十二 麗景殿にて
麗景殿。
潔子は、萩野と話していた。
「道顕様が、左遷されたそうですね」
「はい」
萩野は、頷いた。
「これで潔子様も、安心して暮らせますね」
「萩野……」
潔子は、萩野の手を取った。
「お前が、倒れたのもすべて、道顕様の策略だったのですね」
「はい」
「許せません」
潔子は、涙を流した。
萩野は微笑む。
「でも、終わりました」
「……もう、恐れることはないのですね」
「はい」
萩野は強く、頷く。
「もう、何も恐れることはありません」
「中宮様も、弘徽殿にお戻りになられるでしょう。そうしたら――」
萩野は潔子の言葉を途中で遮った。
ひどく、珍しいことだった。
「無礼を承知でお尋ねいたします。潔子様は――中宮様のお戻りを願っておられますか」
潔子は眼を瞬いた。
そして、眉間にしわを寄せる。
「萩野」
「はい」
「私は中宮様を姉上のように思って、慕っているのですよ。私を救ってくださった、大切な方。そして、主上が一番大切に想っている方」
萩野は溜息を吐く。
「ですから、余計にです。潔子様が後宮を取り仕切る絶好の機会。左大臣基隆様が見逃すはずがございません」
「だからこそ。今度は私が中宮様をお守りする番だわ」
萩野はやれやれと頭を振った。
「お強くなられましたね」
「中宮様の、主上の、そしてお前のおかげよ」
「であれば」
萩野は潔子の前に手を付き、額づいた。
「萩野も腹を括って、今まで以上にお仕え申し上げますことを、ここに誓います」
潔子は目を細めた。
「宜しく頼むわ。萩野」
「はい」
「頼りにしています」
「はい」
主従は見つめ合い、微笑む。
麗景殿を、涼やかな風が通り抜けていった。




