13「四人」
俺は軽くエリシアの頭を小突く。
「まったく無茶しやがって」
「無茶はクオンも一緒でしょ」
辺りはアンデッドたちに囲まれている。
そして、この空間の壁にも黒い結晶がたくさん生えている。禍々しいな。
「俺達が防ぐ、エリシアは光魔法でとどめを刺してくれ」
「分かりました」
「それで、隙が出来たら逃げるぞ」
「......はい」
こいつ、まだ諦めてないのか。
隙が出来たらぶん殴ってでも連れて帰ろう。
「やるぞ!」
俺とフィオがアンデッドの剣を受け止める。
でも、俺もそろそろ限界だ。握力が無くなってきているのを感じる。
「風よ現れろ、『突風魔法』」
セレスは俺達四人が完全に囲まれないようにアンデッドの群れに風穴を開ける。
「滅せ光よ、『光滅魔法』」
エリシアが目に入るアンデッドたちに光魔法を叩き込む。この四人は、バランスが良い。
一見すると戦闘は成り立っているように見える。いや、成り立ってはいるのだ。しかし、埒が明かない。倒しても倒してもアンデッドは起き上がる。
「この空間、魔力の流れがおかしい」
セレスがそう言う。魔力の流れとやらと、アンデッドが起き上がることには関係があるのだろうか。
持久戦とも言えるこの戦いで、先にガタが来たのはエリシアだ。
「きゃっ!」
気を抜いていたというわけではないだろう、しかし彼女は極限状態だった。休みなく魔法を唱え続け、精神的にも限界が来ていた。彼女は足を滑らせて体勢を崩し、光魔法をアンデッドに当てることなく壁に飛ばしてしまう。
次は俺だ。剣が手から落ちてしまった。それをフィオがカバーする。こいつ凄いな、俺の穴を一人で埋めている。俺は咄嗟に魔法を唱え何とか援護する。
このままでは、圧倒的な物量に押しつぶされてしまう。こいつらを、死なせてしまう。
「クオン」
「なんだ!?」
「少しだけ、少しだけだが、魔力の流れが変わった」
魔力の流れ、俺には見えないものだが凄腕の魔法使いであるセレスはそれが見える。そしてその流れが今何かしらの原因で変わった。
なんだ、これは何かのヒントか。俺は、辺りを見渡す。
圧倒的なまでのアンデッドの群れ、ボロボロの仲間たち、何とか起き上がってアンデッドを倒すエリシア。相も変わらず、黒い結晶で覆われた空間。黒い、結晶......?
見つけた。一か所だけ、ポツンと壁が白くなっている。あそこはエリシアが誤って光魔法を当てた場所だ。結晶が、白く浄化されたのか?
「クオン、立て!」
フィオの言葉にハッとして、俺は剣を取って立ち上がる。
「みんな聞いてくれ!」
「なんですか!」
「これは賭けだ、見当違いだったら無駄骨だが、もうこれに賭けるしかない」
俺の思いついた策、それは余りにも無謀だが、これが何故か一番しっくりくる。
「エリシア、この壁についてる結晶は浄化できる。全部浄化するんだ!」
「結晶を......?」
エリシアは周りを見る。気付いたようだ、先ほど自分が魔法を当てた場所に。
「分かりました!」
エリシアは魔法を唱え、結晶を浄化する。俺たちはひたすらに耐える。
思った通り、結晶は光魔法を当てると真っ白に光り始める。
「クオン、魔力の流れがどんどん変わっていく」
「フィオ、分かるか!」
「うん、アンデッドたちの動きが、だんだん鈍くなってる!」
俺とフィオはひたすらにエリシアとセレスを守る。こいつらが居なくなれば俺たちに勝機は無い。二人に近づくアンデッドを片っ端から引き離す。時には蹴飛ばして、時には大きく剣を振りかぶって弾き飛ばす。
しかし、アンデッドの攻撃を剣で受けた瞬間、俺の手から剣が落ちていた。
「クオン!」
フィオが、俺の前に割り込んで敵を剣の腹で殴り飛ばす。その際、敵の剣がフィオの肩をかすめた。
「フィオ!」
「私は大丈夫、それより剣を取って。クオンが折れたら、もう誰も立ち上がれなくなる」
俺は剣を拾う。もう正直握力なんて限界だ。手の感覚があるのかすら怪しい。だが、やるしかない。
セレスはずっと魔法で大量の敵を散らし続け、エリシアは光魔法で結晶を浄化していく。結晶を浄化する度に、エリシアの顔は疲労の色が濃くなっていく。しかし、エリシアは決して杖を下ろさなかった。
「あと、少し......!」
結晶が半分ほど浄化されたころ、一部のアンデッドの体が崩壊し始めた。
そこからはもう俺たちに余裕ができ始めていた。
「これで、最後!」
最後の結晶が浄化された。
残ったアンデッドは、もはやほとんど動いていない。
「滅せ光よ......『光滅魔法』」
それらのアンデッドを、エリシアはすべて光魔法で倒しきった。彼女の魔力も、もう限界に近いのではないだろうか。
しかしアンデッドはもう、蘇らなかったのだ。
「終わった......」
最後には、誰も立っていられなかった。いや、セレスだけは杖を支えに立ち続けているな。あいつの体力と魔力はどうなってんだ。
正直、俺はもう動けない。
「エリシア、帰るぞ」
「......でも!」
そりゃ、父親を助けたいだろう。自分で、終わらせてやりたいだろう。でもそれは今じゃない。
「またリベンジしよう、攻略方法は分かったんだ。次はもっと万全な状態で来れるはずだ」
「......分かりました」
結局、結晶を浄化するとなぜアンデッドが弱まることになったのだろうか。ただの直感だったが、俺は賭けに勝ったらしい。汚染された結晶がアンデッドに力を与えていた、ということなのだろうか。真相は分からないな。
「さてと」
俺たちは何とか立ち上がる。
さあ、帰り道も大変だ。
「......!!」
セレスが震えていた。
「みんな、早くここから離れよう」
セレスがそういった瞬間だった。
かなり近い所で、地響きが鳴り響いた。
「なんだ!」
振り向くと、そこに一体のアンデッドが膝をついていた。上から、降りて来たのだ。
大きさは二メートルほど、杖を持っている。顔は、骨だ。しかし右目の所が燃えている。ボロボロの、聖職者のようなローブを纏っていた。
言われなくても分かる、こいつが、ボスだ。Sランクダンジョン嘆きの巣窟のボスなんだ。
「......お父さん!」
「ーーーーーーーーー、ーーーーーーー、『水龍魔法』」
エリシアの父親は、いや今はアンデッドと呼ぶ。アンデッドは、魔法を唱えた。
杖の先から水が大量にあふれ、やがてその水が龍の形を模す。龍は、俺達をめがけて口を開けて近づいてくる。まずい、体が動かない。
「炎よその槍を以って敵を打破せよ、『炎槍魔法』!」
セレスが咄嗟に炎魔法を唱え、龍を撃ち抜く。
龍は弾けて姿を消す。
「......逃げろ!!」
少しだけ呆然としたが、俺は叫んだ。これまでの敵とは次元が違う。オークだとかゴブリンだとか巨大スライムだとか、そんな奴らとは比べ物にならない。
立ち上がって、逃げようとした。しかし、逃げられなかった。
「出口が、塞がっているわ!」
こうして俺たちは、準備もままならないまま戦わざるを得なくなったのだ。




