↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛するロボットの秘密  作者: 綾沢恵理子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/4

2、そばにいる謎の女性

 昨日と同じように拒否されたら、二度と会ってくれないだろう。覚悟を持って先生宅の扉の前に立つ。


 先生はいる。家は静か。もしかしたら静かにしていて本当はいるかもしれない。


 インターホンを鳴らす。返事がない。想定の範囲内だ。ここで引き返すわけにはいかない。


 玄関扉をノックした。


「杉崎先生。いらっしゃいますか? 近藤です」


 何度かノックしても答えはない。


 いないのだろうか。探されているから家に籠城するのがいいと、きっと判断するだろう。それとも籠城のために買い出し中?


 諦めきれなかった。いけないとわかっていて、扉のドアハンドルに手をかけた。これを引いてみて、開かなかったら、近所のスーパーを手当たり次第探してみることにする。


 後ろに引いてみると、いとも簡単に開いてしまった。不用心にも鍵はかかっていなかった。


「開いちゃった……」


 玄関扉を大きく開けて体を半分入れた。すると、あることに気がついた。


 昨日先生と一緒にいた女性が廊下の奥でこちらを見ているのが目に入った。黒い目は見開いていて、突然のことに驚いているのか声さえ出ていない。


「あ……」


 人がいるときに、人の家に勝手に入ってしまった。


「怪しい者ではないです!」


 いやいやどうみても怪しい。近藤は自分で自分を突っ込んだ。男が一人で来るんだから。自分なら悲鳴をあげて即座に警察を呼ぶ。


「僕は先生の、杉崎美奈子さんの助手です!」


 急いで自己紹介。


 驚きすぎているのか顔一つ変わらないが、彼女の不安を溶かすのだ。自分は、先生と同じ研究所でAIロボットの研究をしていて、何年も先生の助手をしていて、自分は片腕だと自負している──公開できる自分の情報は全部喋った。


 女性は近藤を眺めながら、ゆっくりと頷いて聞いている。


「本当に、すみません、勝手に開けたりなんかして。実は先生を探していまして」


 女性の穏やかな調子は変わらない。むしろ突然来た男を怖がったり警察を呼ぼうとしたりしないのだろうか。


「だからというか、もしよければ知っていることを教えてくれませんか? なぜ先生はいなくなったのですか? 今先生はどちらに?」


 焦っている自分とは異なって、女性の表情が柔らかくなった。戸惑いも不安もなくとても落ち着いていて、ただ静かに口角を少し上げて頷いているだけ。目尻に小さな皺を寄せ、優しくゆっくり瞬きをしている。まるで慈愛に満ちた女神のような表情だった。


 次第にこちらの焦りが消えていく。心臓の鼓動が落ち着いていく。 


 せめて今先生がいなくて事情を聞けないなら、この女性から聞きたい。次の言葉を出す頃にはすっかり自分の心も落ち着いていた。


「何でもいいんです。よろしくお願いします」


 大切なお願いだからと、改めて目を見て言った。


 その時近藤は初めて何か様子がおかしいことに気がついた。女性の柔らかな表情に似合わず、目だけが何も光がない。黒い丸いビー玉を入れたように艶やかなだけで、奥に入り込むような瞳の引力は感じられなかった。


 普通の目とは、違う。なぜだと考えて、はっと気がつく。


 どういうことだ。先生と一緒にいた人が、遠目から見たら人間にしか見えない人が。


「AIロボットだなんて」


 ロボットと言われても、相手は眉一つ動かさなかった。ただ、微笑みながら頷いた。


「何してるの? 警察呼ぶわよ。少なからず住居侵入よ」


 背後から突き刺さるような声がした。振り向くと、両手に買い物袋を重たそうに下げた杉崎先生が近藤を見下ろしていた。再会できた喜びと同時に、確実に怒られているという恐怖心がないまぜになる。


「すみません! お家に伺ったら鍵が開いていて!」


 先生は眉間に皺を寄せた顔にちょっと気まずそうな色を混ぜた。


「だからって人の家に入っていいわけじゃないけど」


「すみません……」


 近藤は謝ることしかできない。


「私を探しにきたっていうなら警察を呼ばないわ。逆に面倒なことになるから」


 感情をあからさまに出したつんとした口調で言う。先生は目を逸らして合わせようとしない。「その通りです! 先生を探しにきました。本当です!」


 ちらっと瞳が動いてまた逸れる。


「あなたのそういう素直なところ、嫌いじゃなかったのよ」


「嫌いじゃなかった……過去形ですか?」


「私はもう研究所に戻らない。できるだけ人と関わらず、一人で暮らすことに決めたの。それが夢だった」


 今、一人と言った。


「一人? ならやっぱりあの人、違う」


 廊下の奥で二人を見つめる目を指差した。


「あれって?」


 初めて近藤は先生に笑いかけられた気がした。


「気がついた? あれは精巧に作った共感型AIロボットよ」


お読みいただきありがとうございます♪

次の投稿は8/10 17:00頃です

杉崎先生が作っていた「共感型ロボット」とは……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
先生を探して訪ねた近藤が、思いがけず昨日の女性と再会する場面が印象的でした。人間だと思っていた相手への違和感が少しずつ形になるところに、静かな驚きがありました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。