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名札のない微熱

作者:reika1021
最終エピソード掲載日:2026/06/19
東京・有明。展示会やイベントが終わった後の会場を片付ける会社で、瀬戸内朱里は外された看板や名札、床に残るテープ跡を消している。朝にはまだ人の熱が残る空間も、夜には何もなかったかのように元に戻る。

職場では誰も必要以上に名前を呼ばないが、朱里は先輩の真砂朔也が置く荷物の位置や短い指示の声、危ない場所で少しだけ変わる立ち位置に少しずつ心を残していく。

名前も看板も企業名も外されていく仕事の中で、朱里の胸には朔也の声だけが消えずに残る。雨の搬入口、名札の箱、広い会場の白い床。そのたびに呼べば届く距離なのに、呼べない名前が沈黙の奥で熱を持つ。

最後の撤収を終えた夜、何も残っていないはずの帰り道で朱里は初めて彼の名前を口にする。それは告白よりも静かなものだった。しかし、もう仕事の距離には戻れない。名札のない恋の始まりだった。消された名前の跡に声だけが、明日の光を残していく。
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