二 真薫の覚悟
真薫の屋敷。
真薫は、一人で考えていた。
手箱の前に座り、蓋を開ける。
十二個の裏帳簿。
兼遠が書き溜めた、十八年分の記録。
そして、先日の麗景殿女御潔子への呪詛の仔細を認めた、新たな裏帳簿。
すべてが、ここにある。
法師陰陽師は定明の推察通りの者だった。
札が当たった場所が、焼けただれたように傷付いている。
あの夜、定明が放った術によるものだ。
白を切りとおすことはできなかった。
証言をする代わりに謝礼を求められたが、とにかく証言は取れた。
呪詛は間違いなく、道顕の命によるものだったことが証された。
真薫は、深く息を吐いた。
裏帳簿の一冊一冊を手に取った。
重い。
紙の重さではない。
記録された真実の、重さ。
犠牲者たちの、無念の重さ。
真薫はもう一度、深く息を吐いた。
(これを、顕実殿に見せる)
(友人に、父親を糾弾させる)
真薫は目を閉じた。
唇を噛む。
(許されることではない)
(しかし、他に方法がない)
真薫は、目を開けた。
決意が宿っていた。
(許してほしいなどとは、言わない)
(許されることを、望まない)
(ただ、すべてを話して、顕実殿に選んでもらう)
真薫は、筆を執った。
手が震えるのを、意志の力で無理矢理に押さえつけた。
顕実への文を書く。
文字が硬く強張っている。
——顕実殿、お話ししたいことがあります。
私の屋敷に、来ていただけませんでしょうか。
真薫は文遣い童に文を託す。
主のただならぬ様子を察したのだろうか。
文遣い童は決意に満ちた表情で文箱を受け取り、頷いて駆け出した。
真薫は、待った。
心臓が、激しく鳴っていた。




