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15「どうか、眠って」


「作戦?」


「作戦というには賭けの要素が強いですが、でもこれしかないと思います」


 賭け、か。お生憎様、俺は賭け事には少しだけ強いんだぜ。


「一度も成功したことが無い魔法ですが......それを使えば父を倒せると思います。私の残りの魔力だと、チャンスは一回きりですが」


「ああ、できるって信じるよ。どのみち親父さんを倒すにはエリシアの光魔法しかないんだ」


「......ありがとうございます。魔力を集中させるのに少し時間がかかります。皆さんは、父のあの胸の玉を何とかしていただきたいです」


「ああ、任せろ」


 俺は走ってセレスの隣まで向かう。


「ごめん、待たせた」


「問題ない。行くぞ」


 セレスも今の作戦は聞こえていたのだろうか、いや聞こえなくてもあの玉を何とかしないといけないことは分かりきっている。

 俺がただ飛び出しても、十秒も時間稼ぎは出来ないだろう。でも一つだけ、俺も賭けの要素は強いが作戦があった。


「燃やせ、『火球魔法(ファイアスロー)』」


 俺は魔法を剣を持っている手から放つ。剣を俺の体の一部と考えて、魔力を流すイメージだ。魔力を、留める。


「.....できた!」


 俺の剣は、炎を纏っていた。こういうエンチャントっぽい奴はファンタジーのお約束だしな。


「ーーー、『水球魔法(アクアスロー)』」


 アンデッドは俺に向かって水球を放つ。当たれば一発で意識を持っていかれるであろう高威力の魔法。しかし、俺は不思議とそれが怖くなかった。

 俺は剣を水球に向かって振りぬく。思った通り、水球は真っ二つになった。こいつの水魔法は、炎で切ることができる。しかし、それだけで俺の剣からは炎が消えてしまった。


「そこまで上手くはいかねえか!」


 だが、一発防いだだけでも十分だ。俺はアンデッドの懐に潜り込む。突き、あの玉を、真っすぐに突いて破壊しなければ。しかし、アンデッドもそんなに簡単に隙を作っていたわけではなかった。杖の先から出た水が刃を成し、まるで杖は薙刀のような武器に変わる。まずい、俺の剣より、あいつの攻撃の方が先に届く。


「まったく、考えなしなんだから」


 やられると思った矢先、アンデッドの攻撃をフィオの剣が受け止めていた。お前しばらく起きないって話だったじゃねえかよ。


「お前まだ起きれる傷じゃねえだろ!」


「私だけ、寝ているわけにはいかないわよ!!」


「ーーーーーーー、」


 アンデッドは、杖を持っていない方の手で俺に魔法を唱えようとしていた。だがそれも叶わない。


「炎よその槍を以って敵を打破せよ、『炎槍魔法(フレイムランス)』」


 アンデッドの腕がセレスの炎によって貫かれる。今度こそ、隙が出来た。


「いっけぇぇ!!」


 俺は全力で剣を突き出した。そして、届いた。

 剣は、確かに玉に突き刺さった。ヒビが入って、砕け散る。はずだった。


「なっ!」


 しかし折れたのは俺の剣だった。おそらく安物の俺の剣は、この局面で限界を迎えてしまったのだ。

 俺の体はそのままアンデッドの体にぶつかり、あっけなく俺が反動で倒れてしまった。

 足りなかった。俺じゃまだ足りなかったんだ。


「クオン、諦めるな!」


 刃を受け続けていたフィオが、吹き飛ばされる。


「ぐあっ!」


 俺は、ビビっていた。もうどうしようもないと、諦めてしまった。

 近づいてくるアンデッドに恐れ、後ずさっていた時だった。俺の右手に何かが当たる。これは、結晶か。この洞窟の白晶が落ちていたんだ。俺はそれを手に取った。

 立ち上がって、手にした白晶を振り上げる。玉には、折れた剣の刃先が突き刺さったままだ。俺はその刃先を更に押し込むように、白晶を思い切り叩きつけた。

 玉が、アンデッドの核を守っていた魔法道具(マギア)が、パリンと音を立てて砕け散る。


「エリシアぁぁぁ!!」


 俺は思いっきり叫んだ。


「みなさん、ありがとうございます!」


 エリシアは、杖を構えて立っていた。

 杖の先が、眩い光を放つ。

 エリシアの手が、杖が、震えている。エリシアは杖を力強く握りしめて、唱える。


「天より賜れし光よ、穢れし死者の魂を清めよ、『葬滅魔法(グランドバニッシュ)』!!」


 それは、エリシアが今まで一度も成功したことが無かった光魔法であった。

 光は鳥の姿になって、アンデッドへと真っすぐに飛んで行く。


「ーーーーーーーーー、ーーーーーーー、『水龍魔法(ミルドラ)』」


 アンデッドは水の龍を放つ。鳥と龍がぶつかって、激しい衝撃が起こる。あまりの衝撃に俺は吹き飛び地面を転がる。どちらの魔法も、一歩も引けを取らない。

 アンデッドもエリシアも、杖から魔力を送り続けている。


「お父さん。どうか、眠って」


 エリシアの放つ光が、徐々に大きくなる。光の鳥も、さらに輝きを増す。

 その時は、訪れた。

 エリシアの放った魔法が、アンデッドの放った魔法を上回った。

 龍は打ち破られ、弾け飛ぶ。

 鳥はまっすぐと、アンデッドの胸へと飛んだ。そして、闇の塊を撃ち抜いた。


「......やった」


 闇の塊は霧散し、アンデッドの目から炎が消える。そしてその体は段々と崩れて、灰となった。


「たお、した」


 俺は、腰が抜けてなかなか立てなかった。

 エリシアは、灰の元へと駆け寄っていた。


「お、おと、おとう......さん......」


 灰を両手ですくって、握りしめていた。

 そして俺は、目を疑った。

 エリシアの前に、男が一人立っていたのだ。男は淡い光に包まれている。あれは、アンデッドではない。

 エリシアも気付いたようだ。


「キリシア......か?」


 男は、知らない名前を呼んだ。いや、響きはエリシアに少し似てるな。


「いや、エリシアなのか」


「お父さん!!」


 エリシアは、その男に抱き着いていた。


「お父さん、お父さん!!」


「大きくなったな、エリシア。お母さんと見間違えちゃったよ」


「3日で帰るって、言ってたのに......!」


「ごめん、長い間待たせてしまった」


「もう、抜けてる人なんだから!」


 エリシアは泣いていた。


「俺は、そうか。死んでしまったのか」


 エリシアの親父さんは、少し悲しそうな笑顔を浮かべていた。


「お前が俺を止めてくれたんだな。長い夢を見ているようだった。悪い夢だ。だがお前が、そんな俺を起こすんだ。毎朝起こしてくれたようにな」


 頭を撫でる。


「ごめんなエリシア。もう、行かなくてはならない」


「お父さん、ずっと会いたかった」


「俺もだよ。愛してる、エリシア」


「私も、大好きだよ。お母さんが死んじゃって、大変だったのにずっと育ててくれてありがとう。魔法を教えてくれてありがとう。抱きしめてくれて、ありがとう」


「俺は、幸せだったよ」


「お父さん!」


 エリシアの親父さんが消えていく。光の粒になって、消えていく。エリシアを抱きしめている腕が、頭を撫でている手が、消えていく。


「お父さん、大好き」


 その言葉を聞いた親父さんは、満足そうに微笑んだ。そして、光の粒となって消えていった。

 エリシアはひとしきり泣いた後、瓶を取り出して灰を拾っていた。さらには親父さんが使っていた杖も拾っている。大切な遺品だな。

 正直、もう動けない。でも、帰らないとな。


「よし、帰ろう」


 俺は立ち上がり、みんなに声をかけた。

 塞がれていた出入り口はいつの間にか開いており、無事に出る事が出来た。洞窟は、入って来た時とは全く様相が変わっていた。


「綺麗ね」


 アンデッドの姿は影もなく、結晶は真っ白に輝いていた。戻ったのだろう。十年前の白晶の洞窟に。

 そして道中にはいなかったようなスライムなどが現れるようになっていた。こいつを見るとなんか安心するな。

 洞窟を抜け、俺たちは無事に外に出る。もう外はかなり明るかった。

 紅蓮の盃たちは、流石にこの場を離れたようだ。

 俺たちは一言もしゃべらずに帰路に就く。もう、喋る気力すら残っていない。

 何とかエルムに辿り着き、宿に入る。

 女将さんは俺たちの様子を見て驚いていた。


「金とかは後で良いから、これ飲んで寝な」


 女将さんは俺たちにコップ一杯の水を飲ませる。エリシアなんかはもう立っているのも限界だったから、女将さんにおんぶされて部屋まで運ばれていた。


「ちゃんと寝るんだよ」


 そういって女将さんは俺達四人を部屋に入れ扉を閉めた。

 ああ、帰ったんだな。

 俺たちは全員がベッドに倒れ込み、そのまま深い眠りに落ちた。







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