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第1篇 「異世界のクリスマス事情」(「ラッキー7の世界で」より)

第1篇では「ラッキー7の世界で」より「異世界のクリスマス事情」をお届けします。

時間軸は、洗礼式の騒動後で、王都のアズナヴール公爵の邸宅でのお話です。


《登場人物》

セシリア=フォン=エマール (通称: セシル)

伯爵令嬢で前世の記憶をもつ。この世界の言語に加えて、日本語と英語を話すことができる。固有能力で遠くのドワーフの街(公用語: 英語)とビデオ通話をしながら仕事をしている。


レオン=フォン=アズナヴール

次期アズナヴール公爵で、セシルの婚約者。


ノエル=フォン=エマール

次期エマール伯爵で、セシルの弟。しっかりしていて、姉をいつもサポートしている。姉のことが好き。英語勉強中。


ブルナン=ジェローム (通称: ローム)

元魔法師団長で、今は魔法のことが好きすぎるために魔法技術を磨くために旅に出たり、1年のうち半年はアズナヴール邸でレオンに魔法を教えたりしている。


瑞稀

セシルと契約した白蛇。人型になると白髪で美麗な男装の麗人風になる。土地神とかそういう類で、とても長生き。長く生きている中で、前世の記憶をもつ者に何人も出会っており、地球の知識もそれなりにもっている。


佐助

忍者の集落出身の忍者。いい感じの兄ちゃん。この世界の言葉だと粗雑だが、日本語になると急に堅苦しい話し方をする。


吸血鬼と獣人のハーフで忍者。将棋が好きで、無口だが小悪魔的魅力と色気がある。


《用語》

忍者の集落

数百年前に前世日本人の獣人がつくった集落。現代の日本人だったが、時代劇好きが高じて江戸時代風の集落にしてしまった。寺子屋なんかも存在し、隠密を得意とする。


ドワーフの街

ずっと昔に英語圏で生まれ育った前世の記憶をもつ者が中心となって築いた街。種族特性も相まって、亜人集落の中でも最先端をゆく。研究施設や図書館などがあり、さまざまな種族の研究好きが集まっている。公用語は英語で、セシルは以前ここへ1年間の留学をした。


転生者

前世の記憶をもつものをそう呼ぶことが多い。

亜人たちは転生者の価値を理解しており、そこから知識や技術を得て発展してきた。

 セシリア=フォン=エマールは、王都にあるアズナヴール公爵の邸宅で仕事をしながらふと地球の風習を思い出した。


 「Is there Christmas in this world? (クリスマスってこの世界にもあるの?)」


 ディスプレイ越しに仕事相手に尋ねた。

 最近、カメラができたらしく、新型のディスプレイにはカメラが内蔵されていて、ディスプレイにはちゃんと相手の顔が映し出されている。以前は、当人の視界を共有するのみで、自分の顔を映す、つまり自撮りは不可能だった。


 「Christmas? Well, It is an event for god on earth, isn't it? (クリスマス?それって、地球の神さまのためのイベントじゃなかった?) 」


 「Maybe so... (多分…)」


 名前が伝わっているだけで、特に何かをする訳ではないのか、とセシルは納得した。


 ドワーフの街は英語が公用語だし、アメリカかイギリスか、そこらへんの国の記憶をもつ人が転生したのだから、クリスマスも何らかの形で伝わっているとセシルは推測していたのだが…。


 「Do you love Christmas? (クリスマスが好きなの?)」


 「No. Actually, I've never celebrated Christmas. My parents would just give me presents. (いいえ。私はクリスマスを祝ったことはないな。両親がプレゼントをくれるだけで。)」


 小学校の頃は寝て起きたらサンタからのプレゼントは貰えたけど、クリスマスパーティーを友達とするとかはなかったな。あ、でも、学校とか英語教室とかではあったかな?


 「Why did you ask that question? (なんであんな質問したの?)」


 「Just because. (なんとなく…)」


 そこで雑談は途切れて、仕事の話を始めたのだった。


♦︎♢♦︎


 「姉さん、仕事じゃない話…してたとき、あれ、なに話してたの?」


 休憩時間は、セシリア(セシル)の弟であるノエル、婚約者であるレオン、魔法中毒者ブルナン、セシリアの右腕というか保護者的ポジションの瑞稀、忍者である佐助と楓が会話しながら過ごしていることが多い。


 「あれ、聞いていたんだ…。あれは、クリスマスの話だよ。」


 セシルは紙に"Christmas"と"X'mas"と書いた。


 「…まぁ、この世界にある宗教とは全くの別モノだから名前だけでも伝わっていて、驚いたというか。暦からして既に違うからさ、擬似クリスマスなんてことも考えなかったしさ。正直、クリスマスについてもキリスト教の行事ってことしか知らなくて。瑞稀は知ってる?」


 通称、歩く参考書という異名?をもつ、瑞稀に尋ねた。


 「知っておるわ。…日本人は色々間違って解釈をして独自の発展を遂げたクリスマスだが、そもそもはキリストの生誕を祝う行事じゃろう?」


 「つまり…イエスの誕生日ってこと?」


 セシルが意訳すると、瑞稀はそれを訂正した。


 「そうではない。イエス・キリストの誕生日なぞ、誰も知らんわ。我は"誕生を祝う日"と言ったであろう?別に、誕生した日ではない。そもそも、お主らとて、正確な誕生日なぞ把握してはいまい?」


 瑞稀の言葉にブルナン、セシルとレオンは頷いた。


 「自分の生まれた日なんて把握してはいないもんな。」


 「確かに…レオンさんの言う通り、洗礼式の日から逆算すればわかるけど、生まれた当初は、その日が何日かなんて気にしている余裕なかったもの。赤子だからか、眠気がすごかったし、周囲もよく見えていなくて…。」


 セシルは生まれた瞬間を思い出しながら言った。


 「セシル、…フツー、生まれた当時のことを思い出せるやつはいねぇよ。」


 セシルが転生者であるが故の特異な出来事といえるだろう。


 「僕は…生まれた日を姉さんがちゃんと記録してくれていたから。」


 人間文明に生きるものとしては珍しく、ノエルは自分の誕生日を記憶していた。

 というのも、この世界での日付というものを覚えたセシルがカレンダーを作成し、誕生日を記録した上で、ノエルに教え込んだからである。これもフツーではあり得ないことだ。


 「俺らは、普通に知ってっけどな。」

 「うん。」


 そう言うのは、佐助と楓。

 彼らが生まれたのは日本の江戸時代風の忍者の集落とはいうものの…時代劇マニアだった当時の転生者が時代劇の中の景色や色々に似せてつくっただけなので、現代日本の常識は普通にある。故に、誕生日も覚えているのだ。


 「けどよ、聞いてたクリスマスとは違ェぞ?」


 「佐助、どういうこと? 確かに日本は曲解している節があるけど、瑞稀がいるからそれは修正可能だろうし…。まぁ、現代日本のマーケティング戦略によって間違ったクリスマスが伝わったというなら…『恋人たちのクリスマス』みたいな?」


 「ううん…逆。」


 「逆?? どういうこと?」


 あまりに思っていたのと違いすぎたセシルは驚きのあまり頭が混乱して整理がつかなくなっていた。


 「あ゛?『リア充爆発しろ!』って行事って伝わってるぜ?」※個人の意見です


 ……虚無、セシルの目は無になった。


 「うん。『爆発的にクソリア充が量産されるクソイベ』と伝わってる。」※個人の意見です


 ……セシルの目は死んだ魚のようだ。


 「あとは『サンタコスは悪くない』…『どうせ別れんだろリア充ども』。んな感じだろ?クリスマス十七箇条ってのは伝わってんぞ?」※個人の意見です


 ……セシルは譫言のように、17…? 十七…? と呟いている。

 もはや、哀れだ。


 「姉さん、大丈夫?」


 ノエルが心配しているのが辛うじて見えたのか、セシルは元に戻ってきた。


 「いや、私も恋人とか居なかったけどさ、そこまでの怨念はないよ。むしろ、執着が凄まじいよ。瑞稀もさ、近くに居たら止めなかったの?」


 「こんなに面白いことを、止めるわけなかろう??」


 平然を装っているが、語尾に wwwwwwww がついているのか、唇を震わせている。

 セシルは、面白がって止めなかったどころか、協力した疑惑がある、とジトっとした目を瑞稀に向けたのだった。

 

 「盛り上がっているところ悪いが…ところで、リア充とはなんだ?」


 「あぁ、レオンさん。これはネットスラング?なので知らなくて当然ですよね。」


 「それはな…」


 セシルが説明をする前に、瑞稀が口を挟んだ。


 「リアルな怪獣のことだ。」


 真顔で解説する瑞稀に、佐助と楓とセシルは一斉に吹き出した。

 セシルは肩を震わせて、楓は口を押さえて笑を堪えようとして、佐助は


 「ヤベェ、みっちゃん、それはやべえよ…。リア獣(リアルな怪獣)って…ひ〜〜、マジで、許して…呼吸が…クソッ!」


 変な言葉を呟きながら笑い転げた。


 よく見ると、瑞稀も口元を隠している。


 「よほど強い魔物なのか?」


 とブルナンがつぶやくと、彼らの笑いはよりいっそう、エスカレートした。


 「気づけ…ブルナンどの、揶揄われているぞ? リアルな怪獣は完全にジョークだ。」


 レオンが諭すと、ブルナンは舌打ちを量産し、舌打ちマシーンと化した。


 「はぁ…はぁ…、瑞稀も突発的にこんな冗談を…。腹が捩れるかと思った…。笑いすぎて保健室に運ばれた人もいるんだから…もう気をつけてよ…。リア充っていうのは、リアルに充実している人のことを指した言葉で…」


 「くっくっくっく…恋人がいる奴を指した隠語だ…。」


 「あぁ、恋人がいる奴を僻んでというか揶揄ってというか、そんなふうに呼んだらしい。『リア充爆発しろォ!!』も有名なフレーズよな。」※個人の意見です


 今度こそ、正しい説明をした。


 「最初知ったとき、リアルに充実しているから恋人の有無に結びつかなくて…恋人いたことないのに、私はリア充なのでは?と困惑したし、リア充に対してそこまで過敏になる理由がわかんなかったけど…。」


 「恋人がいることにそこまで責められなければならないのか?」


 「レオンさんの指摘は、この世界だからいえることですかね。向こうの私が生きていた時代では、お見合い結婚とか、政略結婚、婚約者とかそういうのがほとんどなかったから、年頃になったら、交際したりして、恋人つくって、で、うまくいったら結婚するって感じだったんです。でも、恋愛ってコミュニケーション力がめちゃくちゃ必要な行為でしょう?だから、ちゃんとできる人なんてあんまりいなくて、そのくせ、恋愛することに対する世間からの煽りが酷くて…そこらへん、疎いからわからないのだけど、嫉妬というか、僻みというか…。クリスマスは恋人と2人でみたいな雰囲気を経済的な意味で企ててた人が、社会的にそんな空気感をつくり出し、クリスマスに向けてそんなに好きでもないのに恋人つくったりする人たちがいて…人目も憚らず、イチャイチャしたりすると、まぁ、炎上しますね。」※個人の意見です


 「燃え上がるのか?」


 「いいえ、それは比喩です。非難轟々という意味ですよ。」※個人の意見です


 セシルは、わからないなりに丁寧に説明した。


 「ったく…セシルの奴は回りくどいんだよ。要するに…自分は恋人ほしいのにできなくて、そのくせ周りではカップルがイチャイチャイチャイチャしてる状況を想像してみろ…。鬱陶しさったらないぜ。」※個人の意見です


 (イチャイチャを2回繰り返したところに佐助の意図を感じる…)


 セシルはジトっとした目で佐助を見た。


 共感を得られるだろうと言ってみたものの…賛同してくれたのはブルナン1人だった。


 「おい…なんでそんな枯れてんだよ…。若えんだろ?っつーか、みっちゃんまで!!」


 「我は…確かに独り身だが、生物的に繁殖しないゆえ、お主らと違って性欲も性愛も存在せぬ。」


 別に…って涼しげに答えた。


 「私は…まあ、目のやり場を失って困りますけど、嫉妬とかはありませんね。恋愛感情というものがわからなくて。」※個人の意見です


 「セシル…年喰ってる割に、変なところ精神年齢低いな…。ノエルはまぁ、仕方ないにして…。」


 佐助はレオンに目を向けると、ニコニコいい笑顔で笑っていた。


 「テメェは聞くまでもねぇな。クソリア充が…。」


 レオンはニコニコと笑顔で応じた。


 「…佐助、楓に聞かないのはなんで?」


 セシルが不思議に思って尋ねると、佐助は呆れたように答えた。


 「楓には恋人がいんだよ…。アイツ、ああ見えてそういうとこ抜け目ねぇから。」


 「えええええええぇ!!嘘…知らなかった。マジで、今日一びっくりした。」


 「うん…いるよ。」


 楓は隠すことなく肯定した。

 こんなに、私たちと一緒にいて、彼氏さんはどうなんだろうか。


 「…佐助も既婚者だし。」


 「あ〜それはなんとなく。」


 セシルはあまり驚かなかった。


 「セシル、テメェ、俺をなんだと思ってんだ?」


 「ん〜、遊ぶことは遊んできてんのかなって? まぁ、約束は破らなそうだけど。」


 訳) 不倫とか浮気はしなさそうだけど、明確に恋人を定めずに遊んだりはしてそう…。


 それについて、ブルナンは裏切られた…みたいな顔をしていた。


 「よっし…仕事に戻るぞ!!」


 面白かったので、崩れ落ちたブルナンを無視して仕事に戻った。


♦︎♢♦︎


 「セシリア。」


 セシルは呼びかけられて振り返ると、予想通りというか、レオンが立っていた。


 「レオンさん、もう仕事は終わったのでしょう?」


 「仕事に終わりなんてないも同然なんだけど、一応、区切りはついたかな。今日は泊まっていくんでしょ?」


 レオンは後ろからセシルに抱きついた。

 年齢差と色々の差で身長の差が大きいため、すっぽりと包み込まれる。


 「はい。レオンさん…実は寒いんですか?」


 「まぁ、ね…。けど、今はあったかいよ。」


 「なら、私にくっつく必要ないですよね?」


 「ん〜? 俺はずっとセシリアにくっついていたいけど?」


 レオンからはセシルの耳が赤くなるのが見えた。


 「可愛いな…」


 セシルの耳に唇を触れさせた。


 「/////ちょ、ちょっとなにをしてるんですか?」


 「恋人たちの日っていいなぁって思って。」


 セシルの耳元で吐息多めで囁いた。


 (やばいやばい…ダミヘか!?)


 耳の裏から首筋まで…


 「確かに我々、婚約者ですけどっ///」


 「ふふっ…」


 (耳元で笑うの心臓に悪いっ////)


 「距離感バグってますよね?」


 「…そんなことないよ、(恋人同士の)当たり前の距離感だよ?」


 「なにか含みをもった言い方に感じたのですが…。」


 「気のせいじゃない…?」


 「…そ、そうですか。」


 セシルは返す言葉がなくなって、目を伏せた。


 「…そろそろ、皆のいるところへ戻りませんか? まぁ、今も誰かしらが見てると思うのですが。」


 「俺はもう少し2人でいたいところだけど、まぁ…あまりに2人きりでいると、襲ってしまいそうだし、俺の理性が危ないからここら辺にしておこうか。」


 髪を撫でてから、セシルを解放したレオンは、卒なくセシルの片手を奪って歩き出した。


 「あと、どうせ誰かが見張ってるとか、言うなよ。…そんなこと言ってたら、一生2人きりなんてなれなさそうだろ…。」


 レオンは不機嫌そうに小声で呟いた。


 「あ…姉さん、レオンさん。夕食ができたと呼んでいましたよ。」


 皆がくつろいでいる空間で、一番に気づいたらしいノエルが声をかける。


 「チッ…からかってやりてぇとこだが、揶揄ったところでレオンは飄々としてそうだし、別にセシルを困らせたいわけじゃねぇし…。」

 「それは同意。」


 佐助と楓はレオンとセシルの後ろから現れて、本人らに聞こえないようにそんな会話を交わす。


 「こういうときに使うのか…リア充爆発しろッ!!」


 「そうはおっしゃいますけど、ブルナンどのは恋人、欲しいんですか?」


 ここぞとばかりに覚えたての言葉を使うブルナンに冷静にセシルは質問した。


 「………いや、いらねぇな。」


 3秒ほど冷静に考えてから、結論付けた。


 「というか…、そろそろ手ぇ、離してもらえません?」


 「なんで?」


 「だってそりゃ……手汗とか…? 気になりますし。」

 「ナニソレ、カワイイ。」


 「こう言うのもなんですけど、馬鹿なんですか?」

 「あ。馬鹿って言われるのも意外と…」

 「……3秒以内に離さないようなら、強硬手段を取らせていただきます。」


 レオンは最後の1秒まで堪能してから、静かに手を離して、セシルの頭を優しく撫でてから離れた。



 「さて、本日も業務お疲れさまでした。本日、私とノエルはアズナヴール邸に泊まるので、夕食を頂いてきます。」

 「うん、一緒に食べに行こう。」

 「また、レオンさんにも公爵にも挨拶しなきゃだね。」


 王都で過ごすセシル一行のある一日の話。

 これもまた、彼らの幸せな日常の話である。

本編未読者に優しくない感じになってしまったかもしれません…。

200話近くなっておりますが、もし興味をもっていただけたら、読んでいただけると幸いです。

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