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幸福度で国を守る聖女になりましたが、路地裏育ちなので串焼き一本で計器が振り切れます ~国をあげての大晩餐は二輪、屋台の一本は無限大~

作者:くらたん
最新エピソード掲載日:2026/07/29
国の北、凍え峠の稜線に〈灯環〉という光の輪が架かっている。峠の向こうの凍えを、この国へ入れずにいる輪である。

その輪を保つ燃料が、聖女ひとりの「その日あらたに嬉しかった量」だった。

単位は輪。目盛りは〇から二十まで。日没にその日の刻みを足したものが日締めになり、一日十二輪を割れば、輪は薄れる。

新しい聖女に選ばれたのは、灰通りの路地裏で育ったセリカ、十七歳。

屋根がある。栓をひねると熱い湯が出る。今日、ごはんが二回ある。――それだけで、最初の七日の平均は十六・四輪だった。

宮廷は喜び、いっそう手を尽くす。

 歓迎の大晩餐、二百四十品――二輪。

 金剛石を溶かした湯浴み――〇輪。

 その帰り道、屋台でもらった串焼き一本――計測不能。

〈灯環の理〉二条。数えるのは、予期と実際の差である。予期したとおりのものは、いかに大きくとも効果が薄い。

つまりこの国は、「これから素晴らしいものをお見せします」と告げた時点で、負ける。

それでも内務卿ギルベルトは、七日ごとの計測会のたびに白い手袋の指を組んで、同じことをおっしゃる。

「では、次を用意いたしましょう」

四条により、同じ驚きは二度目に半ばとなる。手を変えるほど、値は静かに下りていく。

そして――「喜べ」と命じられた日から、わたしの数値は落ちはじめた。

嬉しがらなければ、と思った途端に、口の中の味が遠くなる。

けれど輪が薄れて先に凍えるのは、峠の向こうではない。灰通りの、屋根の薄いところである。

だから決める。ひとりで十二輪を出しつづけるのは、無理だ。――なら、この国が測るものを変えればいい。

一方、七日ごとに値を読み上げる幸福観測官ユーリス・アムゼルには、役所の職務規範の第一条がある。

「観測官は、測るものに与えてはならない。与えれば、それは測定ではなく作為である」

破れば資格を失う。数を数えることだけが、彼を許してくれた唯一のものだった。

その彼が、宮廷じゅうが数字だけを見ているあいだ、わたしの笑ったものを一つも落とさずに書き留めている。

「原因、串焼き、一本」

「あなたが笑ったものは、全部、ここにあります」

国庫で買った驚きは、続かない。最後にこの国を保たせるのは、誰かと分け合った喜びのほうである。


カクヨムさん、ハーメルンさんでも連載しています
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