十一 再会
その日の夕刻。
真薫の屋敷に、客が訪れた。
簀子縁に腰を下ろしていた真薫は、客が来たとの雑色の声にうわの空で頷いた。
少し腑抜けていたと言ってもいいだろう。
大きな荷を下ろし、なんだかとても、肩が軽い。
だが、それが却って落ち着かない。
ふわふわとして、心許無い。
足音が聞こえたが、視線は向けなかった。
「四郎様……」
だが声を聞いて、真薫は驚いた。
(この声は……)
弾かれるように顔を向けた。
その視線の先に。次子が立っていた。
「なみ……」
真薫は、息を呑んだ。
幻かと思った。
「お久しぶりです、四郎様。――いいえ、真薫様」
だが、次子は確かにそこに立って。
涙を浮かべていた。
「次子殿、どうして……」
「中宮様が、背中を押してくださいました」
次子は、微笑んだ。
「もう、道顕様の影に怯えることはありません。何の気兼ねもなく、真薫様にお会いできます」
真薫は、何も言えなかった。
ただ、次子を見つめていた。
変わらない、優しい表情。
しかし、以前よりも強くなった眼。
「真薫様……」
次子は、一歩近づいた。
「長い間、お待たせしました」
真薫は、ようやく言葉を見つけた。
「次子殿……待っていました」
二人は、静かに見つめ合った。
長い、長い時間が流れた後の、再会。
真薫は、次子の手を取った。
温かい。
存在を、この手で確かに感じられる。
痛くないように。
それでも可能な限り強く、握り締める。
「次子殿……」
「はい」
「ずっと、待っていました」
真薫の声が、震えた。
次子は、微笑んだ。
「私も、ずっと……」
二人は、抱き合った。
もう、言葉は要らない。
伝わる温もりに、涙が溢れた。




