一 夜明け
翌朝。
式部省。
藤原真薫と藤原兼遠は、安倍定明から報告を受けた。
「昨夜、麗景殿で呪詛が行われました」
定明は、疲れた顔で言った。
一晩中、秦明の看病をしていたのだろう。
目の下に、隈ができている。
「僕が、阻止しました。しかし、同僚が……」
定明の声が、わずかに震えた。
「呪詛の余波で倒れました。幸い、命に別状はありません」
真薫は拳を握りしめた。
兼遠は深く息を吐いた。
「道顕様が、またやったのか……」
「おそらくは」
定明は、頷いた。
「呪詛を行ったのは、法師陰陽師でした。呪詛を生業としている者に、心当たりがあります。そいつの住処を、知り合いの武官に当たってもらおうと思っています」
定明は実薫を見た。
「実薫殿なら、証拠を確保しようとするでしょう。僕もそうします。そいつの証言を取りましょう」
真薫は立ち上がった。
「――もう、待てません」
握り締めた拳が震えていた。
「道顕様は、今まさに潔子様を害そうとしました。これ以上、犠牲者を出すわけにはいきません」
兼遠はゆっくりと息を吐いた。
そして、頷く。
「そうだな」
兼遠は、真薫の肩に手を置いた。
「時が来た。裏帳簿を、使う」
真薫は、頷いた。
「はい」
定明も、頷いた。
「僕も、協力します」
「ありがとう、定明殿」
真薫は、定明の肩を叩いた。
「一緒に、戦いましょう」
「はい」
定明は、疲れた顔で微笑んだ。
「僕、強くなりましたから」
その笑顔には、確かな強さがあった。




