その展開、現実では困ります
さくっと読める掌編。
①~⑤まである。
――――――――――――
①ある騎士志望の女子学生
――――――――――――
※自サバ女は真面目にしている女子学生にとって傍迷惑の例
王立貴族学園の騎士科に入学することは決まっていた。
マローネ伯爵家は代々騎士を排出している家系で、男女関係なく騎士になる道を選ぶ。学園が設立されてからは当然のように騎士科を選んできた。
卒業後、騎士団に入り最後まで勤めあげるものもいれば、途中で転向することもあるけれど、最初から諦める道はなかった。
ミレイユも慣例通り騎士科に入ってからは目標を王宮騎士団の中の近衛騎士部隊に定めた。女性王族の護衛は女性騎士にとって目指したい高みである。次いで貴族女性の護衛で、特に高位貴族の夫人や令嬢の護衛だろうか。
伯爵家の生まれと言えど騎士になることを優先したため、淑女教育が疎かになっていたミレイユは、基礎学科の他に選択学科として選べる中から淑女科との合同作法講義を選んだ。
王族とまでは言わないが、高位貴族の令嬢達の立ち居振る舞いを学ぶことや、時にダンスパートナーとして男性パートを踊ることも女性騎士には求められるからだ。
おかげで、何人もの令嬢と知り合うことが出来たし、護衛業務のシミュレーションも出来た。
騎士科の女子生徒が今年度は十五名で、その内十四名は同じような理由で講義を選んだが、一人だけは違った。
子爵家出身の彼女は同じ女子生徒よりも男子生徒のところに混ざりに行くのだ。それは好きにすればいい。
問題は、彼女が「私、サバサバしてるから女子に嫌われてるみたい」と言っていることだ。
確かに嫌いだが、彼女がサバサバしているからではない。明らさまに男狙いの言動しかしないからだ。そして自分以外の女を貶めているからだ。
「ミレイユ様。騎士科に、その……わたくしの婚約者に節操なく付きまとう方がいると聞いたのですがご存知ですか?」
講義の時、一人の令嬢から問われたミレイユは額に手を当て天を見上げたくなった。
その婚約者の名を聞いた後、一度頷いた。
「確かにおりますが彼はあしらっております。そもそも、誰も相手にしておりません」
「そうなの?」
「はい。男には男の、女には女の領分があります。例えば私は苦手なのですが、女性であればやはり流行のドレス、人気のデザートや装飾品などのお話で盛り上がりますよね? ファッションに聡い令息もおりますが、やはり大半の男にとってそのような話題は立ち入ろうとはしません。逆もまた然り。男同士、女同士だからこその関係があるのですが……」
「ですが?」
「彼女はそれを弁えておりません。男として扱えば良いと言いながら化粧は必ず施し、体のラインがわかるような服を着て、女であることを見せつける。言動に矛盾しかないのです」
「まあ、そうね」
「貴族科の令息は分かりかねますが、騎士科の男達は回りくどい物言いはあまりしません。緊急時、即座に言葉を共有するためです。すなわち、物言いが端的で、容赦がない。愛しい婚約者には格好付けの物言いをしますが、それは婚約者が大事だからです。そうでなければ容赦が無く、彼女に対して彼は言いました」
「な、何を仰ったの?」
「男漁りしに来てんじゃねぇよ。つぅか、俺にはとても可愛くて最高の婚約者がいるんだよ。誤解されたらどうすんだ。そうなったら許さないからな。です」
「まぁ……わ、わたくしのことを可愛い、と?」
「はい」
頬を真っ赤に染めて照れる令嬢は確かに可愛い。奴は本当に婚約者が大事なのだろう。
「私達、女子生徒は女だからこそ高貴な方々のお傍を許されるのです。その女を否定して男のように扱えなど言えません。もしも本当に男だとしたら、高貴な女性のお傍に近寄ることもできないでしょう」
席を立つ令嬢に手を差し出す。普段から剣を振るうためにたこがあるミレイユの手と違う、白く滑らかで柔らかい肌。嫋やかで美しい令嬢達はミレイユにとって守る対象である。
「どうぞ、一人だけを見て誤解していただきたくはないのです」
「ええ、分かっておりますわ。騎士科の皆様は、同じ女でもときめくほど麗しいのですもの」
微笑むその笑顔に安堵しながらミレイユは彼女をエスコートした。
――――――――――――
②ある病弱な幼馴染がいる令息
――――――――――――
※病弱な幼馴染を選ぶ後継者は家を潰したいとしか思えない例
手紙を受け取り僕は溜息を吐いた。
手紙の送り主は幼い頃に交流があった男爵家の令嬢で、領地から王都に出てきたので会いたいというものであった。
その手紙は既に五回目。
親を通じて送らないで欲しいと伝えたはずなのにまた送られてきたのは理解が出来ない。
確かに彼女とは領地で生活していた頃に交流はあった。だがそれだけの話だ。
侯爵家に生まれ育ち、後継者として本格的に教育がなされる前までの付き合いである。
広義の意味で幼馴染と言えるだろうが友人でもなんでもない顔見知りでしかない。
彼女が十五歳まで領地から出たことがないのは体が弱いからだったはずで、しかし出てきたということは回復したのか、それとも治療をこちらでするのか。正直どちらでも関係ないし興味もない。
「父上に回してくれ。今日はシェリーとデートだから煩わされたくないんだ」
「畏まりました」
侍従に手渡せば後はもうどうでも良いことだ。
婚約者のシェリーとは定期的に顔を合わせているが、今日は特に楽しみにしていた。彼女が好きな作家の舞台のチケットが取れたのだ。中々手に入らない一枚だからこそ遅刻など出来ない。
屋敷まで迎えに行くので花を用意しようかと思ったけれど、それよりも劇場のボックス席を押さえているからそこで花を模したアクセサリーを手渡そう、なんて考えていた。
シェリーと合流してボックス席に入り、プレゼントを渡すととても喜んでくれてそれが嬉しい。
その後開演までの間の場繋ぎに例の幼馴染からの手紙の話をすると、シェリーが頬に手を当てて小さく笑った。
「最近流行りの物語みたいだわ」
「物語?」
「そうよ。病弱な幼馴染に呼ばれると直ぐにそちらを優先する令息。婚約者の令嬢はその不義理さから婚約を解消するのよ」
「へぇ。でも、現実的では無いよね」
「そうかしら」
「そうだよ。病弱なんだろう?その幼馴染は。健康に不安がある女性を結婚相手として選ぶのは後継者問題的に難しいだろうに」
「ふふ。そうね。貴方の幼馴染もそれを考えて呼んだのではないかしら?」
「困るよね。長く交流もしてこなかった人と今更、ね。そんな時間よりも僕はシェリーと一緒にいたいよ」
「まあ。嬉しいわ」
やはり僕の婚約者は可愛い。
彼女に言われて幼馴染が僕のことを狙っているのかもしれないと考えたけれど、やはりないな。
僕は侯爵家の嫡男で血を繋ぐ義務がある。病弱な女性はまず選択肢にない。それに、男爵家の娘など貴賤結婚に近い。爵位に差がありすぎる。
侯爵家に必要な教養も持ち合わせていないだろう。
現実は物語とは違う。馬鹿なことをする男はただの馬鹿でしかない。
舞台が開幕し、そのことについて考えるのはもう辞めた。
――――――――――――
③ある平凡な貴族令嬢
――――――――――――
※転生者って傍から見たらただの変人の例
私と同じクラスにいるアドレア侯爵家のご令嬢ロザリンド様は、私が言うと不敬かもしれないのだけど、変な方だ。
時折意味のわからないことを仰ったり、令息の顔を見て引き攣った表情をしたり、剰え殿下を避けているのだ。
殿下を避けると言うよりも視界に入れないように逃げているというか。
ただ、自分では上手く分からないようにしていても周りは見ているし本人だって気付いている。
殿下の心象はあまり良くない。
そして、何よりも「この方、大丈夫かしら」と思ったことがある。
『アレクシスの婚約者にならないようにしないと』
これは人気のないところで言っていて、偶々私が彼女から見えない場所を歩いていて聞いてしまったことだけど。
何を言っているのだろうか。
そもそも殿下を呼び捨てなど有り得ないのに。
他にも殿下のご学友の名前を呼び捨てにしていて、大丈夫なのかしらと不安になる。
殿下には婚約者がいるのだからロザリンド様が選ばれるも何も、そんな機会は無いのに。何を仰っているのかしら。
それだけではないわ。
下位クラスにも変な子がいるみたいで、何か病気でも流行っているのかしら。そちらはそちらで殿下や令息に近付こうとしているみたいだし、ロザリンド様を『悪役令嬢』とやらで呼んでいるみたい。
今年度の入学に変な方が二人もいるなんて嫌だわ。
私は平穏が好きなのよ。だから、落ち着いて穏やかな貴族らしい上辺を取り繕ったような日々になりますように。
――――――――――――
④ある公爵令嬢
――――――――――――
※婚約破棄された後、他国の王子にプロポーズされる展開について
ええ、読ませてもらったわ。貴方に薦められた物語、読み物としては中々ね。
この話をどう思うか、って?
そうね……登場人物全員が愚かすぎたわね。
ごめんなさい。ほら、わたくしは他国に嫁ぐ予定でしょう?だから余計にそう思うのよ。
ふふ、知りたいのね。いいわよ。教えましょう。
まず、自国の王子。全てにおいて愚かであるし、それは分かるわね?
王子が教養のない男爵家の娘を妃にするなど国を滅ぼしたいのかしら。まともな妃にならないことは分かるでしょう?
次に公爵令嬢。既に王太子妃教育を終わらせていたわね。つまり、国内の情報をその頭に詰め込んでいる状態で他国に行くということは情報漏洩に繋がるわ。そもそも、婚前に王太子妃教育を開始していることもおかしいのだけれど。
そうよ。王子妃教育までは貴族令嬢の淑女教育を更に洗練させたものになるし、学ぶことも増えるけれど、国政に関わりがないことまでだから問題は無いの。
洗練された淑女ね、で終わる程度だわ。
でも王太子妃教育は違うわ。国の重要な内部のことを学ぶから、婚約が解消される可能性も考えて婚姻後に行うことが通例なの。その時点で物語とは違うでしょう?
まあ、王家の事とかを普通の人は知らないだろうし、作者も知らなかったのは無理もないわ。この大陸の王家的には常識なのだけれどね。
分かっていて他国に行くのであれば、それは最早国への反逆行為だわ。
そして他国の王子。この男が一番有り得ないわ。仮に捨てられた令嬢だとしても、国にとっては大事な存在。それを国を通さずに求婚した挙句に連れ去る。これは最早戦争が起きても仕方のない暴挙よ。
ロマンも何もないわ。わたくし、いつ開戦の宣言が始まるのかどきどきしていたのよ。まあ、物語だから溺愛生活になっていたけれど。
ええ。わたくしは他国の王太子に嫁ぐわ。小国だけど、王女殿下の数が不足しているもの。陛下の養子になり、身分を王女にして嫁ぐことになるわね。
先方の国から教師が派遣されて学習したから、わたくしはこの国の内部のことは知らないし、知らないようにされていたのよ。
だから王城にも滅多に行ったことがないわね。わたくしが経路などを把握しないようにするためよ。
王女殿下も恐らくは隠し通路などはご存知ないでしょうね。王家から離れる方に知識を与えないために。そういうものよ。
中から出ていけるということは外からも侵入が出来るもの。
読み物としては中々だったけれど、非現実的すぎて現実がそこにあるわたくしには合わなかったわ。
そうね。今日が最後のお茶会になるわね。お元気でいてね。
――――――――――――
⑤ある婚約解消をした令息
――――――――――――
八年続いた婚約を解消した。理由は政略的な意味が無くなったからだ。
元々この婚約は、第一王子と侯爵令嬢の婚約に基づき、その関連から結ばれたものだった。
貴族の婚約は感情ではなく利益が基礎となるため、婚約締結の場で初めて顔を合わせてから人間関係が始まる。
八年もあれば交流の回数もそれなりになり、燃え上がるような熱はなくとも長く共にいるには十分な時間だった。
それが崩れたのは、大国の王女が我が国の第一王子と結婚したいと言い出したためだ。
小国ではないが大国でもない我が国の王は、十年続いて来年には結婚する二人の婚約を継続させたくとも退けるだけの力が無かった。
大国の王はその王女を溺愛しており、我儘を叶えるために我が国へ武力を背景に無理を押し通した。
国民から見ても第一王子と侯爵令嬢は思いあっていて、見るだけで幸せになるような笑顔を見せていた二人の別れに涙した。
それでも大国の王女の輿入れを祝うしかなかったのだが、王女は侯爵令嬢が傍にいることを不満に思い、早く誰かに嫁がせろと命じたのだ。
自分が破局させたのにも関わらず、更に追い打ちを掛けるように「南の辺境伯の元へ嫁がせなさい」などと命じるそのまま厚かましく、非道な言動に誰もが拳を握りしめた。
南の辺境伯とは老年の男性で、妻は病を得て神の元へ旅立っている。
代替わりはまもなくというところでの命令に、辺境伯は断ろうとしたが、しかし最終的に受け入れた。
第一王子と侯爵令嬢の婚約が無くなり、侯爵令嬢が辺境伯と結びついたことで結婚しているところは直ぐには動かせないが、していないところの婚約が変わった。
それだけの話だ。
「本当は……いやです」
「ああ。俺もだ」
「何故……何故、こんなことに……」
震える体を最後だからと抱き締める。部屋の扉は開けられているが、中には二人しかいない。
政略に伴う婚約だ。だが、時間と共に作り上げた関係がある。互いに思いを交わし合った。しかし、貴族の間ではバランスが求められる。
「君に残酷な願いを告げてもいいかな」
「はい」
「早くて一年。それよりも長くなるとは思う。けれども、待っていて欲しい」
「……待ちます。私は、貴方しか要らないのです」
南の辺境伯の孫が侯爵令嬢の妹と婚約していたことをあの王女は知らなかったのだろう。
姉が祖父と結婚するならば、妹は孫と結婚出来るわけがない。
「必ず君を迎えに行く。だから、療養として領地に籠っていて」
「ええ。待っています」
王女は輿入れの為に我が国に来ている。婚約から結婚までは一年以上空けねばならず、婚約者だと言って横暴に振舞っているようだ。
一年。それが勝負の時間だ。
王女の後ろ盾は父王しかない。故に、その牙城を崩す。
大国の側室の一人が祖母の姪であることはあまり知られていないようだが、これもまた運命なのだろう。
俺は知っている。王女の生母は側室の一人で国王の寵姫。それを王妃や他の側室が疎ましく思っていることを。王太子である王妃の息子が国王を殺したいほど憎んでいることを。
我が辺境伯領は南部に位置し、砂漠の民と交流がある。そしてこの手には砂漠の民の秘毒がある。七日七晩苦しみぬいて死ぬ拷問の為の無味無臭の毒。
その秘毒は砂漠の民を救った際に貰ったものだ。感謝の印が毒なのはいかがなものかと思ったが、この時のためだったのだろう。
祖父は妻にと言われた侯爵令嬢の純潔を維持するため、同じ屋敷に住むことはしていない。常に多くの侍女を傍に置き、辺境伯騎士団の中の女性を護衛に置いている。
婚姻の誓約書の提出も遅らせているので未だ夫婦ではない。
諦めたように見せかけて誰もが諦めていないのだ。それは第一王子も、国王すら、本来あるべき形に戻ることを諦めていない。
だから、この毒を確かに送り届けよう。
後ろ盾のなくなった王女であれば排除出来る。
父王に愛されていることしかその身を守る盾のない王女。お前の我儘がお前を破滅させると知るがいい。
⑤は本当は少し違ったのだけど、他国の王女が脳内に割り込んできた結果こうなった。
これだけは一つの作品にした方が良さげだったし、敢えて余韻を残したこの長さでも良いかもと思った。
①~④まではテンプレに対しての第三者意見。
⑤は、ほら、他国の王女に惚れられて、みたいな展開の結果どこかで歪みが出た感じの話です。




