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式部省の呪詛係  作者: 浮田小葉子
第十三章 断罪
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五 顕実と顕子

 顕実は顕子を訪ねた。


「姉上」

「顕実……どうしたの。随分疲れているわね」


 顕子は、赤ん坊を抱いていた。

 ふにゃふにゃと笑う、顕実の姪であり、皇女。


 新しい命。


「姉上、少し、お話ししたいことが……」

「何?」


 顕実は、躊躇した。

 だが、迷ったのはほんの一時。


 話さないわけには、いかない。


「姉上は、父上のことを、どう思っていますか」


 顕子は、目を(みは)る。


「父上を……?」

「はい」


 顕実は、顕子を見た。


「姉上は、父上の娘として、幸せですか」


 真っ直ぐな問い掛けに、 顕子は何も言えなかった。


 赤子が泣く。


 それを優しくあやしながら、顕子は小さく言った。


「……幸せ、ではないわね」

「姉上……」


「父上は、冷酷な方」


 顕子は赤子を見た。

 その眼に、優しさと悲しさが揺れている。


「私のことも、この子のことも――すべて、権力のための道具としか思っていない」


 顕子の声が、震えた。


「もし、この子が女子なら……父上は、失望するだろうと思っていた。ええ、失望したのでしょう。孫の顔を、見にすら来ない」


 顕子の眼から一粒の雫が落ち、赤子の額に落ちる。

 赤子は何も知らぬげに笑っている。


 今が幸せの絶頂のはずなのに。

 姉は幸せに、浸りきれない。


(姉上も、苦しんでいる)

(父上のせいで)


 顕実は、決意した。


「姉上」

「何?」


「私は、父上を止めます」


 顕子は、驚いた。


「顕実……?」

「もう、これ以上の犠牲は許せません」


 顕実は、立ち上がった。


「姉上を、これ以上苦しめるわけにはいきません。麗景殿女御様も、その女房殿も。――多くの人が、父上のせいで苦しんでいる」


 顕実の目が、決意に満ちていた。


「私は、父上の息子です。しかし、それ以前に、一人の人間です。人として、正しいことをします」


 顕子の両目から涙が零れ落ちた。


「顕実……」

「姉上、覚悟してください」


 顕子は、顕実が揺らぎそうな心を必死で押さえつけているのが見えた気がした。


「父上は失脚します。私が――それを成します。姉上のお立場も、悪くなる。それでも」


 顕子はそっと腕の中の赤子を抱き締め、顕実を見た。


「……わかったわ。ありがとう、顕実。私は大丈夫。この子も、私が守るわ。だから、こちらのことは憂うことなく、あなたが思うことを成しなさい」


 顕子は微笑んだ。

 母親の顔をしていた。


「あなたは、強い人ね」


 顕実は、何も言わなかった。

 ただ、頭を下げた。



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