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16「葬送と、これから」



 俺たちはあまりの疲労に、丸一日眠っていたらしい。

 女将さんは心配で何度か俺たちの様子を見に来ていたらしいが、蹴とばされて床に落ちて唸っている俺と、よだれをたらし幸せそうな顔で寝ているフィオ、鼻提灯を作って姿勢正しく寝ているセレス、そして灰が詰まった瓶を抱きしめてすやすやと眠っているエリシアを見て安心したようだ。

 さて、起きた時には真昼間だった。

 セレスとエリシアはまだ寝ていたが、フィオの姿が無かった。

 俺が下に降りていくと、フィオがご飯を食べていた。


「あら、あんたも起きたのかい。ほら食べな」


 そういって女将さんは俺にも料理を出してくれた。スープとパン、とても美味しそうに見える。食べてみると、なぜか涙が出てしまった。


「何泣いてんのよ、まったく」


「うるせぇ」


 泣いている俺を、フィオは茶化すでもなく放っておいてくれた。フィオは自分が食べ終わった後も、俺が食べ終わるのを待っていた。

 生きててよかった。みんなが無事でよかった。


「エリシアとセレスの準備が終わったらギルドに行きましょう。やることは多いわ」


 やること、といえば嘆きの巣窟あたりの報告だろうな。


「わかった」


 小一時間もするとセレスとエリシアも起きて来てご飯を食べた。セレスは相当腹が減っていたらしく、パンとスープを三回もおかわりしていた。


「魔力を使いすぎたからたくさん食べる必要がある」


 とのことだ。エリシアもおかわりしていたから本当なのかもしれないな。

 さて、俺たちはしっかり身なりを整えてギルドへと向かう。

 入ってすぐ目に入ったのは紅蓮の盃の連中だ。


「お前らに、嬢ちゃんも、無事だったのか!?」


 向こうもすぐに俺たちに気づいて、近づいてくる。


「救助隊を組もうと思ってたところだったんだ。無事に逃げることができたみたいで良かった」


 まあそうだよな、あのダンジョンをクリアできたとは到底信じられないよな。


「実はさ......」


 ダンジョンボスのアンデッドを倒し、嘆きの巣窟は白晶の洞窟に戻ったということ。それを伝えた時、紅蓮の盃の連中は驚いていた。


「はぁ!? 嘆きの巣窟を攻略した!?」


 その声はギルド中に響き、俺たちは注目を浴びていた。

 まじかよという反応もあれば、どうせホラだろという反応まで様々だ。

 まあ別に信じても信じなくてもいいんだけどさ。

 そんなやり取りをしていたら、金髪の受付嬢が近づいてくる。


「皆さん、こちらへ来てください」


 俺達四人は、受付へと向かう。俺たちの話を聞いていた冒険者連中は、受付に来た俺たちの周りに陣取る。野次馬だな。


「では、カードを拝見します」


 俺は言われた通りカードを出す。


「あなたもです」


 エリシアもカードを出した。例の黒い石板の上にカードをかざす。


「クオンさんのパーティー、並びにエリシアさん。ダンジョンボス撃破の記録あり。嘆きの巣窟、攻略済みです」


 受付嬢がそういった瞬間、周りの冒険者が一気に騒がしくなった。


「すげぇ!」


「あっちにいるのはドジのフィオに、連携できない魔法使いセレスじゃねえか。そんなのをまとめているあの男は何者だ!?」


「なんかインチキでもしたんじゃねえのか?」


 反応は様々だ。


「インチキじゃねえよ」


 俺達を庇ったのは紅蓮の盃の赤髪のリーダーだ。


「俺たちは途中で逃げたが、こいつらは最後まで戦ったんだ。嘘を吐くような連中だとは思わねえ」


「少し待っていてください。ギルド長に相談します」


 そう言って受付嬢は階段を上って行った。

 さて、俺たちは質問攻めにあった。


「ボスはどんな感じだったんだ?」


「お前らは何者なんだ?」


「ランクはなんだ?」


 と、聖徳太子も真っ青なほどだ。

 何とか流していると、階段から偉そうに髭を生やしたおじいさんが降りて来た。あれがギルド長だろうか。後ろから、セレスと同じくらいの年の紫髪の女性も降りてくる、愛人だろうか。

 冒険者たちは自然と道を開ける。


「こほん、ではギルド長どうぞ」


 髭のおじいさんがそう言って下がる。いやあんたがギルド長じゃないんかい。

 紫髪のお姉さんが前に出る。ごめん、愛人とか言っちゃって。


「パーティー名は、まだ未定か。クオン一行とエリシア君、嘆きの巣窟の攻略、実に見事だった」


 ここは、ありがとうございますとか言った方が良いのだろうか。しかしギルド長は続ける。


「白晶の洞窟で取れる結晶は素材としての希少性も価値も高い。つまりあの洞窟の危険性が下がったということは今後のエルム周辺の経済にも大きく影響を及ぼすだろう」


 そんなに高いものだったのか。いくつか採取してきたら良かったな。疲れててそれどころではなかった。


「よって、攻略報酬金としてクオン一行に金貨を百枚、エリシア君に三十枚を進呈。そして全員のランクをCランクへと昇格とする!」


 周りからは歓声が上がる。俺たちのことをインチキだと言っていた奴らも、手のひらくるくるだな。

 って金貨百枚!?


「本来であればランクは一つずつしか上げないのだが、今回は例外だ。しかし、Sランクのダンジョンを攻略したからと言って、慢心はしないことだ」


 まあそれは十分身に染みている。あれは、色々な偶然が積み重なって手に入れた結果だ。親父さんを眠らせたいというエリシアの願いの力だ。それを勘違いできるほど俺の頭はめでたくはない。


「はい」


「......良い返事だ」


 そう言って、ギルド長と髭のおじいさんはまた上へと戻っていった。あのおじいさんは結局誰なんだよ。

 さて、そこからはもう宴会だ。新しい英雄が誕生しただのどうのこうの。みんなが酒を飲んだ。当然、俺達もだ。最初は人に囲まれて少し居づらい感じだったが、酒が進めば俺達も舞い上がっていた。

 フィオはガタイの良い冒険者と飲み比べをしている。


「私はまだまだ飲めるぞぉ!!」


 あいつ、またゲロを吐くんじゃないだろうか。

 一方で俺は紅蓮の盃の連中と仲良くなった。リーダーの名前はアルベルト、歳は俺の一つ上だった。どうやってボスを倒したかを聞いてきたので、話してみると目を輝かせて聞いていた。

 セレスはにこにこと笑いながらエリシアの頭を撫でている。あいつ酔ってんな。


「エリシアは偉いなぁ!」


「あ、ありがとうございます……」


「しかも可愛い!」


「セ、セレスさん? もう何回目ですか、それ」


「何回でも言ってあげる!」


 酔っているセレスはいつ見ても新鮮だ。エリシアはそんな酔っ払いの扱いに困っている。

 ......エリシアと話をするべきだろうな。


「フィオ、ちょっとこいつ頼む」


「フィオも強くて偉いなあ!」


「ちょ、困るわよ!」


 俺は酔っ払い(セレス)を酔っ払い(フィオ)に預けて、エリシアと話す。


「どうした、浮かない顔をして」


「クオンさん、ごめんなさい」


 そっか、エリシアは父を見送ったばかりだ。浮かれてた俺達が悪かったか。


「皆さんは、気にせず盛り上がってください。ただ私は、今は父を悼みたいんです」


「エリシアはこれからどうするんだ?」


「そうですね、明日この灰をお墓に埋めてあげたいと思います。父が消息を絶ってから教会でお墓は作りましたが、そこに父は眠っていなかったので」


「それがいい。俺達にも一緒に弔わせてくれ」


「ぜひお願いします」


 そこでエリシアは笑顔を見せた。


「本当に、ありがとうございました」


「おう」


 その日はまた、べろんべろんに酔っぱらってしまっていた。

 エリシアは教会の方で泊めてもらうようで、俺たちは三人で宿へと帰った。

 さて、次の日の朝は俺たち三人とも下着姿で寝ていましたとさ。

 女将さん、ごめんなさい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 俺たちはあまり派手な服を着ずに、今日は教会まで足を運んでいた。

 酔ってはいたが、エリシアとの約束は忘れていない。親父さんを、弔ってやるんだ。


「皆さん、おはようございます!」


 エリシアは俺達を教会の前で待っていた。

 そのまま聖堂のような場所に入り、清めの儀式だ。とはいっても、神官さんが短めの祝詞を読み光魔法で俺達を清めるといった簡単なものだ。その後、聖堂の奥にある通路を通り、墓場に移動する。小さな花がたくさん咲いていて綺麗な場所だ。かなりの数の墓石も、規則正しく並んでいて美しさを感じる。墓場に抱く感想ではないかもしれないな。

 エリシアの案内で親父さんの墓石の前まで移動する。『サマルディ、ここに眠る』と墓石に彫ってある。


「魔法で穴をあけることもできますが、私は手で埋めてあげたいです」


 とのことで、俺たちは素手で穴を掘り始める。爪の間に土は入ってくるし、小石が多くて少し大変だな。

 少し掘って、そこに灰を入れる。灰に向かってエリシアは清めの魔法を唱え、そして埋めた。


「お父さん、心配しないでね」


 エリシアはしばらく祈った。俺達も一緒に祈る。俺は手を合わせる。こっちの作法はよくわからないし、日本式でいいか。

 祈り終わって、俺たちは墓場を後にする。

 聖堂を抜け、入り口まで出る。


「皆さん、ありがとうございました」


 エリシアは、俺たちに深く頭を下げた。


「気にすんなよ、俺達だって冒険者ランクが上がってお金も貰ってウハウハなんだ。ウィンウィンってやつだ」


「それでも、ありがとうございました」


「気にするな」


「そうよ、頭を上げなさい」


「本当に、どうやってお礼をしたらいいのか......」


 お礼、か。ちょうどいいな。


「じゃあさ、俺たちのパーティーに来いよ」


 ちらとフィオとセレスの方を見るが、特に反対の雰囲気はない。むしろセレスは当然とばかりの態度にも見えるし、フィオもにししと笑っている。


「そんな私なんて」


「エリシアは私に使えない魔法を使える。能力としては申し分ない」


「いえ、そういうことではなく......」


 エリシアは言い淀んでいた。なんだよ、俺たちのパーティーに不満でもあるのかよ。


「私は、わがままを言って皆さんを危険な目にあわせてしまいました。こんな人間がいたって、また皆さんに迷惑をかけるかもしれません」


 なんだよ、そんなことか。


「こちとら右も左も分からない駆け出し冒険者に、ドジばっかりの残念娘、魔法全力ぶっぱの魔法使いだぜ? 今更問題児の一人や二人くらいどうって事ねえよ」


「......でも」


「うるせえ、ギルド行くぞ」


「......はいっ!!」


 こうして、俺たちの仲間にエリシアが加わったのだ。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


前略


お父さん、どのようにお過ごしでしょうか。

女神様のもとへ無事導かれたのでしょうか。

私は、今日からクオンさんのパーティーに入りました。

なかなかクセが強い方々ですが、多分楽しい冒険者生活になると思います。

あの時持ち帰ったお父さんの杖は私が使い続けようと思います。

これでずっと、見守ってくれている気がするから。

でも親離れはしますからね、寂しがらないでくださいね。

たまにですけれど、また報告に来ます。

どうか、安らかにお眠りください。


エリシアより。





ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


第二章『願いの白晶』は、これにて完結となります。


第一章とは少し雰囲気を変えて、エリシアとその父親を中心とした、少しシリアスな物語を描いてみました。


皆様の心に少しでも残る物語になっていれば幸いです。


さて、次回からは第三章『炭の街に燃ゆる紅』が始まります!


まずは激しい戦いを終えたクオンたちの、少しばかり平和で賑やかな日常から。


新たに四人となったパーティーの冒険を、これからも楽しんでいただければ嬉しいです。


作品への評価やブックマーク、感想、レビューなども、いつも執筆の励みになっています。


今後とも『Good Unluck』をよろしくお願いいたします!

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