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【外章】落としたものは、あとで拾う

作者:あまつか
最終エピソード掲載日:2026/09/25
主人公:一乃瀬 紡(いちのせ・つむぎ)

一乃瀬紡は、よくふざける。
選抜発表前、16人が張り詰めていても、
「ねえ、この空気で今くるみ割ったら怒られる?」
そんな一言で笑いを起こす。

空気が読めないようで、誰より空気を読んでいる。
努力している姿を見られるのが恥ずかしくて、できなかった振付は一人で練習する。落ち込んだ仲間には冗談を、体調を崩した子には「余ったから」と料理を渡す。

本気も、優しさも、見せ方が少し下手なのだ。

長い時間を経て、ようやく掴んだ初選抜。

「やっと、明るい報告ができる」

その日だけは、笑ってごまかせずに泣いた。

しかし次の作品では、メイン曲の選抜から外れる。

――やっぱり私は、選ばれる側じゃないのかもしれない。

ところが発表は続いた。
カップリング曲、センター。一乃瀬紡。

選抜にはいない。
なのに、一曲の真ん中にはいる。

そして今度は、一人で雑誌の表紙に抜擢される。

「……編集部、大丈夫?」

いつものように茶化しながら、カメラが向いた瞬間、その目が変わる。

歌でもない。
ダンスでもない。
選抜でもない。

そこで見つけられたのは、紡自身も知らなかった一乃瀬紡だった。

道端の落とし物には、いくらでも物語を想像できるくせに、自分の物語だけはいつの間にか、

「選ばれたか、選ばれなかったか」

それだけで決めようとしていた。

選抜も。
センターも。
表紙も。
誰かの沈んだ空気を一言で変えてきた日々も。

全部、違う場所で必要とされた同じ自分だった。

これは、誰かの落とし物にはすぐ気づくのに、自分が落とした大切なものだけは見つけられなかった少女の物語。

落としたなら、終わりじゃない。

あとで拾えばいい。
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