ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

婚約者の公爵様は、夜になると二人いる ~見分けようとするほど「なぜ知っている?」と問い詰められます~

あらすじ
 三年間、月に一度。わたしは婚約者の公爵閣下と、四半刻だけ向かい合ってきました。

 話は続きません。贈り物はありません。お手紙は三行です。

 だからわたしは、そのすべてを手帳に書き留めてきました。日付、場所、時間、話題、所見。婚約破棄の理由書に添えるための、〈面会記録〉三十四項。

 ――愛されていない、という証拠です。

 北の雪を越えて、破棄状を届けに参りました。扉が開きます。

 同じ顔が、二つ、こちらを見ていました。

「ミリアム。よく来てくれた」

「ミリアム。……よく、来てくれた」

 同じ声。同じ背丈。左肩に同じ矢の古傷。王立鑑定院の鑑定官は、水盤を三度覗いてから、こう申しました。

「二人とも、ヴァルベルクの当主にございます」

 ――日が昇れば、公爵閣下はお一人です。日が落ちれば、お二人になります。

 しかも昼の閣下は、夜のことを何ひとつ覚えておいでではありません。

 十日のうちに本人を指さねば、家の魔術がお二人とも消してしまう。そして指せるのは、婚約の証書に連署した、わたしひとりでした。

 破棄状は出せません。出せば資格を失い、二人とも消えます。

 こうしてわたしは、別れに来た男を、毎晩ひとつずつ調べることになりました。

 筆跡。古傷。従者の証言。同じ問いへの答え。手紙の折り方。

 ――そして、そのどれもが、翌日には決め手を失います。

 当たり前でした。三年間、月に一度の面会は――すべて、昼だったのですから。

 けれど調べるほど、三年ぶんの〈面会記録〉が違う顔を見せはじめました。

 話が続かなかったのではない。この人は、返事を考えすぎて黙っていた。

 悲しいときだけ、右手で左の袖を握る。

 わたしがそれを口にするたび、片方の閣下は、ひどく怯えた目でこうおっしゃるのです。

「……なぜ、あなたは。私のことを、そこまで知っている」

 もう片方は、三年間ひとことも聞けなかった言葉を、まっすぐに口にします。

「あなたに会う日は、前の晩、眠れなかった」

 甘い言葉を言うほうが、本物とは限りません。

 これは、偽物を当てて終わる話ではありません。

 ――本物のほうが、恋を、どこかに置いてきてしまった話です。
Nコード
N7236MN
作者名
くらたん
キーワード
BK小説大賞2 集英社小説大賞7 コミックルーム大賞 アイリスIF9大賞 ESN大賞11 女主人公 ハッピーエンド 婚約破棄 ミステリー すれ違い
ジャンル
異世界〔恋愛〕
掲載日
2026年 07月30日 09時45分
最新掲載日
2026年 07月30日 14時48分
感想
0件
レビュー
0件
ブックマーク登録
1件
総合評価
2pt
評価ポイント
0pt
感想受付
受け付ける
※ログイン必須
レビュー受付
受け付ける
※ログイン必須
誤字報告受付
受け付ける
※ログイン必須
開示設定
開示中
文字数
6,371文字
作品を読む
スマートフォンで読みたい方はQRコードから

同一作者の作品

N2792MO| 作品情報| 連載(全10エピソード) | 異世界〔恋愛〕
 「すまない。ネーヴェが発作を起こした」  婚約披露の朝に届いた書き置きは、これで三度目でした。  王立薬院の薬師ノエラ・ハースは、怒りませんでした。怒る代わりに、往診鞄を持ちました。  十年、病室の外へ出ていない//
N0441MO| 作品情報| 連載(全6エピソード) | 異世界〔恋愛〕
 十日に一度、空が歪んで、箱が降ってきます。  ツヅラ村がそれを受け取りはじめて十一年。岩に刻んだ数は、三百八十七。中身は食べ物、布、油、薬。そして必ず、読めない字の札が貼ってあります。  読めるのは、わたしひとりで//
N0754MO| 作品情報| 連載(全3エピソード) | 異世界〔恋愛〕
 〈晴れ女〉と申します。  進水式に、棟上げに、船出に、契約の席に。十九年、二百三十一回、わたくしは座らされて微笑んで「本日は、よき日にございます」と申し上げてまいりました。走ったことはございません。転んで傷がつくと、//
N7890MN| 作品情報| 連載(全3エピソード) | ハイファンタジー〔ファンタジー〕
 城塞都市ラウテンブルクでは、十人のうち二人しか字が読めない。  だから門前広場の西の隅、樫の机ひとつが、この街でいちばん忙しい場所になる。代書屋テレーゼ・ヴァイラント、三十一歳。願い書、借用の証文、詫び状、遺言、そし//
N7236MN| 作品情報| 連載(全2エピソード) | 異世界〔恋愛〕
 三年間、月に一度。わたしは婚約者の公爵閣下と、四半刻だけ向かい合ってきました。  話は続きません。贈り物はありません。お手紙は三行です。  だからわたしは、そのすべてを手帳に書き留めてきました。日付、場所、時間、話//
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ