表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
62/62

第03話:待機室とサイコロ(下)

 月草も盤を見た。白い駒が前にいる。つまり、あと二つ多く出さないと抜けないらしい。ちょっと大変そうだった。


 次は鶸の番だった。

 サイコロを転がす。鶸の出した目は四。


「あー! 通れないー!」


 鶸が机に突っ伏した。

 前には、透明の駒が置かれている。深緋の駒だった。


「コキアそこ、絶対わざと!」

「そうだよ」

「認めたー!」


 鶸が毛布の上でばたばたする。深緋が知らん顔をしている。桔梗と杏が笑っている。退紅は、「……またやってる」とぼそっと言った。

 そのあとも、サイコロの音が何度も机に転がった。


 鶸は進んだと思ったら戻されて、「なんでー!」と叫んだ。

 桔梗は「えー、また〈戻る〉だぁ」と、とうとう机に突っ伏した。

 深緋は静かな顔で札を伏せている。絶対、また何かするつもりだ、と月草は思った。

 自分の番が来る。

 ドキドキしながらサイコロを振る。

 札を引くたびに、何が書いてあるんだろうとわくわくする。

 それだけなのに、だんだん楽しくなってきた。


「あー! コキアまたそこ!」

「ごめんね」

「ぜんぜん悪いと思ってないでしょ」

「うん」


 深緋は否定しなかった。

 鶸が机に突っ伏して、「もうやだー、またコキアが邪魔するー」と騒いでいる。

 桔梗と杏は、もう笑い転げていた。


    *


 数巡したあと、月草の駒は、思ったより前にいた。

 自分でも、よくわからなかった。気がついたら、前にいた。


「ツキ、強くない?」

 杏が言った。

「えっ」

「強いよー」

「……そうなんですか?」

「たまたまでこんなならないよー」


 深緋は自分の番のカードを見ながら、「うん、強いね」と言った。

 月草は、よくわからないけれど、ちょっと嬉しいような困ったような気持ちになった。


 大人がもう一人、入ってきた。

 今度は男の人だった。机のところで、さっきの大人と、短く話した。「東三、戻った」「うん」「第七地区沿岸ルート確認」「異常なし」「うん」。それだけだった。それから二人とも、また端末に向かった。

 鶸と深緋が、その背中の方を一度ちらっと見た。「また南区?」「だね」と小さい声で会話しているのが聞こえた。でも二人ともすぐ、盤に戻った。


「ヒワの番だよぉ」

「あ、そうだったー」

「遅い」

「遅くないー」


 盤面が進むにつれて、桔梗が途中からだんだんムキになってきた。


「えー、なんでぇ」

「はいキョウ、ストップだ」

「いやだぁ、もう一回引きたい」

「だめだよー」

「アンズ、お願い」

「だめー」

「ちぇー」


 桔梗はカードを一枚、ぺし、と乱暴に盤の脇に置いた。ムキになっている桔梗が、なんだかちょっと面白かった。

 深緋の番のとき、深緋は、ぴたりといいところに駒を置いた。鶸の駒の進路を塞ぐ。


「あー! コキアひどい!」

「ごめんね」

「ぜんぜん悪いと思ってないでしょ」

「うん」

「また、うんって言ったー!」


 鶸は足をじたばたした。退紅も、ちょっとだけ口角を上げた。

 次の番で、深緋は透明な駒を最後のマスへトントンと進めた。


「はい、あがり」

「あっ」

「コキアまた勝ったー!」


 深緋はニヤッと笑って、月草の横に椅子を寄せた。


「じゃ、ぼくはツキのお手伝い」


 次に月草の番がきたとき、手に取ろうとしたカードを見て、深緋が耳元で言った。


「ツキ、それ残しときな」

「えっ」

「次で使えるから」

「……うん」


 月草はカードを手元に戻した。代わりに、別のカードを出した。駒が一気に三つ進んだ。


「あー! ツキずるい!」

「ずるくないでしょ」


 深緋がすました顔で言った。


「ずるくないけど、ずるい!」

「ヒワの言い方、おかしい」


 桔梗が言った。鶸は「おかしくないー」と返した。月草は、自分の駒の位置を見た。あと、二マス。

 次の番で、月草はサイコロを振った。

 コロコロ、と転がって、一が出た。駒は、あともう一つでゴールなのに届かない。


「あっ」

「ツキ、今」


 深緋が、囁いた。

 月草は、はっとして、さっき残した札を見た。


 〈もう一マス進む〉


「あ、これ……!」

「使えるでしょ」


 月草は慌てて札を出した。


「あーっ!」鶸が机を叩く。

「コキアまたやったー!」

「やってないよ」

「やったってー!」


 桔梗が笑っている。

 月草は、おそるおそる駒を進めた。


「いち、に……」


 緑の駒が、最後のマスに入る。


「ツキ二番ー!」

「あ……」


 月草は、自分の駒を見た。ほんとに、ゴールしていた。


「強いじゃんー!」

「……たまたま」

「たまたまで二番ならないってー」


 鶸が机に突っ伏しながら騒ぐ。

 深緋は、口元をニヤニヤさせて、札の山を混ぜ直していた。

 月草はちょっと照れくさくて「えへへ」と笑った。


    *


 大人が、また通信機に向かって何か短く言った。「了解」とだけ言った。それから、こちらを一度見て、何も言わずに、また端末に戻った。


 鶸が箱を片付け始めた。カードを揃えるのが下手で、全く揃っていなかった。桔梗が「貸して」と言って、代わりに揃えた。手早く綺麗にカードがそろっていく。さっきまでムキになっていたのに、片付けは丁寧だった。

 退紅は、また毛布に寝そべっていた。今度は本当に、目を閉じていた。

 杏が、毛布を一枚、退紅にかけた。かけて、何も言わずに椅子に戻った。

 月草は、毛布の端に座り直した。深緋が、隣で、ふうと息をついた。


「ツキ、おなかすいた?」

「……うん、ちょっと」

「あとで、おむすび出てくるからね」

「うん」


 でも、月草はもうとても眠かった。「あとで」まで起きていられるかな、と思いながら毛布に倒れこんでいった。

 外で大型車両から荷物を下ろす音、少し慌てた大人の声、何人かの子どもの声がする。でももう眠くて、月草は目を開けていられなかった。


 部屋の外で、早足の足音が一度通った。通り過ぎて、戻ってきて、また通り過ぎていった。


(了)

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

続きも読んでみたいと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけるとうれしいです。


月・木 7時過ぎに最新話を更新しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ