↓ ↑ページトップへ

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

やさしさの意味を知るまで

あらすじ
朝の清澄白河には、昨日までの夜を薄く溶かしたような光が残っている。駅へ向かう人の足音、まだ開ききらない店の扉、川の上を渡る湿った風。そのどれもが、時任澄伽にとっては見慣れた一日の始まりだった。

二十六歳。東京の生活にも仕事にもそれなりに慣れた。誰かに頼らなくても朝は来るし、疲れていても会社へ行ける。少しくらい無理をしたところで、誰にも気づかれないと思っていた。

月岡燈真だけを除いて。

同じ会社で働くひとつ年上の男で、気を遣わずに話せて冗談も言えてたまに帰り道が重なる、友人と呼ぶには少し近く恋と呼ぶには何も始まっていない関係だった。

澄伽がいつも選ぶ飲み物を覚えていることも、疲れた日にだけ歩く速度が少し遅くなることも、雨の日にはいつの間にか傘の乾いた側へ自分がいることも、ずっと燈真の性格なのだと思っていた。誰にでもそうなのだろうと、それ以上の意味を探したことはなかった。

ある朝、澄伽は体調の悪さを隠したまま仕事へ向かった。自分でも大したことではないと思っていた違和感に、燈真だけが気づいた。

理由を問い詰めるでもなく、心配を押しつけるでもなく、飲み物を差し出し、仕事を少しだけ軽くし、帰れる時間を自然に作る。その優しさはあまりにもいつも通りで、だからこそ夜になってから澄伽の胸に残った。

どうして、あの人だけわかったんだろう。

その小さな疑問を境に、何でもなかった日々が少しずつ形を変え始める。

今まで見落としていたものを拾い直すたび、澄伽は気づいてしまう。優しさには向きがあり、自分にだけ向けられていたものがあったのかもしれないと。

けれど、恋だと認めることは、今までの関係を失う怖さを知ることでもある。

澄伽が言えないのは「好き」ではない。

あなたがいないと寂しい、ということ。

そして燈真が言えないのもまた、「好き」ではなかった。

君にだけしている、ということ。

言葉にならないまま積み重なった気遣いと、何でもない会話のあとに残る沈黙。清澄白河から門前仲町へ続く見慣れた道で、同じはずの日常が少しずつ違って見えていく。

これは、恋が突然始まる物語ではない。

もう始まっていた恋にあとから気づいていく物語。

何でもない日に受け取った小さな優しさが、いつか特別な存在にしていたことを知るまでの、東京の静かな純愛です。
Nコード
N4537MS
作者名
reika1021
キーワード
アイリスIF9大賞 ESN大賞11 なろうフェス2026 現代
ジャンル
現実世界〔恋愛〕
掲載日
2026年 10月23日 12時00分
最終掲載日
2026年 10月23日 16時30分
感想
0件
レビュー
0件
ブックマーク登録
1件
総合評価
2pt
評価ポイント
0pt
感想受付
受け付ける
※ログイン必須
レビュー受付
受け付ける
※ログイン必須
誤字報告受付
受け付ける
※ログイン必須
開示設定
開示中
文字数
72,924文字
作品を読む
スマートフォンで読みたい方はQRコードから

同一作者の作品

N8573MS| 作品情報| 完結済(全10エピソード) | 現実世界〔恋愛〕
朝、日本橋のオフィスに着くと、薄明千景の机にはいつも飲み物が置かれている。自分で頼んだわけでも、約束したわけでもないのに、それはいつからか当たり前になっていて、千景も「ありがとう」と言うだけで、その小さな優しさの意味を考//
N4537MS| 作品情報| 完結済(全10エピソード) | 現実世界〔恋愛〕
朝の清澄白河には、昨日までの夜を薄く溶かしたような光が残っている。駅へ向かう人の足音、まだ開ききらない店の扉、川の上を渡る湿った風。そのどれもが、時任澄伽にとっては見慣れた一日の始まりだった。 二十六歳。東京の生活にも//
N8972MR| 作品情報| 完結済(全10エピソード) | 現実世界〔恋愛〕
毎週金曜日になると、会う約束をした覚えもないのに、いつの間にか同じ人と食事をするようになっていた。 水瀬紬、二十七歳。Webメディア企業で働く彼女には、友達と呼ぶには近すぎて、恋人と呼ぶには何かが足りない男がいる。青木//
N9711MQ| 作品情報| 完結済(全10エピソード) | 現実世界〔恋愛〕
毎朝、品川駅の人波の中で、白群乃依はひとりの姿を探している。同じ会社の別部署で働く雪代透青は、待ち合わせをしているわけでもないのに、気づけば朝の景色の中にいる人だった。 透青は誰にでも優しい。困っている人がいれば自然に//
N3542MQ| 作品情報| 完結済(全10エピソード) | 現実世界〔恋愛〕
春の朝、いつもそこにいるはずの人がいなかった。 それだけのことだったはずなのに、冬凪澄依は駅に向かう坂道で何度も顔を上げた。曲がり角にも、小さな店の前にも、見慣れた背中はない。約束をしていたわけでもないし、待っていたつ//
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。