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式部省の呪詛係  作者: 浮田小葉子
第十三章 断罪
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六 帝への報告

 顕実(あきみつ)実薫(ちかゆき)を訪った。


 憔悴した様子だった。

 悩み抜いた表情だった。


 顕実は開口一番、言う。


 「……やってやる」


 真薫は、息を呑んだ。

 顕実の眸は強く光っていた。


 その光は揺れていたが、迷ってはいなかった。


「顕実殿……」

「やってやるよ」


 顕実は、不機嫌そうに言った。


「父上を、止める。別に、お前のためじゃないからな」


 顕実は、顔を逸らした。


「姉上が、苦しんでいる。麗景殿女御様も、助けようとした陰陽師も、犠牲になった。――多くの人が、苦しんでいる」


 顕実は、真薫を見た。


「それを、見ぬふりはもうできない。止めるだけだ」


 顕実の目は少し血走って、けれど淀んではいなかった。

 腹を決めた男の表情だった。


「お前に頼まれたからじゃない。私が、自分で決めた」


 真薫は、ただ頭を下げた。


「ありがとうございます」


 他に何が言えるだろう。


「礼を言うな。気持ち悪い」


 不機嫌そうに言い放ち、しかし、顕実の目は優しかった。


「直接、裏帳簿を見せるのではなく」


 顕実は少し考えて、続けた。


「まず、帝に調査を求める。そして、式部省が正式に報告する形にする。それなら、お前も兼遠様も、告発者にはならない」


 真薫は、頷いた。


「ご配慮ありがとうございます」

「だから礼を言うなと……」


 顕実は、不機嫌そうに言った。

 しかしその顔は、どこか照れているようだった。



 清涼殿(せいりょうでん)

 顕実(あきみつ)は、蔵人として帝に謁見した。


主上(おかみ)

「何だ、顕実」


「重大な報告がございます」


 顕実の声が、震えていた。


「麗景殿女御様への、呪詛事件についてでございます」

「聞いている。検非違使庁にも捜査を進めさせている」


 帝は、眉をひそめた。


「陰陽寮の安倍定明が阻止したそうだな。その際に、負傷したものがいるとも聞いた」

「はい。仰せの通りでございます」


 顕実は、頭を下げた。


「しかし、この事件の背後には……」


 顕実は、言葉を選んだ。


「重大な陰謀がある可能性がございます」


 帝は、顕実を見た。


「陰謀……?」

「はい」


 顕実は、続けた。


「式部省に、詳細な記録があると聞いております。怪異雑掌(かいいざっしょう)が長年、記録を続けていたそうです。調査を、命じていただけませんでしょうか」


 帝は、しばらく考えた。


 顕実の様子を見た。

 蔵人として、いつも冷静な顕実が、震えている。


 それだけで、事の重大さがわかった。


「……わかった」


 帝は頷いた。


「式部省に、調査を命じる」


 顕実は深く頭を下げた。


「ありがとうございます」


 なんとかそれだけを口にした。

 顕実は、もう後戻りができないことを実感していた。


 自分は既に、選んだのだ。

 あとは委ねるだけしかできない。


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