警護のプロフェッショナル
「ん〜?」
旧知の人物と電話を終え、風見が事務所に戻ると、事務員である遠山雛が懸命にパソコンと電話を駆使していた。
遠山雛は2年目の新人事務員で、未だ白いワイシャツに黒い上下のスーツ、髪は一つにまとめてスッキリさせる、就活中を思わせるスタイルを貫いて?いる。大学卒業後すぐに入社したため、今年度で23歳になる。
「遠山さん、今いい?」
その遠山に声をかけたのは、もうすぐ11歳になる少年。
パーカーに長ズボンを履き、前髪は長く目が隠れるくらいまである。
その少年は定住している自分の机の下からのっそり顔を出して呼びかけた。
「えっと、ちょっと待ってください。これを、片付けたら…。あと2分くらいで。」
「なら、待つよ。」
言葉少なに静かな声で言うと、少年は机の下に戻っていった。
(今の材料だけでも検討は可能…か?いや、無理か。とはいえ、2分くらい変わらないだろう。今ある内容を頭に入れておいて…。)
風見は、事務所の現在の状況に想像がついているが、その推測を確かなものにするために誰に聞いたらいいかと一瞬考え、当たり前のように少年の方へ向かった。
「悠くん、なにを社長に頼まれたんだい?」
風見は笑顔で少年に話しかけた。
風見の笑みは貼り付けたようなわざとらしいものだが、これがデフォルトなので特に気にすることはない。
一方の少年は、遠山に話しかけていたときの無表情から一転、無表情でもかなり機嫌が悪いような顔をしていた。
「…別に。今、忙しいから後にしてくれる?」
少年は風見と話すのが面倒なようだ。
「嘘はいけないなぁ。」
(わかっているくせに。)
ねっとりとした口調で責め立てる風見に心の中で毒を吐く。
結局、少年は話した方が面倒がないと考えて端的に説明することにした。
「…。社長からの命令で各学校の文化祭の実施状況と警護の案を全て出せと言われた。風見さんならそれだけで十分でしょう?」
人と話すのがあまり好きではない悠は人との会話で追い詰めていくスタイルの風見とは相性が悪い。どちらも頭の回転が早いことには変わりないため、意思疎通は素早いのだが。
「うん、十分だよ。予想通りだ。」
その上機嫌な風見の声を聞くとすぐに机の下に潜りなおした。
風見はそのままそこを立ち去った。
「悠君、とりあえず一段落つきました。って、あれ?風見さん来てたんですか?」
「うん、ちょっとね。」
風見と話していたときの表情とは全く違うことが見る人が見ればわかる。
「なにか用があったんじゃ…。」
「俺たちの仕事を把握したかっただけだったよ。」
「それって私が答えた方がよかったのでは…?悠君に任せちゃってごめんなさい。でも、ありがとうございます。助かりました。」
やっちゃったと申し訳なさそうな顔をしたと思ったら、ありがとうと笑顔でいう。コロコロと花が咲くように表情を変えて、同じ目線でしっかりと言葉で伝える。
「ん…。遠山さん、忙しそうだったから。謝ることじゃないよ。」
少し照れたように目を逸らしながら言った。
「そういうことをサラッとやれるのがすごいんですよ。悠君はとっても優しいですから。あ、用件でしたね。なんの資料集めてきたらいいですか?」
「うん…。文化祭の日程と売店とかの配置図、きっと特諜局が調べてるからそれ。あとは、通常の各学校の地図。終わったら、当日動ける人のリストとできることできないこと。特に他のところの。手札隠したいだろうから、表向きでいいって伝えて。そうじゃないと…、多分教えてくれない。過小評価ならそれでいいから。とりあえずここまでいい?」
考えながら口頭で羅列していくものを遠山はポケットに入れてあるメモに急いで書いていく。
「はい、文化祭関係の情報と、各学校の地図。のちに、当日動ける人員の確認ですね。わかりました。各学校の地図だけ先にお渡ししますね。」
そう言ってすぐにその場を離れる。
「あ、遠山さん…。」
が、悠の声に立ち止まる。
「はい。なんでしょう?」
笑顔で悠の言葉を待ってくれる。
「…、ありがと。」
「!…はい。どういたしまして。」
悠の言葉にこれ以上ないほどに顔を綻ばせて返事を返し、今度こそ去っていった。
警護社の頭脳。
小さな天才は静かに思考に沈んでいった。




