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「『愛していない』と言えなくなった日から、私たちの仮面夫婦は終わりを告げた」  作者: 九十九 文


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第3話「あなたが私を愛していないことを、私はずっと知っていた」

第3話「あなたが私を愛していないことを、私はずっと知っていた」


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 五日目の朝、フェリクスが来た。


 レオンハルトの幼馴染だと紹介されたが、マリアはこの男が好きではなかった。好きではないと思っていた、というより——呪いのせいで、今は口にすると全部出てしまうので、そばに近づかないようにしていた。


 しかしフェリクスは、マリアを見つけた。


 庭に出ていたマリアの隣に来て、「奥さん、少しいいですか」と笑った。整った顔に貼りついた笑顔が、三年前から変わらない。


 「もちろんです」と答えながら、「あまり長くは話したくない」と続いてしまった。


 フェリクスは少し目を細めた。「呪いというのは本当のようですね。レオンから聞きましたよ」


 「……そうですか」


 「それならはっきり聞けますね」と彼は言った。「あなたはレオンを愛していますか」


 答えたくなかった。しかし口が動いた。


 「愛しています」


 フェリクスの顔から笑みが消えた。マリアも、自分の答えに少し驚いていた。三年間、その四文字を声に出したことがなかった。


 しかしフェリクスはすぐに笑顔を取り戻して、「そうですか」と言った。「ではあなたに教えてあげましょう。レオンはあなたを愛していません。あなたが呪いで本音をさらしているのを、面白がって傍にいるだけです。三年間、彼が本当に愛していたのは別の女性です」


 マリアは庭の石畳を見た。


 否定したかった。しかし「そんなことはありません」と言おうとしたら、言葉が出なかった。確信がないから、嘘になるから、出なかった。


 フェリクスが去った後、マリアはしばらく庭に立っていた。


 知っていた、と思った。最初から知っていた。政略結婚の妻がそれ以上を望むのは、分不相応だと三年前から知っていた。ただ、こうして他の人間の口から言われると、石畳がやけに冷たく見えた。


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 夕方、レオンハルトが「呪いを解ける魔女を見つけた、明日会いに行こう」と言った。


 書斎の扉を開けて、そう言った。表情はいつも通りで、何を考えているのかわからなかった。


 マリアは微笑んで「ありがとうございます」と答えた。


 そこで止まれればよかった。


 「……あなたが傍にいてくれるのが、嬉しかった。呪いが解けるのが、少し怖い」


 レオンハルトが手を止めた。


 「怖い?」


 「解けたら、また何も言えなくなるから。今まで通り、平気なふりをして、笑って——それが正しい距離だと思っていたけれど、こうして声に出してしまうと、正しかったのかわからなくなる」


 言い終えてから、マリアは目を伏せた。言いすぎた。しかし呪いは止まらなかった。


 レオンハルトは「……お前は」と言いかけて、止まった。


 そこへ、扉が開いた。


 「レオン、邪魔するよ」


 フェリクスだった。昼間の顔で、しかし目だけが違う光を持って、入ってきた。


 「彼女に本当のことを話す気はないのか。お前が三年間、なぜ妻に距離を置いてきたか。その理由を」


 部屋の空気が変わった。


 「フェリクス」とレオンハルトが低い声で言った。


 「俺はただ、この人が可哀想で」とフェリクスは続けた。「呪いで本音をさらして、それでも報われないなら——」


 「出ていけ」


 静かな声だった。しかし書斎中に響いた。


 フェリクスが一歩引いた。「レオン、お前は——」


 「今すぐ、出ていけ」


 今度は、違う声だった。低くて、硬くて、これ以上は聞かない、という声。フェリクスは何かを言いかけて、結局扉を閉めて出ていった。


 沈黙が残った。


 マリアはレオンハルトの横顔を見た。彼は扉を見たまま、動かなかった。顎のあたりが、かすかに強張っていた。


 「……レオンハルト様」


 「明日、魔女に会いに行く」と彼は言った。「それだけだ」


 それだけではない、とマリアは思った。しかし今度は、口が動かなかった。彼の声に何かがあって、聞けなかった。


 「愛していないことが、そんなに顔に出ていましたか」とマリアは聞いた。


 レオンハルトが振り返った。


 「——違う」


 絞り出すような声だった。それきり、何も言わなかった。


────────────────────────


(第4話へつづく)

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