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翠の令嬢

作者:佐々木勇二
最新エピソード掲載日:2026/11/02
――「船長。あなたは、ずいぶん変わったお嬢様だ」

辺境の令嬢ヴェルディアナには、人に言えない記憶がある。大戦の終わりに旗艦要塞とともに消えた、荒くれ者の船の船長だった、という記憶だ。顔も名前も思い出せない。それでも舵輪を握れば手が、風を読めば身体が、すべて覚えている。

彼女が目をつけたのは、解体場行きの旧式輸送艇。積載は並の艇の三分の一、燃費は悪く、部品は絶版。港の誰もが「くず鉄」と呼ぶ船を、宝石と貯えのすべてを注いで買い取り、戦時の装甲を剥がして細身の姿へ戻す。六年のあいだ、港の整備工ネルだけが独り手入れし続けた船は、老航法士オズワルドたちを巻き込み、動き出す。

待ち受けるのは「死の谷」。崩れた標識塔のせいで風を測る者がなく、重い船を二隻も飲んだ渓谷だ。十六年前に父が書き残した観測報告の「続き」を、令嬢は自分の翼で書き始める。返り風に逆らわず、乗る。軽く細い船だけが知る航法で。

薬商ヨナスとの取引が航路の価値を証明しつつある矢先、巨大商会グレイヴが「旗と名義と引き換えに、塔も給金も出す」と優しく手を差し出す。それを断る令嬢。けれど北の荒野「星落ちの原」で、彼女は見てしまう。地方庁の紋を掲げた武装者の天幕と、封をされた正体不明の「荷」。見ただけで指先まで凍える、その存在を。侯爵家の次男ルーファス――同じ空の匂いを知る、継ぎはぎの艇の青年――と共に荷を追えば、帳簿に載らない倉庫と、拍ごとに光る「欠片」が、平野の夜を滑っていく。

忘れたはずの影、取り戻したい風、見たことのない海。谷の風を数える船長の記録は、やがて図の端の、その先へ。
くず鉄の値段
2026/10/27 19:58
報告
2026/10/30 22:03
白紙の頁
2026/10/31 23:11
ひばり
2026/11/02 10:30
船長と呼ばれて
2026/11/02 10:32
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