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「『愛していない』と言えなくなった日から、私たちの仮面夫婦は終わりを告げた」

作者:九十九 文
最終エピソード掲載日:2026/05/29
三年間、私たちは完璧な仮面夫婦だった。

向かい合って食事をして、当たり障りのない会話をして、微笑んで、それぞれの部屋へ向かう。夫のレオンハルトは何を考えているのかわからない。私も、自分の気持ちを一度も見せたことがない。

それが正しい距離だと、思っていた。

政略結婚で迎えられた妻が、夫に愛を求めるのは分不相応だと。彼の邪魔をしないことが、私にできる唯一の誠実さだと。三年間、そう言い聞かせてきた。

ある日、街で老婆にぶつかり、謎の液体を手にかけられた。

その夜、廊下で夫とすれ違いながら「おやすみなさいませ」と言おうとして——

「……顔を見ると、胸が痛い」

言うつもりのなかった言葉が、口から出た。

呪いだった。自分の感情に関する嘘が、一切つけなくなる呪い。「平気です」が言えない。「気にしていません」が言えない。「愛していません」が——言えない。

三年間、笑って隠してきた全てが、夫の前でぼろぼろとこぼれていく。

しかし呪いが暴いたのは、マリアの本音だけではなかった。

「俺も、三年間、お前だけだった」

二人は同じ気持ちを抱えたまま、三年間、互いに遠ざかり続けていた。

呪いが解けた朝、マリアは初めて——自分の言葉で、言った。


「三年間、ずっと好きでした」


嘘がつけない呪いと、三年分のすれ違いが交差する。
声に出してしまった愛が、静かに二人を変えていく物語。
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