六 帝への報告
顕実が実薫を訪った。
憔悴した様子だった。
悩み抜いた表情だった。
顕実は開口一番、言う。
「……やってやる」
真薫は、息を呑んだ。
顕実の眸は強く光っていた。
その光は揺れていたが、迷ってはいなかった。
「顕実殿……」
「やってやるよ」
顕実は、不機嫌そうに言った。
「父上を、止める。別に、お前のためじゃないからな」
顕実は、顔を逸らした。
「姉上が、苦しんでいる。麗景殿女御様も、助けようとした陰陽師も、犠牲になった。――多くの人が、苦しんでいる」
顕実は、真薫を見た。
「それを、見ぬふりはもうできない。止めるだけだ」
顕実の目は少し血走って、けれど淀んではいなかった。
腹を決めた男の表情だった。
「お前に頼まれたからじゃない。私が、自分で決めた」
真薫は、ただ頭を下げた。
「ありがとうございます」
他に何が言えるだろう。
「礼を言うな。気持ち悪い」
不機嫌そうに言い放ち、しかし、顕実の目は優しかった。
「直接、裏帳簿を見せるのではなく」
顕実は少し考えて、続けた。
「まず、帝に調査を求める。そして、式部省が正式に報告する形にする。それなら、お前も兼遠様も、告発者にはならない」
真薫は、頷いた。
「ご配慮ありがとうございます」
「だから礼を言うなと……」
顕実は、不機嫌そうに言った。
しかしその顔は、どこか照れているようだった。
清涼殿。
顕実は、蔵人として帝に謁見した。
「主上」
「何だ、顕実」
「重大な報告がございます」
顕実の声が、震えていた。
「麗景殿女御様への、呪詛事件についてでございます」
「聞いている。検非違使庁にも捜査を進めさせている」
帝は、眉をひそめた。
「陰陽寮の安倍定明が阻止したそうだな。その際に、負傷したものがいるとも聞いた」
「はい。仰せの通りでございます」
顕実は、頭を下げた。
「しかし、この事件の背後には……」
顕実は、言葉を選んだ。
「重大な陰謀がある可能性がございます」
帝は、顕実を見た。
「陰謀……?」
「はい」
顕実は、続けた。
「式部省に、詳細な記録があると聞いております。怪異雑掌が長年、記録を続けていたそうです。調査を、命じていただけませんでしょうか」
帝は、しばらく考えた。
顕実の様子を見た。
蔵人として、いつも冷静な顕実が、震えている。
それだけで、事の重大さがわかった。
「……わかった」
帝は頷いた。
「式部省に、調査を命じる」
顕実は深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
なんとかそれだけを口にした。
顕実は、もう後戻りができないことを実感していた。
自分は既に、選んだのだ。
あとは委ねるだけしかできない。




