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勇者になれなかった子を、家まで送るだけだった

短編
あらすじ
「なりたかった」を、なかったことにできるだろうか。

前世の記憶を思い出せば、何かが変わると思っていた。
特別な才能が目覚めて、いつか自分も物語の主役になれるのだと。
けれど十年後、二十八歳のトビンは今日も荷車の縄を締め、配達帳面を開いている。家賃は待ってくれない。荷物も、待ってくれない。
そんな彼が今日、家まで送り届けるのは、勇者養成院の試験に落ちた十二歳の少女だった。

「べつに、勇者になりたかったわけじゃないし」

そう言うノエの腕には、使い込まれた安い練習剣。
上着の内側には、隠しきれていない不合格通知。
いらないと言うには、毎日握りすぎた。どうでもいいと言うには、あの制服を着て帰る日を、思い描きすぎた。
家に近づくたび、母親に伝えるはずの言葉が喉につかえる。

「聞かないで」
そう言ったくせに、しばらくすると「……一回だけ、聞いて」。
強がりで、素直じゃなくて、甘いものにはちょっと弱い。
その練習剣を見るたび、トビンは自分の部屋の棚を思い出す。
そこにも、八年間、開けないままの魔法の入門書がある。
捨てることもできずに置いてある、その一冊が。

夕方までに村へ送り、受領の署名をもらう。それで今日の仕事は終わる。
いつもの道を、いつものように行けばいい。
けれど、この帰り道には、二人がまだ知らない一瞬が待っている。
少女が抱きしめる剣と、大人が閉じたままにした本。
遠く離れた二つが、同じ問いを投げかける日は、もう始まっていた。

うまくいかなかった夢は、どこへ持って帰ればいい?

勇者になれなかった少女と、特別になれなかった荷運び。
ちぐはぐな二人の、たった一日の帰り道。
笑ってしまう強がりの奥に、あなたにも覚えのある願いがきっとある。

家まで送るだけだった。
その「だけ」の先にある景色を、どうか一緒に見届けてください。
Nコード
N0847MX
シリーズ
凡人枠シリーズ
作者名
える・あーる
キーワード
異世界転生 
ジャンル
ハイファンタジー〔ファンタジー〕
掲載日
2026年 10月17日 18時00分
感想
1件
レビュー
0件
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12件
総合評価
562pt
評価ポイント
538pt
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文字数
12,689文字
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