17「お買物」
前略
お父さん、いかがお過ごしでしょうか。
向こうでお母さんには会えたのでしょうか?
私がクオンさんのパーティーに加入してから七日が経ちました。
その間、依頼をこなしたりダンジョンを探索したりなど楽しい日々を送っています。
嘘です、一回も依頼をこなしてはいないし冒険なんて夢のまた夢です。
クオンさんは今、だらだらと食っちゃ寝の生活を送っています。
最初はこんなに自堕落な方だとは思いもしなかったのですが、私は入るパーティーを間違えてしまったのでしょうか?
これからが不安でしょうがないですね。
まあ、お父さんとの戦いで消耗していたので仕方がない気もしますが。
あ、今ベッドから立ち上がりました。
どこかに行こうとしているのでしょうか。
後をつけてみようと思います。
以上です。お父さんもご自愛ください。
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エリシアの冷たい視線を浴びながら、俺はここ一週間だらだらとしていた。
エリシアをパーティーに加えたあの日、加入の手続きが終わりワクワクキラキラの視線を向けていたエリシアの目が、今は光を失くしごみを見るような目つきに変わっている。
とはいえ、今は金に余裕があるわけで、俺はパーティーのリーダーとして十日の休養を提案したのだ。最近はずっと依頼だのダンジョンだので休む暇もなかったからね。エリシアはともかく、流石のフィオとセレスも、どこか俺を見る目が変わりつつある気がしたのでそろそろ体を動かすとするか。
立ち上がって外に出ようとすると、エリシアからの視線が痛かったので俺は目を逸らしながら部屋を出た。
さて、俺が外出をするのはある事をしなければならないからだ。
ぜひフィオの力を借りたいところだが、どこにいるのだろうか。
「いち、にい」
いた。宿の裏側にある広々としたスペースで素振りをしている。
......薄手のシャツで運動をしているからか、自然と視線がある部分に向いてしまう。いやいや、仲間にそういった欲をむき出しにするのは良くないな。うん。
「フィオ、精が出るな」
「おはようクオン、ようやく外に出る気になったのね」
フィオは振っていた木剣を地面について両手を休める。汗でシャツが張り付いて非常に見事な体のラインが......ぐふん。
「ダンジョンで折れちまったからさ、剣を新調しようと思って」
「なるほど。わかったわ、準備してくる」
「話が早くて助かるよ」
剣を見るならフィオと一緒の方が確実だ。俺には剣に対する見識が少ないからな。
ということで、宿の前で少し待っているとフィオが着替えて出て来た。私服だ。
「似合ってる?」
「......おう」
上は白いシャツに深緑の短いジャケット、下は黒いパンツに焦げ茶色のブーツ。髪はいつも通りのポニーテールだ。腰からは剣を下げている。格好が違えば印象もかなり変わるな。なんていうか、大人っぽいかっこいい色気がある。対する俺はいつもの装備だ。見劣り感が凄い。
うちのパーティーの連中、見てくれはかなり良いんだよな、ちょっと欠点も目立つけどさ。
「なによ、反応薄いわね」
「似合ってるって、ほら行こうぜ」
「......せっかくおしゃれしたのに」
「何か言ったか?」
「何もないわよ、行きましょ」
さて、俺達が二人で街へと繰り出そうとしている時、ある影が俺たちの後を追っていた。
「......これは、デートの匂いがしますね」
エリシアは、色恋沙汰に目がなかったのだ。
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俺とフィオは二人で市場へと来ていた。
武器屋はまだ先だが、先にお腹を膨らませよう。
少し気になっていた店に入って、料理と軽く酒を頼む。莫大な臨時収入があったからな、酒も料理も少し良いものを頼んだ。
「クオンでもこういうおしゃれな店を知ってるのね」
「おいどういう意味だ」
「べっつにー?」
なんかちょっと拗ねてるな。何でだろう、よくわからん。
「それにしても、私たちよく生きて帰ってこれたわよね」
「だな、何回か死ぬかと思った」
「次からはああいう無茶はしないでね」
「ごめんって、分かってるよ」
「ならいい」
怒っているのはダンジョンのことだろうか。確かに無謀なことだったけど、エリシアを助けるためだからしょうがないじゃんか。俺の落ち度には変わりないけどさ。
「ごめん、そういう雰囲気にしたい訳じゃなくて、今は生きて帰って来れて、Cランクに昇格できたことを祝いましょ」
「そうだな」
俺たちは先にやって来た酒の入ったグラスを掲げて、軽くコチンと鳴らす。
「ん、飲みやすくて美味いな」
「確かに、果実酒ってあまり飲んだことないけど美味しいわね」
さすがのフィオもこの良い感じの雰囲気の店では一気飲みはしないようだ。TPOをわきまえているな。
料理も運ばれてきた。豆を炒ってブラックペッパーのようなものをかけた品と、ふわふわのオムレツだ。
「わ、すごい」
フィオはオムレツに夢中だ。割ってみると中からトロトロの卵とベーコンが流れ出す。
「今度セレスとエリシアも連れて来たいわね」
「そうだな」
その後も運ばれてきた料理をつまみながら、俺たちは他愛もない会話を繰り広げた。
俺は一杯、フィオは二杯だけ飲んで、俺たちは店を後にした。良いなここ、俺のデートコースに組み込んでおこう。
さて、本命は剣だ。前にフィオが言っていたおすすめの場所に行こう。予算は金貨一枚くらいだ。
「いらっしゃい」
店の中に入ると客は俺達の他に誰もおらず、店主と思しき男がカウンターで新聞を読んでいた。
「おや、あんたらはもしかしてあれか、嘆きの巣窟を攻略した冒険者か」
耳が早いな。いや、もう一週間くらい経つんだ、噂くらい流れているだろう。
「久しぶりね。今日はクオンの剣を買いに来たわ」
「お久しぶり、フィオ嬢。仲間が出来たみたいで良かったよ」
「ちょっと、人前でその呼び方はやめてよ」
どうやら二人は顔なじみのようだ。フィオ嬢ってあれか、キャバクラの嬢的なやつか?
「クオンが変な勘違いするでしょ、まったく」
「すまないね、それで......そこの坊ちゃんの剣だっけ?」
どうやらこのおっさんは若者を嬢ちゃん坊ちゃん呼びするらしい。変な疑いをかけてすまないね、フィオ嬢。
「予算は金貨一枚程度で考えてる。良い剣が欲しい」
折れない剣が欲しかったんだ。固い剣が。
「金貨一枚たぁ大きく出たな。Cランクパーティーの団長クラスの物ができるぜ」
「実際、私たちはもうCランクよ」
俺は懐から金貨を取りだしカウンターに置く。店主はそれを受け取り、店の奥に消えた。
少しして奥から戻ってきたとき、右手に剣を、左手に見覚えのあるものを持っていた。白晶だ。
「察しの通り、こいつは白晶だ。金属との親和性も高く、さらには魔力との親和性も高い。あんた、魔法は?」
「ほんの少しだけ」
「ならちょうどいい、こいつを使った剣を今朝仕上げたところだ。値段は金貨二枚にする予定だったが、嘆きの巣窟の礼で金貨一枚にしてやるよ」
そういって店主は剣を鞘から抜いてカウンターの上に置いた。刀身が白くほのかに輝いている。これが白晶の効果か。
「かなり上等ね。クオンにはもったいないわ」
「うるせえ、俺は気に入った」
「じゃあ成立だな」
実際に手に持ってみる。重さは、前に使っていた剣より少し重い気がする。セレスがくれた腕輪の効果で、少しはマシになるだろう。しばらくは慣れないかもしれないが、使えないことはないはずだ。
「また良い武器が欲しくなったらうちに来い。少しはまけてやるよ」
「じゃあ今度は私の武器もお願いしようかな」
剣を受け取り、腰に帯びてみる。なんかアレだな、強くなった気分だな。
「今日の所は帰ることにするわ。今度は私の剣も見てよね」
「はいよ」
「良い剣をありがとう。また来るよ」
俺たちは店主に別れを告げて、店を出た。
いざ外に出て歩いてみると、なんかちょっと強くなった気がしてくる。
「似合ってるわよ」
そわそわしている俺を見て、フィオがくすりと笑う。
そういわれると自信が付く。ギルドに自慢でもしに行ってやろうか。
「ありがとうな、フィオ。良い剣が買えたよ」
「どういたしまして。大切に使いなさいよ」
「もちろん、今度は折らないようにするよ」
「本当にね」
そう言って、フィオは笑った。
さてと、目的も果たしたしそろそろ宿に帰るか。自慢はまた今度だ。
「......もう帰る?」
「ん、もう剣は買えたしな」
「そっか」
フィオの表情はどこか少し寂しげだ。寂しげに街を眺めている。
「せっかくだし、もう少し見て回るか?」
「いいの?」
「もちろん」
そう言うとフィオの顔がパーっと明るくなる。頬が少し赤い。いかん待て、あの日を思い出してしまう。アルメリカに向かう途中の野営での、あの二人きりの瞬間を。
何とか気を紛らわそうと、雑談をしながら市場を散策する。アクセサリーを販売している露店に寄ってみたり、買い食いをしたり。
しばらく経って、俺はふと隣を歩くフィオを見てみる。そういやこいつ、俺と出かけるためにこんなにおしゃれしてるんだよな。
「なによ、じろじろ見て」
「いやさ、今日の服すげー似合ってるなって」
「今更?」
「宿を出る時も言っただろ」
「あれは言ったうちに入らないわよ」
そうなのか。同じような褒め言葉なのに。
「似合ってるとかじゃなくて、なんか具体的にないの?」
それ、言うのかなり恥ずかしくないですか。
「なんか、かっこよくてかわいくて、凄い良いなと思いました」
「ふふ、ありがと」
フィオは少し照れ臭そうに笑った。照れるなら言わせないでもらえますかね。
ふと、フィオの表情が変わる。真面目な顔だ。立ち止まって振り返る。
「そろそろ出てきたらどうかしら?」
誰に話しかけてるんだろうか。知り合いでもいたのか。
フィオの向いている方を見てみると、通りの端にある木箱がガタリと揺れる。
「......何のことでしょうか?」
この声は、変な裏声で誤魔化しているがエリシアだ。
「......エリシア?」
俺がそう聞くと、エリシアは観念したように木箱の陰からひょっこり顔を出した。
「き、奇遇ですね、お二人とも」
いや、奇遇というにはあまりにも変だろう。こいつ、俺達を尾行してやがったのか。
「お前何やってんの?」
「いえこれは、お買い物を」
「木箱の陰で?」
「はい、木箱を」
「木箱を!?」
いやそれで誤魔化せるわけないだろ。
「何でついて来てたんだ?」
「......だって、二人とも一緒に外出するから気になるじゃないですか」
なんだ、仲間外れにされて寂しかったのか?
「二人でデートなんて、気になるじゃないですかぁ!!」
「なっ!?」
ででででで、デートぉ?
俺とフィオが?
え待ってなに、エリシアの目からは俺達がそんな風に見えてるの?
「パーティーの中に恋仲の男女がいるなんて、今後の活動のためにも調べる必要があるかと!」
ちらりとフィオの方を見るとかなり赤面している。初心だなこいつも。
「ちょっと待て、俺たちは剣を買いに来ただけなんだ。これは決してデートでは......」
「デートじゃ、ないの?」
「え!?」
フィオは否定するかと思ったが、なんでそんなに寂しそうで悲しそうな顔で俺を見るんだよ。
「デート、かもしれないが、俺たちは付き合ってるというわけじゃないんだ」
「そうやって嘘をつくんですね。ちょっと良いお店で良い雰囲気になってお酒まで飲んで、かなり良い雰囲気で市場を回って、そしてこの先は色街じゃないですか。二人してゴールインしようとしているじゃないですか!」
この先ホテル街なの?
いやでもこういう世界の色街って男専用みたいな感じでしょ?
「えーん、二人とも大人の階段を上るんだぁー!」
そう言ってエリシアは走って逃げて行った。
「......」
俺たちの間には微妙な空気が流れる。
「よし、帰ろっか」
「そうね」
俺たちは振り返って来た道を戻る。背後の色街に用はない。
「また、二人でお出かけしたいな」
「......おう」
そう言われて俺は照れ隠しで、すかしたような微妙な返事をした。
宿に帰ると顔を赤くしたエリシアがベッドで丸まっていた。俺たちの姿を見てキャーと喚くので、俺とフィオで一発ずつ頭に拳骨を落としたのだった。




