↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛するロボットの秘密  作者: 綾沢恵理子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/4

4、秘密

「私は実業家の父と母のもとで育った。母はすっごく優しくていつも見守ってくれている存在だった。一方父は女たらしのダメダメで、いつも母を苦しめていた」


 そんな母が病気になって幼い頃に亡くなった。私にとって自分を褒めてくれる人も優しくしてくれる人も認めてくれる人も、悲しみや苦しみを共感してくれる人もいなくなった。誰もそばにいてくれなかった。父はいつもいなかったし、そもそも愛情のない人だったから最初から期待もしなかった。


 私は思ったの。ずっと誰かがそばにいてほしい。自分のそばにいて気持ちを共感してほしい。自分の話をただただ聞いてほしい。自分を傷つけてくることのない存在に会いたい。それだけあれば、もう、何もいらない。私はそんな存在を人間に求めたけれど、いつもダメだった。友達も先生も自分のことがあるでしょ? いつも私のそばにいることなんてない。それを求めれば逆に離れていく。


 だから思いついたの。AIロボットを自分で作ろうって。いつもそばにいて自分の気持ちをわかってくれる『人』を作ろうって。


「このロボットは、子供の頃から作ってきたとても大事な人。母の代わりなの」


 嘘偽りない目で先生は真っ直ぐ見つめてきた。その目に、言葉に、何も言い返せなかった。


「ずっとこのロボットを完成させるために生きてきた。そのために今までロボット研究に力を入れてきた。仕事として研究しながら、自分が作っているものにも応用してきた。ずっとね」


 先生は隣に座るロボットを見つめる。またロボットは子供を見つめるような優しい目つきを見せる。


「前に近藤くんに、私には目標があると言ったと思うけど、それはまさにこの『私のためだけの共感型AIロボット』を作ることだった。もうこのロボットは完成した。だから研究開発をやめたの」


 『目標は達成した』という意味はそれだったのだ。自分の望むAIロボットを作ること。


「でも先生にとって目標って達成してないんじゃないですか?」


 先生は「え?」と言った。


 隣のAIロボットは意味ありげに頷いている。まるで近藤の意見に賛成するかのように意志を持った動きをしている。


「どういうこと? 私の目的はこのロボットを完成させることだった。そしてずっと一緒に暮らすことよ」


「心の奥に仕舞い込んでしまった、本当の目標です」


「もったいぶらずにちゃんと言って」


 またロボットが頷いている。それに先生は気がついていないようだ。


「わかりました。それは……」


 近藤はいつのまにか立ち上がって叫んでいた。


「ロボットなんかなしで、人間にちゃんとわかってほしいということですよね? 話を聞いてほしい、共感してほしい、そばにいてほしい、本当は人間に求めてるんですよね? 先生はロボットにやってもらっているけれど、それで自分の気持ちが満たせるんですか?」


 怒りとかではなく、憤りなのか悲しみなのか、自分でもどの感情かわからない。


 近藤の声に対して先生も勢いよく立ち上がっていた。


「私の何を知ってそんなこと言うの? どれだけ辛い思いをして寂しくて苦しんできたかわかる?」


「わかりません。先生のプライベートなこと……例えばご家族のこととか、共感ロボットを作ることが目標だったとか、言われるまで知りませんでした。言ってくれなきゃわかるはずもありませんよ」


 肩で息をする先生。何も言い返してこない。確かにその言葉通りだと思っているのだろうか、と近藤は願う。近藤は椅子に座った。ロボットに袖を引っ張られ、冷静を取り戻したのか先生も座る。


「話していただいてありがとうございます。聞けてよかったです」


「……ありがとうって?」


「先生の話をですよ。先生がいろんな過去を持っていたことも知れた」


「なんでそんな嬉しそうな顔するの」


 よく理解できないとでも言いたげな顔で眉間に皺を寄せる。


 近藤は対して笑顔を見せた。


「先生のことを知れたからです」


 少し沈黙が流れた後で、先生は眉間の皺を緩めて、視線を外した。


「今まで話した人は誰もそんな顔しなかった。そして離れていった。だから人はもう信用しないって決めたのに」


 きっと今のことを話したら人が去っていった経験が多いのだろう。だからロボットにその役割を求めた。


「先生がどれだけの人にそうされたのかも僕は知りませんが、そんなことしない人もいます。僕はその類です。むしろもっと先生を知りたいですよ。四六時中は無理かも知れませんが先生のそばにいて、話は僕がちゃんと聞いて、共感します」


 先生が「ふっ」と鼻音を立てて笑った。


「あなたって変わった人」


 その声は穏やかだ。 


「そうですか? 今まで先生の中ではいなかったかも知れませんが、一人くらいはいますよ」


「私は誰かに恋愛感情を抱くこともやめたけど、まさかそんなものを抱いているとかじゃないでしょうね?」


 近藤はうっと言葉に詰まる。すぐに答えられない。どう返せばいい。


「助手としてです。これでも片腕だと思っているので。これからはプライベートのことでもなんでも話してください」


「ありがと。近藤くんに話してよかったよ」


 その時だった。先生の隣にいたロボットが、近藤に笑いかけた気がした。その後一度だけ頷いた。近藤が「どういう意味?」とロボットの目を見た時、瞬きもなく黒い瞳のロボットの体が固まった。


 機械の停止音がした。


「ん? どうした?」


 ロボットは力なく倒れ込む。先生は自分の体で受け、膝に寝かせる。先生は背中にある起動スイッチを触る。


「どうして? 一時的な不良? 設計ミス? 今まで一度もなかったのに。どうしよう、再起動して……あれ? びくともしない」


 ねえ近藤くん助手として手伝って。停止するタイミングを見ていた近藤は先生に手を貸さなかった。


「もう、そのロボットは必要ないんじゃないですか」


「どういうこと? ……もしかして」


「AIが自分で停止したんだと思います」


 はっとした先生は勘づいたのかもしれない。


「もう自分はいなくてもいい。先生にとって自分は必要ない。もう自分の代わりに役目を果たしてくれる人間ができた。そう判断したんだと思います」 





終



お読みいただきまして、ありがとうございました。

これで完結となります^_^

次の作品も、よろしければ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
近藤が「先生のことを知れたから」と伝える場面が好き。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。