第3篇 「冬休み」(「10colors シェアハウス」より)
この話は未読者でもわかるように書かれていますが、登場人物をまとめた「10colorsシェアハウス」という作品があるので、混乱するようであればそちらを参照してください。(登場人物紹介のみの作品です)
白川ゆり
玉響高校2年C組
かっこいい女性が大好き。
雨宮皐月
玉響高校2年A組
ショートカットでボーイッシュな美女。
さっぱりしていて性格もイケメン。
榎本凛
玉響高校3年E組
ポニーテールの和風美人。
剣道が全国クラス。
12月26日 14:25 @10colorsシェアハウス玄関口
シェアハウスの玄関口で挙動不審にソワソワしている人影があった。
「皐月様!!」
「ごめん。ゆり、待たせちゃったね。」
白川ゆりは、手を大きく振って、これでもかというほど笑った。
「いえいえ! 皐月様と凛様を1秒たりとも待たせられないと私が早く来ただけなので!」
「…いつも言ってるけど、様付けどうにかならない? 私たち同い年なんだしさ。」
ショートヘアにスポーティーな装いの雨宮皐月は困ったように笑って言うが、どうにもならないことをすでに知っている。
「いえいえ! ほんとっ、恐れ多くて!」
このやりとりを幾度と繰り返したのだから。
「まぁ、ゆりがそうしたいなら、そうしたら良いけど。」
雨宮皐月と榎本凛は学校内に非公式のファンクラブができるほど女子に人気な女子だ。
そのファン筆頭であるのが白川ゆりだ。
「その肯定と受け入れる度量っ!!もう素敵すぎる〜、課金したいっ!」
そんな愛に溢れる言葉が途切れず白川の口から出てくる…
そのとき、シェアハウスから大きな声が聞こえた。
「はああああああ??その格好で出かけるって正気か??いや、本気でそれで行くつもりなのは分かってる。けど、それは俺が許せないから。ちょっと待って…服渡すから着替えてから出かけて。えっと、今日の天気は…」
「ゆう??着替えてもなにも、もう待ち合わせ時間なんだ。待たせるわけにはいかないし…」
その声を聞いて、雨宮と白川は顔を見合わせて、今起きた出来事の全てを悟った。
「どこで何時に待ち合わせてるの?」
「いや、玄関に14:30。」
「あと3分もある。…それに、ここで待ち合わせってことは、雨宮さんと白川さん?」
「そうだが、よく分かったな。」
「大体、休日にここで会うのってその2人でしょ? なら、俺が言って伝えてくるから。」
「でも、時間が…!」
「その服で行った方が失礼だから。さっさと、その服脱いで。で、行き先は?」
「喫茶店…」
「なら、この服とこの服を着て。さっさと着替えてきて。」
「分かったよ…。」
階段を忙しなく上る足音が聞こえてきて、数秒後には美少年が玄関から顔を出した。
「花染先輩!」
「こんにちは。雨宮さんと白川さん、申し訳ないのだけれど、あと少し待ってもらえる?ジュースも出すから、上がってよ。」
花染雄星がそう言うと、2人は挨拶をしてシェアハウスに入った。
最初こそ、2人は遠慮していたが、このくだりも何度か繰り返したものだ。
流石に慣れた。
共用スペースに通されると、階段から慌てた榎本が下りてきた。
「悪いっ!! 着替えも終わった、行こう…「んな訳ねぇだろ!! 髪も顔も直せ!! いや、髪と顔は百歩譲ってそれでいいとしても、鞄は変えろ!!あと竹刀は置いていけ!」
榎本凛は、服などの見た目に頓着しない。
最低限、清潔にはするので、学校に通う分には全く問題ないが、制服orジャージor道義以外の服を着ないし、学校に行くときのポニーテールとすっぴん以外にレパートリーがない。すっぴんも美しいので問題はまあないが。
今の榎本凛は、花染雄星が指定した服を着て、ポニーテールにすっぴんに、 学校に通うための鞄を持っていた…。
花染は、榎本の鞄を取り上げて、服に合った鞄に中身を入れ替えて榎本に持たせた。
「ん、我ながらまあまあの出来じゃん? さすが俺。」
「もう満足した? じゃあ、文句ないな?」
もう疲れたと溜息をこぼして榎本は先に待っていた2人の元へ向かった。
「遅くなってごめん!」
「大丈夫ですよ〜〜」
「はい、なんとなくこの流れは予想がついていたので。」
白川、雨宮と順に答えた。
「ああ…カジュアルな凛さま尊いっ!!なかなか見れないからレアなんだよなぁ。写真撮って良いですか?」
「ああ、構わない。が、白川…いつも思うが、これを撮ってなにになるんだ?」
「私の癒しです! 安心してください、SNSに載せたり、ばら撒いたりとかはしませんから!」
「花染先輩のセンスは神なんですよ…。凛様の魅力を最大限引き出している感じが…ホントに!!」
「私はそういうのは疎いけど、その服が榎本先輩にすごく似合ってるのはわかります。」
「そういう感想は後でゆうにでも言ってやれ。」
さっぱり言ってから、3人は目的の喫茶店に歩き出した。
「先輩はもう進路決まってるんですよね?」
歩きがてら、雨宮は尋ねた。
「あぁ。スポーツ推薦で玲瓏大の体育学部だ。近いし、剣道できるし!」
にかっと笑った。
「卒業しても!また一緒にお茶できますね!」
「そうだな、たまにはたらふくスイーツを食べるのも悪くない。」
この関係が卒業後も続けられると知って白川はニコニコ笑った。
「3年生方はもうほとんど登校しないから、近況を知ることもできず…。けど、合格おめでとうございます。」
「ありがとな!!」
雨宮は屈託のない笑顔と明るさに心が暖かくなった。
「そういえば、凛様は遠山先輩に会いましたか?」
「渚か…。会ってないぞ。一希なら会っているかもしれんが、あまり学校の話はしないしな。」
遠山渚と津城一希は同じ3年A組であり、津城は榎本と同じシェアハウスの住人である。
「渚先輩は一般受験だから邪魔しないように連絡を控えているけれど、気になりますよね…。私も相談してますし。」
学級委員である雨宮は以前から図書委員長である遠山と交流があり、受験の情報や学校に関する知識などの相談をしていた。
「今度、それとなく一希に聞いてみよう。だが、響…九條ですら会えていないらしいからな。」
「へぇ、それは面白いね。」
2人はくすくすと笑った。
人の不幸は蜜の味…。
「でも、学校外と冬休み中、彼氏との接触を断つって…並々ならぬ意志ですね。」
「一応、生存確認じゃないが、毎朝意味のないスタンプは送られてくるらしいぞ?」
「意味のないスタンプwww」
白川は大変そうだなと同情的だが、榎本と雨宮は九條ざまぁと笑っていた。
「毎朝、『このスタンプの意味ーーっ!』って叫んで噛みしめながら過ごしてるよ。」
「2学期も11月以降なんかは、昼休みがない日も多かったらしく、図書室でも普段学校にいても会えないと愚痴を言っていたそうですよ。図書室にいても、とても話しかけられる雰囲気じゃないらしいのですが、見てられるだけで幸せと溶けているところを目撃したと…里見が。」
「大地も言ってましたね。なんか、『九條が壊れた!』って。」
哀れな九條は女子会のいい肴になるらしい。
♦︎♢♦︎
12月26日 14:55 @某喫茶店
「あ、着きました! ここですよ、最近いいって評判の喫茶店!!」
「雰囲気のいい店だね。」
クラッシックな雰囲気を醸し出す、いい感じの喫茶店が今日の目的地である。
「この店…2人の雰囲気とマッチするっていうか、マリアージュって感じで!! 狙ってたんですよ。受験後に遠山先輩へ送信する用で写真撮っていいですか?」
白川はスマホを両手で持って、上目遣いにねだった。
「ああ。」
「いいよ、後でゆりも一緒に撮ろう。で、私たちにもその写真をもらえるかな?」
「勿論です!!」
感動のあまり、白川は涙ぐんでいた。
「尊い……」
「大袈裟だなぁ。」
「だが、らしくて好きだぞ!」
雨宮は困ったように装って微笑み、榎本は快活に笑った。
「撮れました!! ご協力ありがとうございました!」
そう言って、店内に進もうとする白川の肩に手を置いて、
「…忘れた? 次は、ゆりも一緒に撮るんだよ?」
雨宮がそう言って微笑むと、白川は真っ赤になって、消えるように「はい……」と言った。
今度こそ、3人で写真を撮ってから店内に入った。
♦︎♢♦︎
「注文お願いします」
雨宮がそう店員に声を掛けた。
「えっと…私は、ブラックコーヒーにおすすめのパフェをお願いします。」
「そうね、私は、キャラメルフラッペを一つ。」
「…この、パンケーキとホットチョコレートを頼む。」
白川、雨宮、榎本の順に注文した。
「わかりました。ブラックコーヒー1つ、本日のおすすめパフェ1つ、キャラメルフラッペを1つ、ふわふわパンケーキ1つ、ホットチョコレートを1つ、ですね。少々お待ちください。」
店員は静かに礼をして下がっていった。
「皐月様は飲み物だけですか?」
「うん、写真見た感じ、十分お腹いっぱいになりそうだったからね。」
メニューを見ながら話は弾む。
「たしかにとっても甘そうですね。」
「恥ずかしいことに、私、苦いのダメだから。」
ちょっと照れて笑った。
「別に恥ずかしくないですよ! 嗜好は人それぞれですから!」
「私も苦いもの頼んでないしな!」
「…榎本先輩は別枠ですよ。飲もうと思えば飲めるでしょ?」
「今日はうんと甘いものが食べたい気分なんだ♪」
苦い顔して言う雨宮と子どもっぽく笑う榎本を蕩けるような目線で白川が見守る。
「ゴホン、榎本先輩は学校も減って、受験も終わって、冬休みで、どうやって過ごしてるんですか?」
雨宮が咳払いして、話を逸らした。
「登校日は学校に行って…あとは、そうだな、学校の剣道部に顔を出したり、大学の方の剣道部に混ぜてもらったり、してるな。」
「もう、大学の方の練習してるんですね…。」
白川は驚いてつぶやいた。
「あぁ、剣道の推薦で受かっているからな。」
一芸特化で高校に合格し、剣道全国クラスの榎本は当然というか、姿勢がとてもいい。
「そういう2人はどうだ? まだ冬休み入って少しだが?」
榎本は2人に質問を返した。
「私は大したことしてないよ…。そうだね、課題を早めに終わらせる必要があったから、それかな。あとは受験勉強。私の部活は緩いから休み中に練習ばっかりとかはないんだ。特に何事もない…あ、…けど、昨日は里見と出掛けたよ。」
「慧とか?」
里見慧は雨宮と同じクラスの男で、定期テスト総合1位をとり続けている雨宮の天敵兼好敵手である。
「はい。…たいっへん不本意ながら、定期テスト負け越して…総合は兎も角、接戦だった科目も全て取られたせいで、命令権が未だ大量に残っている状態になって…昨日も30日も1月3日も奴に呼びつけられるハメになりまして…。今思い出しても不甲斐ない自分に苛立つ…。冬休み明けは覚えていろよ…。」
苦々しいという表現では生ぬるいような顔をして、歯軋りをした。
里見と雨宮は科目及び総合の得点で勝負しており、1科目勝つごとに1回相手に命令を出すことができるという報酬がある。
「私はいつでも皐月様を応援してますからね!!」
「ありがとう、次は勝つよ。」
雨宮は爪の跡がつくほどに手を握り込んでいると、店員が近づいてきて、雨宮が頼んだフラッペが届けられた。
「ごゆっくりどうぞ。」
雨宮はフラッペを飲んでホッと一息ついた。
「ん、美味しい。」
雨宮は機嫌を直して、にっこり微笑んだ。
「にしても、慧が昨日上機嫌で帰ってきたのはそういうことだったか。ずっとニヨニヨしてるから気持ち悪いと思っていたんだ。」
「…きっと、私を弄んで楽しかったのでしょう。…まぁ、向こうだけ楽しませておくのも癪なので私も目一杯楽しみましたよ。」
雨宮の機嫌がジェットコースターのように、上がって下がって上がってった。
最後に昨日を思い出したのかふわっと微笑んだ。
(…というか、里見くんは…クリスマスに大晦日前日に三ヶ日最終日を抑えてるのか。…ちょっと周到すぎない?皐月様も凛様も特に何とも思ってないみたいだけど、要はデートだよね?この短い冬休みに皐月様と3回デートって…付き合ってもいないのに…。里見くんの皐月様への好意もすごいものだよね…絶対言わないけど。)
白川はそんなことを思った。
「ゆりはどうなの?」
ぼーっとして考え事をしていた白川は皐月の問いかけにビクッとしてから応えた。
「私も特別なことはありませんよ。大地の部活の予定を確認しながら課題を手伝わないとなってくらいで。」
芦屋大地、白川と同じ2年C組の生徒で、白川の幼馴染である。
「今日も、私が皐月様と凛様とお茶するってのに、『今日ならやる気しかないから課題を手伝え』とか言うんで面倒でした。他の日もやる気出せよって話ですよね…。」
「大地か…。アレは毎度思うがすごいな。当然、助けのおかげだろうが、サッカー部でレギュラーとっていながらC組を維持してるんだ。」
彼らが通う玉響高校はクラス分けがA→Eで成績順になっており、テスト毎にクラスの上下がある。
「私もそう思います。けど、本人の前で言ったらつけあがるんで、絶対言いませんけど!! でも、そうすると、皐月様や里見くんは文武両道ですごいですよね。」
「それは違うよ、私は榎本先輩や芦屋のように大会で賞をとったりできるような人じゃないから。これは…言ってしまえば中途半端なんだよね。」
雨宮は自嘲した。
「…とはいえ、学年の上位を維持してるのは事実だろう? 」
「学校っていう小さな範囲の中で、ですがね。まぁ、全てにおいて自分で満足できるかどうかってだけのことですよ。」
雨宮は息を吐いてから微笑んだ。
♦︎♢♦︎
12月26日 17:00 @10colorsシェアハウス
1時間半ほど喫茶店で会話を楽しんだ3人は、シェアハウスまで戻ってきたところで、ロングヘアの女性が声をかけてきた。
「…あら、凛ちゃん。それに…雨宮さんと白川さんね。こんにちは。」
「雅さん、ただいま。珍しいな、今日は大学のほうの友人はいいのか?」
榎本は首を傾げて尋ねた後ろで、雨宮と白川は軽く会釈した。
「いいもなにも、別に義務じゃないしねぇ。サークルはそれなりに楽しんでいるけど、合コンには興味ないの。」
悪戯にその猫のような瞳を細めた。
九條雅は玲瓏大学の2年、国際学部。シェアハウスの管理人補佐をしている。
ちなみに、白川・雨宮と同学年の九條響は彼女の弟である。
「…一昨日、昨日、で今日の午前は恋人と素敵なクリスマスを過ごせたから、今日の夕飯は奮発してシェアハウスで楽しいクリスマスを過ごそうと思ってるの。」
チャームポイントの八重歯を覗かせて笑った。
それが色っぽくて、白川と雨宮はドキッとした。
「だからねぇ、2人ももしよかったら夕飯食べていかない?」
「だそうだが、どうする?」
榎本と九條雅が返事をまって、2人をみる。
「私は予定がないので、誘っていただけるのなら…」
「私も…今日は予定とかないので…」
「なら決まりね。待って、絢人に連絡入れるから…3人は中でゆっくりしてて。」
ニコッと笑った。
「本当なら、遠山ちゃんを誘ってあげたいとこなんだけど、遠山ちゃんの意向も聞いてるし、響が悔しがる姿見るのも悪くないしね…。」
「雅さんはどこへ?」
「飲み物の買い出し…、食べ物は全部揃ってるから。…あぁ、安心して、ノンアルコールだけよ。君らが帰った後に大人だけで晩酌するから気を遣わずにぃ〜。」
「荷物持ちしますよ?」
雨宮が思わず名乗り出るが、雅は首を横に振った。
「ありがと、雨宮さん。けど大丈夫よ、1人で飲み物コーナー彷徨くの好きだしね。」
雅はそう言い残して颯爽と歩いて去っていった。
♦︎♢♦︎
12月26日 17:05 @10colorsシェアハウス ラウンジ
「絢人さん、ただいま。」
「あの…お邪魔してます。」
「お邪魔します…。」
「あぁ、雅から連絡は来てる。ゆっくりしていくといい。」
京絢人はそう言って迎えた。
彼はまだ準備があるようですぐに去っていった。
ラウンジに残され、なにを会話するでもなく、榎本は自分のソファに座り、荷物を下ろした。
雨宮は壁際に立ち荷物を抱え、白川は移動せずに立ち尽くしていた。
(まだ、凛様と皐月様と一緒にいられるなんて!! もしかして、明日私死ぬのかしら!!)
白川は呑気にもそんなことを考えてトキメキ、心が浮ついていた。
(自分の置き所がわからない…、人様の家ってどう振る舞えばいいのか…。)
雨宮はポーカーフェイスを保とうとしているが、心の中は動揺しまくっていた。
スマホを触ろうにも、失礼だろうか、とか一々考えてしまい直立不動をキープ。
(ふー落ち着く。)
榎本は後輩2人の様子にも気づかずに、最大限リラックスしていた。
「おい、凛…そりゃないだろ。」
黒髪にアジアンテイストの服を着たイケメンが1人、ラウンジに入ってきて榎本に苦言を呈した。
「悠斗、私がなにをした?」
「なにもしてないから問題なんだろ。」
悠斗と呼ばれた男は呆れて言った。
「…その2人はお前が連れてきたお前の友人だろう? こんな、人の家に連れてこられて、放置されて、どうしていいかわからなくて居心地悪くしているじゃないか。どこかに座らせるなり、荷物の置き場を教えるなりしたらどうだ?」
「……なるほど、そうなのか。」
榎本は納得したのか、雨宮と白川の荷物を荷物置き場に誘導してから、ソファに座らせた。
「…会うのは初めてだったよな? 俺は元宮悠斗、そこにいる榎本凛の従兄弟で、玲瓏大の法学部1年だ。」
微笑んで自己紹介した。
「初めまして、玉響高校2年、雨宮皐月です。榎本先輩にはお世話になってます。」
「同じく、玉響高校2年の白川ゆりです。あの、元宮さん、よろしくお願いします。」
「あぁ、よろしく。名前だけは色々と聞いてたから、不思議な感じだよ。ああ、でも、元宮じゃなくて下の名前で呼んでくれ。ここにはもう1人元宮がいるもんで。」
笑って言ってから、ちょっと待ってな、と言って、ラウンジの外から似たような服を着た、茶髪の男を引っ張ってきた。彼は片手にノートパソコンを抱えていて、大きめのピアスをしている。
「コレ、俺の双子で元宮蓮斗。俺と同じ玲瓏大で理工学部1年だ。まぁ、あんま話す機会もないかもしれないが、そういうわけで、苗字で呼ばれるとちょっと面倒なわけだ。」
「わかりました、悠斗さんも蓮斗さんも、よろしくお願いします。」
「よろしく。」
悠斗は笑顔で答え、蓮斗は目線を一瞬だけ向けて、逸らした。
「じゃ、ゆっくりしてってねー。」
悠斗は蓮斗を引き摺って去っていった。
♦︎♢♦︎
「榎本先輩の従兄弟の双子といい、九條のお姉さんといい、血縁者がなにかと多いですよね、このシェアハウス。」
雨宮は何気なくそう呟くと、
「まぁ、ここは元々、仲間内で建てた紹介制のシェアハウスだから、血縁者とか親同士が仲良しとか、そういうのばかりになって当たり前だよね。」
と、返事が返ってくる。
(この声、明らかに声変りした男の人のもの…。というか、この声って…。)
雨宮がゆっくりと振り返ると、そこには里見慧が笑顔で立っていた。
「里見…」
「びっくりしたよ、今日の夕飯ウチで食べてくってチャットで聞いてさ。なんで俺に直接教えてくれないの?」
「誤解を招く言い方をするな、お前の家で食べていくわけではない。」
(…まあ、確かにこのシェアハウスにはコイツも住んでるわけだが…。)
「榎本先輩、白川さん…雨宮をお借りします。」
いい笑顔でそう言い放ってから、雨宮を連れてどこぞへ去っていった。
♦︎♢♦︎
里見が雨宮をドナドナしてから、しばらくして。
「あっ!!オマエなんでここで夕飯食べることになってんだよ!!」
「なんでアンタにそんなこと言われなきゃなんないわけ? 私は雅さんに誘われただけで、アンタとは関係ないわよ。」
ラウンジに現れたのは芦屋大地である。
「…関係なくはねぇだろ!」
「ないわよ。別に…皐月様は里見に連れてかれちゃったけど、私は凛様と話してるから。」
「ッ!! お前はまた、凛様だ皐月様だ!」
「なにが悪いのよ。アンタには迷惑かけてないでしょ?」
「そりゃ、そうだが…。」
大地の反論が尽きかけたところで、京が料理を運んできた。
「雅も帰ってきたし、そろそろ飯にすると他の奴らにも伝えた。冷蔵庫に飲み物があるから、好きなのとって乾杯の準備でもしてこい。」
静かにそういうと、続々と人がラウンジに集まってくる。
ぐったりした雨宮とスッキリとした笑顔の里見が対照的だ。
「白川さんも、雨宮さんも、飲み物好きなのとっていってね。」
雅は笑顔でコップを渡した。
後から現れた九條響はメンバーを見渡してから、クソッと呪詛を吐いた。
こうして、賑やかな夕食が始まった。
雨宮は里見に連行された後、雨宮VS里見のオセロ対決が行われました。
雨宮がげっそりしていたのは里見にオセロで負けたせいです。