表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
61/66

第03話:待機室とサイコロ(上)

 当番待機、という日があるのだと、月草つきくさは知った。その日は中央棟の待機室という場所で、過ごすらしい。


「今回はまだ月草が慣れてないので、もうひとつ班がいますからね」


 織部おりべが教えてくれたけど、なんだか自分のせいで迷惑をかけているみたいで、申し訳なくなってしまう。


    *


 朝食後にそのまま、待機室へ向かう。集まったのは南一班と南六班、合わせて六人。桔梗ききょうもいたのが嬉しかった。

 待機室には、大きな机に椅子が六つ。それと、ちょっとふかふかの敷物のあるスペース。壁側にはディスプレイや機械が並んでいて、大人が何人か座って画面を見ながら働いていた。部屋の入口に扉はなくて、大人が入ったり出たりしていた。

 月草がウロウロしていると、深緋こきあが隣に来た。ひわはもう、机の奥の方で手まねきしていた。


「ツキ、こっちこっちー」


 鶸の周りに、桔梗と桔梗の班の子たちがいる。


「ツキ、キキョウ以外は初めて会うのー?」

「あ、……はい、そうです」


 消え入りそうな声しか出ない。初めて会う人は得意じゃない。


「こっちがアラゾメで、これがアンズだよ。で、この子がツキ。カワイイでしょ?」


 鶸は得意げに紹介する。月草はまた真っ赤になってしまう。


「これって何よ! でも、かーわいい。キョウと同じくらいかわいい!」


 あんずが顔を寄せるので、ますますカチコチになって思わず深緋の後ろに隠れてしまう。


「あらあら」

「アンズ、やめてあげて。ツキはちょっとだけ恥ずかしがりなの!」


 桔梗が横から口を出す。

 深緋がニヤッと笑って「座ろっか」と声をかけた。

 月草を始め、立っていた子どもたちはめいめいに椅子に座る。退紅あらぞめは、どこかへフラッと行ってしまった。


「当番待機初めて?」

「はい」

「あー、じゃあ緊張するのも仕方ないわ」

「……ごめんなさい」

「みんな最初は初めてなのよ、どうせこれから慣れるんだから」


 杏は笑った。笑い方が、桔梗と似ていた。じゃなくて、桔梗が杏に似たのかもしれない。

 退紅が、薄い箱を抱えてきた。箱の角が少し擦り切れている。


「……ボードゲームあった」

「やったー!」


 鶸は杏と桔梗と一緒に中身を出しながら、ゲームの準備をしている。月草は、急に何が何だかわからなくて、ぼんやり見ていると、深緋がそっと教えてくれる。


「当番待機って、待機だからね。呼ばれるまではここにいるだけの任務だよ」

「な、なんにも働かなくて、いいんですか?」

「うん。ただし、呼ばれたらすぐにストップして行かなきゃいけない。できる?」

「できます!」

「じゃ、一緒にゲームしよう」


 わくわくした。こんな立派なゲームなんて、見たことがない。ただひとつ、重大な心配ごとがあった。


「僕、このゲーム、どうやったらいいのか知らないです」

「みんなが教えてくれるよ」


 くすくす笑う深緋はとっても頼もしかった。


    *


 大人が一人、待機室に入ってきた。

 壁際の机に座って、端末を開いた。画面を覗き込んで、何かを確認している。それから、通信機で短く報告している。「こちら待機、確認。問題なし」とだけ言った。それから端末に戻った。


 子どもたちは、その大人を見ていない。誰も話しかけずに、当たり前の光景になっていた。

 退紅は、毛布の上に、もう寝そべっていた。膝を抱えて、横になっている。眠っているわけではない。目は開いている。ただ、ぼんやりしている。


「ゾメー、ゲームやるよー」

「うん」

「起きてー」

「うーん」

「起きてないでしょー」

「起きてる」


 退紅はそう言いながら、ゆっくり身体を起こした。本当にゆっくりだった。鶸が「ねむそー」と言った。退紅は何も言い返さなかった。


 箱を開けると、駒とサイコロ、固くて四角いカードと、薄い盤が出てきた。

 桔梗が説明をしてくれた。説明は、思ったより短かった。


「えとね、サイコロ転がして駒を進めて、カード引いて、ゴールに入ったら上がりだよ」

「……それだけ?」

「うん」

「あと、人のじゃま、できる」

「じゃま?」

「うん、コキアめっちゃじゃまするから気をつけて」


 深緋は、自分の駒を選びながら、何も言わなかった。否定もしなかった。月草は、それを横目で見た。


「コキア、じゃま、するの?」

「するよ」


 深緋は真顔でなんともないように言った。


「するんだ」

「うん」

「……」


 言い方が、あんまり当たり前みたいだったので、月草は吹き出した。


    *


 最初の番は、鶸だった。

 サイコロを放る。カラカラ、と盤の端に当たって、五が出た。


「あー! いい数字ー!」

「ヒワうるさいー」と杏。

「うるさくないー」

「うるさいよ、ね、キョウ」

「うるさいねぇ」

「……ふたりとも、うるさい」退紅がぼそっと言う。


 杏と桔梗の声が重なって、それが一番うるさかった。


 月草は、自分の番が来るまで、盤をじっと見ていた。

 サイコロを振って進む。止まったマスの色で、札を引く。札には数字だけじゃなく、戻るとか、入れ替えるとか、そういうことも書いてあるらしい。

 駒は六つ並んでいた。赤、黄色、青、白、月草の駒は緑、それから透明。透明なのが深緋の駒だった。

 月草の番が回ってきた。


「ツキ、引いてー」


 月草はサイコロを持った。どう振ればいいのかわからなくて、一回止まる。


「これ、こうやって投げれば……?」


 鶸が「こう!」と横で大きく上から投げる真似をしてみせる。


「ヒワ、それは机で跳ねるからだめ」深緋が呆れる。

「はーい」


 月草は、そっとサイコロを転がした。コロコロ転がって、三が出た。


「三だー」

「じゃ、三つ進めて」


 桔梗が盤を覗き込みながら言った。

 月草は駒を、一つずつ動かした。


「いち、に、さん……」


 止まったマスは青だった。


「青のマスは、札が一つ引けるよ」


 杏が札の山を指差して教えてくれる。

 月草は、椅子から立ち上がって手を伸ばし、固い札を一枚引いた。つるつるしていて、角だけ少し擦れていた。


 〈三つ進む〉


「おー、やったね」

「続けて三つ進めるよ」


 月草は、言われた通りに、もう三つ駒を動かした。


「いち、に、さん……」


 動かしたら、ちょうど、退紅の白い駒の後ろで止まった。


「あー、通せんぼされちゃった」杏が笑う。

「前に誰かいたら、抜くのに〈二〉いるんだよ」桔梗が説明してくれる。

「通せんぼ、してない」


 退紅がぼそっと言った。


「してるってー。ゾメそこ居座るもん」


 杏が盤を指差す。退紅は、少しだけ考える顔をした。


「……ちょっとするかも」


 杏と桔梗が同時に吹き出した。


「ほらー!」

「やっぱりー!」


 退紅はそれ以上なにも言わず、また盤を見た。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

続きも読んでみたいと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけるとうれしいです。


月・木 朝7時過ぎに最新話を更新しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ