雪解けの誓い
それから一年後の春、王都のヴァイスハイト公爵邸には、かつてないほど多くの人々が集まっていた。北部同盟に名を連ねる貴族たちはもちろん、銀嶺辺境伯領からも、多くの祝いの客が訪れていた。
会場となった大広間には、雪渓領から特別に取り寄せられた氷細工の装飾が飾られ、陽光を受けてきらきらと輝いていた。祭壇の前に立つモナークの姿は、かつての冷たさが嘘のように、穏やかで満ち足りたものだった。
「誓いますか」
司祭の問いかけに、モナークは迷いのない声で答えた。
「誓います。スカーレット、これから先の人生、貴女の隣で、貴女とともに歩んでいくことを」
「私も誓います。モナーク様、そしてこれから紡いでいく銀嶺と公爵領、両方の民のために、共に歩んでまいります」
二人の誓いに、広間からは万雷の拍手が沸き起こった。
会場の最前列には、すっかり健康を取り戻したセドリックの姿があった。艶やかな銀髪と、生き生きとした瞳。彼は誰よりも嬉しそうに、兄と義理の姉となる女性の門出を見守っていた。
「セドリック様は、本当にこれで良かったのですか」
隣に座っていたヴォルフが、そっと尋ねた。セドリックは晴れやかに笑って答えた。
「もちろんです。私は今、生まれて初めて、自分自身の人生を歩き始めたところなのですから」
実際、セドリックはこの一年の間に、目覚ましい回復を遂げていた。今では、隣国の王立魔導院への留学を控えているという。長年封じられていた稀少な氷雪属性の魔力は、専門家たちの間でも大きな話題となっており、彼はこれから、自らの意志で、自らの才能を磨いていくつもりだった。
ゴドウィンによって騙されていた家々には、公爵家から正式な謝罪と、相応の賠償がなされた。雪渓領の会計は本邸の厳重な監査下に置かれることとなり、二度と同じ過ちが繰り返されることのないよう、新たな仕組みが整えられていった。銀嶺辺境伯領の東の谷の採掘権も、もちろん元通り、ラングドン家のものとして守られていた。
披露宴が終わりに近づいた頃、モナークはそっとスカーレットの手を取り、人混みを離れてバルコニーへと連れ出した。夜空には、澄み渡った星々が瞬いている。
「スカーレット」
「はい」
「思えば、あの召喚状を送りつけた日、俺はまさか、貴女がこうして俺の妻になる日が来るとは、夢にも思っていなかった」
「私もでございます」スカーレットは微笑んだ。
「あの日の私は、ただ真実が知りたかっただけ。でも、その真実の先に、こんなにも大切な人が待っていてくれるとは、思ってもみませんでした」
「セドリックには、感謝してもしきれない。あいつの優しさがなければ、俺は自分の気持ちに、いつまでも蓋をしていたかもしれない」
「セドリック様は、きっとこれから、ご自身の輝かしい道を歩まれることでしょう」
「ああ。……それに」
モナークはスカーレットの手を、そっと強く握った。
「俺たちも、これから何十年もかけて、この北の地に春を届け続けよう」
「はい。あなたと一緒に」
二人の笑い声が、夜風に溶けていった。
長く厳しい冬を越えた北の地には、確かな春が訪れていた。
そしてそれは、これから先も、彼らの歩む道を、そしてセドリックが新たに踏み出す道を、静かに照らし続けることだろう。




