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名前を返す夜

作者:reika1021
最終エピソード掲載日:2026/07/03
東京の忘れ物保管センター雨宮管理室。新人職員の蓮見透花は、誰かの名前が付いた傘や鍵を受け取り、棚に並べて持ち主に返す日々を送っていた。

雨上がりの朝、何度も違う忘れ物を取りに来る青年・水篠朔が現れる。彼が何気なく透花の名前を呼んだ瞬間、仕事用に整えていた声の輪郭が揺れ、胸の奥に小さな熱が残る。

傘、古いレシート、片方だけのイヤホン、帰れない夜の鍵。朔の忘れ物は、だらしなさの奥にある孤独を、少しずつ透花に見せていく。救うことはできない。けれど、彼が来たことをなかったことにはしない。

名前を呼ぶ怖さと呼ばれたい願いの間で透花は自分の声を取り戻していく。雨上がりの夜、何も失っていないのに朔は管理室へやって来る。

返すもののない窓口で彼は透花の名前を呼び、透花も初めて逃げずに彼の名前を呼び返した。雨の匂いの中で、静かな幸福が始まっていく。

まだ濡れた東京の片隅で静かに灯る、その名前はもはや棚には戻らない。
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