14「まだ死ぬわけにはいかない」
逃げ場がない。あんな水魔法、俺のちっぽけな火魔法が十や二十個あっても太刀打ちできない。
死。そのイメージが明確に浮かぶ。
「怯むな!!」
フィオの怒号で、我に返る。そうだ、あきらめてはいけない。
相手はアンデッドだ。エリシアの光魔法なら確実にダメージが通るだろう。俺たちは時間稼ぎをすればいい。
「滅せ光よ、『光滅魔法』」
エリシアの放つ光が、アンデッドの元へ向かう。アンデッドは杖を持っていない左手でその光を受け止める。やったか。
「再生、してる......!」
光が当たりアンデッドの左手は消失した。しかし、すぐさま黒い靄が左手を覆って、新しい左手が現れたのだ。
エリシアの魔法でも、奴は倒せない。それなら一体どうすればいいんだ。
「クオン、フィオ、少し話がある」
「なんだ?」
「あのアンデッド、胸のあたりから膨大な魔力を感じる。おそらく、そこが核だろう」
そう言われ、俺はアンデッドの胸のあたりを見る。ローブで分からないが、そこに弱点があるのか。
いやまあ心臓部だし大体の生物の弱点は胸なんだけどな。
「じゃあ俺とフィオで胸のあたりを攻撃してみるか」
「了解!!」
アンデッドは、じっとしている。俺たちの出方を伺っているのか。
「行くぞ!」
俺とフィオは左右に展開しながら走り出す。アンデッドの水魔法は、どっちかが受けることになるだろう。
「ーーー、『水球魔法』」
杖の先から水の球が高速で放たれる。奴は俺ではなくフィオに狙いを定めていた。フィオはその攻撃を剣で受けるが、あまりの威力に剣を手放してしまった。
だが、隙が出来た。俺の剣は、届く。アンデッドの胸のあたりを横薙ぎに斬る。
「これが、核か!」
ローブの中は骨だった。あばら骨の中に、ガラスのような玉が見えた。玉の中に蠢く闇の塊がある。
「燃やせ、『火球魔法』」
俺はその玉に火球を放つ。しかし、火球は玉に触れた瞬間に消えてしまった。
もしかして、この玉は核を守っているのか。
「ぐっ!」
アンデッドは杖を薙いだ。杖の先が俺の脇腹にめり込み、次の瞬間には俺の体は地面を転がっていた。
「炎よその槍を以って敵を打破せよ、『炎槍魔法』」
セレスの放つ炎の槍が、真っすぐとアンデッドの核へと突き刺さる。しかし、その炎も霧散してしまった。奴の核は健在だ。核を守っている玉も無傷だ。
「魔法が、かき消された」
「てことは?」
「あの玉に、魔法は効かない。おそらく物理攻撃のみ有効だろう。あの弾かれ方は、高度な魔法防御の魔法道具だ」
それなら、もう一度潜り込んで壊してやる。
「待て、クオン!」
セレスが呼び止めたが、もう遅かった。
「ーーーーーーーーー、『水牢魔法』」
俺の周り四方八方を、水の塊が囲う。それらは、俺の体を飲み込む。
まずい、息が出来ない。俺、死ぬのか。
俺の意識は、あっけなく飛んだ。
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気づけば暗い所にいた。
「クオンさん、お久しぶりです」
あー、またここか。
今度こそ、死んだのか。
「なんか、クオンさんってこんなにかっこいい人だったんですね」
何の話だよ。
「わざわざ仲良くもない女の子のために命を懸けて」
そんなんじゃねえよ。ただ、放っておけなかっただけだ。
「ふふ、そういうところですよ」
なあ、頼むよ。あいつらを助けさせてくれ。俺をまた転生させてくれ。
「それは出来ません」
何でだよ。徳ポイントなら、後で絶対に稼ぐからさ。
「もう二度と、同じ世界には転生できない決まりだからです」
くそっ。俺は、あいつらを守れなかった。
「いえ、まだです」
......どういうことだ?
「クオンさん、まだ死んでいませんよ」
そうなの?
「では頑張ってください。あなたの力で、あの女の子を助けてあげてください」
わかった。俺、やるよ。
「ご武運を」
俺はそこで、眠りに落ちた。
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「げほっ!」
気付けば俺はむせていた。水を吐き出す。
「大丈夫ですか!?」
エリシアだ。良かった、まだ生きてた。
ふと横を見ると、俺と同じようにフィオが横たわっていた。
「癒せ光よ、『治癒魔法』」
エリシアの手から放たれる緑色の光に、俺とフィオの全身が包まれる。
体が、どんどん楽になっていく。
「俺、どうやって助かったんだ?」
「フィオさんが攻撃を仕掛けている隙をついて、セレスさんが水を蒸発させました」
「フィオ......」
「フィオさんは、まだしばらく目覚めないでしょう」
フィオは、俺が気を失った後は俺の代わりに戦っていたはずだ。前のアンデッドの群れの戦いから、その疲労とダメージは蓄積していたはずだ。
待てよ、じゃあ今誰が戦っているんだ。
俺は急いで体を起こす。まだ体が痛む。
「......セレス!」
セレスは、一人でアンデッドと対峙していた。
二人は杖を構えてにらみ合っている。
「ーーーーーーーー、『水刃魔法』」
先に動いたのはアンデッドだ。杖の先から、水の斬撃が三つセレスへと襲い掛かる。
「我を守護せよ、『炎壁魔法』」
対するセレスは炎の壁を展開し刃を防ぐ。
さらにカウンターを仕掛ける。
「炎よその槍を以って敵を打破せよ、『炎槍魔法』」
槍は壁の炎を吸収し、更に威力を増してアンデッドへと迫る。
しかしアンデッドも追加で攻撃を繰り出していた。
「ーーーーーーーーー、ーーーーーーー、『水龍魔法』」
四匹の水龍が槍を正面から飲みこもうとする。
一匹、二匹、三匹目を貫いたところで槍は消失する。残った一匹がセレスへと迫る。
水龍はセレスの目の前で自ら瓦解し飛び散る、しかしその水は消えずに、セレスの周りを囲い始める。あの構えは、俺を飲み込んだやつだ。
「セレス、危ない!」
「愚かな敵を焼き払え、『灼炎魔法』」
炎がセレスの周りを渦を巻いて展開する。
水の塊は蒸発し、炎はなお健在だ。その炎をセレスは杖の先に集め始める。
「燃やせ、『火球魔法』」
俺の放つそれとは、まったく威力が違う。これが、凄腕の魔法使い同士の戦い。
「......すげぇ」
俺は思わず声が漏れてしまった。
......いかん、俺も戦わないと。
「ーーーーーーーー、『水刃魔法』」
今度は五個の水の刃が飛び火球を切り刻む。
そのうち三つは蒸発したが、残りの二つがセレスを襲う。
一つは横に跳んで回避したが、もう一つの刃が軌道を変え襲いかかりセレスの頬のすぐ横を通り過ぎた。セレスの左頬からツーと血が流れる。
セレスが、押され始めている。あいつだって、疲労や魔力の消費が大きいはずだ。
「クオンさん、一つ作戦があります」
俺の治療を終え、フィオの治療に専念し始めたエリシアが、そう言ったのだった。




