牢番になったら、囚人の閣下が毎晩脱獄しては戻ってきます 〜本日も、日誌に「異状なし」と書けません〜
最新エピソード掲載日:2026/08/20
23時40分、7号房、囚人不在。0時12分、同、房内に在り。
断崖の上に建つ終身刑の塔・ヴェルグ塔。夜番に配属された初日の夜、俺は自分の書いた2行を疑うことになった。囚人が窓の枠石を1つ抜いて崖を降り、32分後、自分でよじ登って帰ってきたのである。
名はアルヴィス・ダルグレン。3年前まで治水公と呼ばれ、独断で閘門を開いて貴族街を水に沈めた男。王都では、いまでも子どもを黙らせるのに名前が使われる。
「戻ってこられた理由を、伺っても」
「外の風が、思っていたより冷たかった」
翌日は廃棄物の樽。その次は鳩小屋の屋根。蝋で作った合鍵に、随員名簿への書き足し、裂いたシーツ、井戸から続く旧水路——閣下は毎晩ちがう手口で塔を出て、毎晩ちがう理由を言って帰ってくる。俺の仕事はそれを記録することだ。恋愛でも忠誠でもなく、理由の欄が埋まらない事案として。
「閣下。これ、日誌に書けないんですが」
逃げられるのに、この人はなぜ帰ってくるのか。答えは、俺がまだ読んでいない塔の規程の、第9条に書いてある。
脱獄48回、帰還48回。全年齢・純愛の脱獄コメディ、12話完結。
断崖の上に建つ終身刑の塔・ヴェルグ塔。夜番に配属された初日の夜、俺は自分の書いた2行を疑うことになった。囚人が窓の枠石を1つ抜いて崖を降り、32分後、自分でよじ登って帰ってきたのである。
名はアルヴィス・ダルグレン。3年前まで治水公と呼ばれ、独断で閘門を開いて貴族街を水に沈めた男。王都では、いまでも子どもを黙らせるのに名前が使われる。
「戻ってこられた理由を、伺っても」
「外の風が、思っていたより冷たかった」
翌日は廃棄物の樽。その次は鳩小屋の屋根。蝋で作った合鍵に、随員名簿への書き足し、裂いたシーツ、井戸から続く旧水路——閣下は毎晩ちがう手口で塔を出て、毎晩ちがう理由を言って帰ってくる。俺の仕事はそれを記録することだ。恋愛でも忠誠でもなく、理由の欄が埋まらない事案として。
「閣下。これ、日誌に書けないんですが」
逃げられるのに、この人はなぜ帰ってくるのか。答えは、俺がまだ読んでいない塔の規程の、第9条に書いてある。
脱獄48回、帰還48回。全年齢・純愛の脱獄コメディ、12話完結。
第0話「異状なし、とは書けません」
2026/08/15 08:32
第1話「荷車が、帰りも空だったので」
2026/08/16 08:32
第2話「鳩が1羽、足りない気がして」
2026/08/17 08:39
第3話「鍵を、返しに来た」
2026/08/18 08:32
第4話「名簿に俺の名がないのが、落ち着かない」
2026/08/19 08:32
第5話「シーツが1枚足りないと、あの人が弁償させられる」
2026/08/20 08:32