- あらすじ
- 満席の熱狂の裏で、律の胸には「あれは感動的な素人への同情ではなかったか」という棘が残っていた。ホール解体が進む中、本番の動画が三百万回再生され、N響のマエストロ・桐生から電話が来る。再来年の春、NHKホールに白紙の枠がある。そこでベートーヴェンの第九を、君たちのやり方で——。詩織は「わたしの、この震える手で挑む」と受け、一年四か月の挑戦が始まる。
三年生の春、新入生が三人加わる。生まれつき耳の聞こえない響は、大貝ホールの客席で「床の震え」として初めて音楽に入れた少女。振動板と鬼頭の特訓で、リズムを足の裏で食らう。ドイツ帰りのカールは、完璧な演奏で育ちながら彼らの下手な動画に泣いた理由を確かめに入部し、「抱き合え、幾百万よ」が"いちばん抱き合えなかった人の歌"だと教える。ADHDの翔は、全部の音が同じ音量で入ってくる耳を「穴の見張り番」というレーダーに変える。だが練習は頭打ちのまま、冬を迎える。
冬休みの東京合宿で、桐生はプロの奏者を混ぜる実験を行い、無残に失敗する。プロの音に全員が萎縮し、上手いのに死んだ音になり、詩織のピアノは「邪道」と断じられ、律は「君には、何もない」と突きつけられる。さらに白瀬が受験のため離脱。だが、誰にも埋めさせず空けたままのその席が答えをくれる。俺たちの音は、代わりのいない一音だから鳴る。プロを席に座らせてはいけない——。律の直訴はまさに桐生が試した答えだった。プロはコーチに回り、詩織のピアノは「君たちの第九の背骨」と認められ、律は七十分の物語を体に叩き込まれる。二月、二百人のN響合唱団が、彼らの命がけの一音に頭を下げて合流する。
三月末、合格した白瀬が帰還して全部の硝子が揃い、三千八百席のNHKホールへ。桐生は指揮台を律に譲り、舞台袖には立花。第二楽章のティンパニは聞こえない響が叩き、第四楽章の頂点で律は叫ぶ。「——抱き合え、幾百万よ!」。総立ちの拍手の中、棘は消えていた。彼らは本物と並んだのではなく、彼らにしか出せない一音を差し出したのだ。終章、卒業とそれぞれの進路、律と詩織の答え合わせを経て、あの夜の一音は今も全員の中で鳴り続けている。 - Nコード
- N3320MN
- 作者名
- 一色迅
- キーワード
- 男主人公 女主人公 学園 現代 群像劇 ハッピーエンド 青春
- ジャンル
- その他〔その他〕
- 掲載日
- 2026年 07月26日 21時49分
- 最新掲載日
- 2026年 07月26日 21時49分
- 感想
- 0件
- レビュー
- 0件
- ブックマーク登録
- 0件
- 総合評価
- 0pt
- 評価ポイント
- 0pt
- 感想受付
- 受け付ける
※ログイン必須 - レビュー受付
- 受け付ける
※ログイン必須 - 誤字報告受付
- 受け付ける
※ログイン必須 - 開示設定
- 開示中
- 文字数
- 31,622文字
設定
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
抱き合え、幾百万よ!(下巻)
作品を読む
スマートフォンで読みたい方はQRコードから
同一作者の作品
N3320MN|
作品情報|
連載(全1エピソード)
|
その他〔その他〕
満席の熱狂の裏で、律の胸には「あれは感動的な素人への同情ではなかったか」という棘が残っていた。ホール解体が進む中、本番の動画が三百万回再生され、N響のマエストロ・桐生から電話が来る。再来年の春、NHKホールに白紙の枠があ//
N3304MN|
作品情報|
連載(全1エピソード)
|
その他〔その他〕
高校二年の須賀律は、一年の秋に肩を壊して野球部を辞めた元エース。野手として続ける道もあったのに、全部が嫌になって自分からグラブを放り出した罪悪感を抱えたまま、長すぎる放課後を持て余していた。五月のある日、閉館が決まった築//
N2890MM|
作品情報|
短編|
その他〔その他〕
どこにでもいそうな高校生四人がそれぞれの特技を合わせて協力し、また大人たちの助けを借りて飴を燃料に使ったロケットを飛ばし、世界記録に挑戦!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。