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愛するロボットの秘密  作者: 綾沢恵理子


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3、共感型ロボット

 先生は近藤の横を抜けて家に入った。靴を脱ぎロボットに「ただいま、これ重かったよー」と言った。するとロボットの右腕が人間のように滑らかに動き出し、その右手が先生の髪を優しく撫でた。ロボットは口を開いて何かを言うことはないがその口角は上がっている。先生は近藤に向き直った。


「このロボットは、AIで相手の感情を読み取って、その相手が欲しい反応をする。共感してくれてその感情を顔に出すことができるの。嬉しい気持ち、悲しい気持ち、楽しい気持ち、怒りの気持ち、人には数えきれないほどの感情があるけれど、相手にとって最も欲しい表情や仕草をしてくれる」


「ど、どういうことですか?」


 理解が追いついていなかった。


「とにかくこんな玄関先にいないで、さっさと入りなさい」




「このロボット、先生が一人で作られたんですか? 研究所にはなかったと思うのですが」


 先生の失踪のこと、ロボットのこと、どこから話せばいいのかわからなかった。でもすぐに核心に迫ってしまうと先生の気を悪くして、また逃げられたり怒られたりするかもしれない。とりあえず研究所の話題は後にして、ロボットのことを聞くことにした。


「そうよ。家で一人でコツコツ作ってたの」


 短い答えが台所から返ってきた。一応客だからと、杉崎先生は近藤に冷たい麦茶を用意してくれていた。ロボットは共感して表情や仕草を変えることはできても、家政婦のように働くことはできないらしい。重たい買い物袋を持つのも、買い物した食料品を冷蔵庫に入れるのも、お茶を淹れるのも、全て先生がやっている。もしかしたら働かせるような用途は必要ないと先生は判断したのかもしれない。


 先生は氷と麦茶の入ったグラスを二つ持ってくると、ロボットの横に座った。グラスが一つないと思って、そうか人間に似せたロボットなのだと改めて実感した。


 先生とロボットが横並びになるとつい見比べてしまう。


「ロボットと先生、似てますね。昨日初めて見た時から思っていたんです。僕の気のせいでしょうか」


「そう見える? 亡くなった母の写真をもとにして作ったから、似て見えるかもね」


 先生は横に姿勢良く座っているロボットの横顔を眺めた。その視線に気がついたようにロボットは先生の目を見つめる。にっこりとロボットは笑った……それは先生が同じように笑ったからだ。ロボットを見る時の先生は和やかだ。それこそ母親を見つけた小さな子供のように安心している。


「亡くなったお母様がモデルですか……」


 近藤に向き直ったときに先生の和やかだったその顔は、雲に隠れたようにどこかへ消え去った。近藤は小さな子供に人見知りをされているような寂しさを覚えた。


「なぜお母様のお顔で共感型のロボットを作ろうと思ったのですか」


 実はずっと聞きたいことだった。なぜ共感しかできないロボットを作ろうと考えたのか、しかも亡くなった母親をモデルにしているのはなぜか。でも言った後で今の質問を撤回したくなった。自分はなんて立ち入ったことを聞いたんだ。もしかしたら先生の過去に土足で踏み込んだかもしれない。


「いや、先生、えっと……今のはやっぱり」


 先生から怒号が飛んでくることもなかった。追い出されることはなかった。


 ただ一度、鼻で短く笑われただけだった。


「知りたいなら全部聞きたいって言えばいいのに。これだから人間は面倒臭い」


 確かに先生はそう呟いた。


 先生は麦茶を一口飲むと、一言、「まあ、わざわざ時間とってここまで探しにきちゃったわけだしね、特別に教えるよ」と目も合わせずに言った。そして。


「これは私の独り言ね」


 と、一つ前置きしておいた。


お読みいただきありがとうございます

次に明かされる先生の秘密……。

次の投稿は8/10 19:30頃です

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― 新着の感想 ―
母親をモデルにしたロボットだと知ってから、先生の表情が変わるところに、言葉にされない事情を感じる!
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