第4篇 「一周忌」(「昼と夜の交わり」より)
短めの短篇です。
登場人物2名で特になにも起きないちょっと暗めのお話です。
雲林院茜
破邪師の家系に生まれ育った。
真宮京介
茜のお目付け役。
2016年12月27日 @東京都某所
「璃孤ちゃん…」
杖を片手に黒服を纏った女は、黒服の男を連れ立ってそこに現れて、不器用に花を置いた。
「…今でも考えるよ。本当にこれ以外に方法がなかったのか…ってね。」
行き交う人々は、異様な光景に一度は振り返って、通り過ぎていく。
「人は忘れる生き物だよ。だから、私も片時も離さず考えていたわけじゃない。」
吐露した感情は懺悔か、懐古か、それとも…。
「けど、この世界のほとんどの人の記憶から消えて、世界から生きた証まで消して、そしたら、もう…。」
水滴が彼女の頬をつたってキラリと光った。
「私たちが覚えてるしかないじゃないか…。」
下唇を噛み締めて、掌に爪の跡が残るくらいに強く拳を握った。
それから数分経っただろうか。
「茜嬢、そろそろ…」
「わかってる。」
連れの男にそう声をかけられて、茜はぶっきらぼうに返事をしてから、手向けた花に背を向けた。
「京介…、車を出して。」
「承知しました、茜嬢。」
茜は車の後部座席に、京介は車の運転席に乗りこんだ。
「このまま本家に向かってもよろしいですか。」
ミラー越しに京介の目線を受けて、茜は少し考えてから応えた。
「…ん。けど、今晩はあそこで過ごしたくない。」
「わかりました。近くの宿泊施設に。」
茜は京介の返事を聞くと、窓から車外の喧騒を眺めた。
あっという間に通り過ぎていく景色に、少し思うところがあったのか、ゆっくりと何度か瞬きをしながら、下唇を噛み締めた。
2015年12月27日に生きた痕跡と共に消滅した友を悼んだ。
2015年の12月下旬にある大変なことが起こり、12月27日にそれらを終息させるための手段として、茜の友人は消滅しました。
この2人が登場するのは「昼と夜の交わり」の2章目です。