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会えない朝に恋を知った

作者:reika1021
最終エピソード掲載日:2026/10/09
毎朝、品川駅の人波の中で、白群乃依はひとりの姿を探している。同じ会社の別部署で働く雪代透青は、待ち合わせをしているわけでもないのに、気づけば朝の景色の中にいる人だった。

透青は誰にでも優しい。困っている人がいれば自然に手を差し伸べ、相手によって態度を変えることもない。だから、乃依だけが特別だと思える理由などどこにもない。それでも、改札の向こうに彼を見つけると、その日の朝だけが少し整って見える。

だから乃依は、自分に向けられるものを恋だと思わないようにしている。歩幅を合わせてくれることも、人混みの中でさりげなく外側を歩いてくれることも、昨日何気なく話したことを覚えていることも、全部この人の優しさなのだと、乃依は何度も自分に言い聞かせてきた。

期待してしまえば、今まで自然に続いてきた朝まで失う気がした。

それでも、ある朝、透青がいなかった。いつもなら迷わず会社に向かうだけの道なのに、その日は景色のどこにも落ち着ける場所がなく、乃依はスマートフォンを見るふりをしながら何度も人波を振り返る。

そこでようやく気づく。

自分は毎朝、彼に会うことを待っていたのだと。

会えない朝に知ったのは、恋の始まりではない。ずっと前から始まっていた恋を、もう知らないふりができなくなっただけだった。

けれど、乃依には透青には別に好きな人がいるという思い込みがあった。だから、再び彼と会えた朝、誰も気づかなかった自分の小さな変化を透青だけが見つけても、胸の奥に生まれた期待をすぐに消してしまう。

そう思おうとする乃依の知らないところで、透青もまた毎朝彼女を探している。出勤時間を少しだけ合わせ、姿を見つければ歩く速度を落とし、言いたいことほど笑って飲み込んできた。

誰にでも優しいと思われてもいい。

同じ朝を歩きながら、同じ気持ちを違う意味で受け取ってしまう乃依と透青。言葉にならない優しさのなかに隠れていた恋は、会えない時間を重ねるほど少しずつ本当の名前を取り戻していく。

やがて「偶然会う朝」は「会うために待つ朝」へと変わっていく。好きだと言えないまま積み重なった時間の先で、乃依はようやく自分だけに向けられていたものを受け取れるのか。

これは、優しさを恋だと思わないようにしていた人が、最後にはその優しさの奥にあった愛を知る物語です。
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