑みを浮かべていることに気付く。


 どうしてだろうか。

 やはり、アデラが彼女にデサイアの姿を重ねているせいなのだろうか。


「アデラ」

「どうしたの?」

「ここに、行ってもいいか?」


ドミナは枕元に置いていたスマートフォンを手に取り、とある画像をアデラへ見せた。


それはこのシンフォニ王国の第三地区にできた巨大なクレーターだった。


アデラは大きく目を見開く。


「これは・・・」


ここまでの大災害を引き起こすことができるのは、神かそれ以上の存在だ。アデラは思い当たる節を幾つか浮かべる。

その中で最も可能性が高いのが、『殫嗟璱魔』だった。


「行くなら、ヴェイラを連れて行きなさい」


アデラはそう言ってドミナの返事を待つ。


「ああ。それで頼む」

「決まりね」


アデラとドミナは顔を見合わせて、緩やかな笑みを浮かべた。


「ここに行けば、あいつに会える気がするんだ」


ドミナはそう言ってベッドを降りる。

彼女の表情は笑みから一変、真剣に。


アデラはこくりと頷く。


「行ってらっしゃい」


ドミナがドアを開けて通路へ出ると、すでに部屋の近くでヴェイラが待機していた。


「待っていたのじゃ、ボス。そしてドミナ。話は聞いておる」

「盗み聞きしたのかしら、ヴェイラ」

「いえ、そ、そういう訳じゃ・・・」


ヴェイラが慌ててぶんぶんと手を横に振る。


「まあいいわ。ヴェイラ、ドミナの護衛を頼むわね」

「畏まりましたのじゃ」


ヴェイラとドミナがここ、『テンペスト』本拠地を去っていく後ろ姿を、アデラはただじっと眺めていた。

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― 新着の感想 ―
読了しました!! アデラ、良い選択をしたと私は思います(*´ω`*) クレーターに集結する全員!! そろそろドミナとルノートが再会しそうな予感!! わぁぁぁぁ、次回も楽しみです!
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