48.ウルフドッグだ
「たのも~っ!!」
教会の前でサミアンは道場やぶりのようなセリフをはいた。
ちなみに、まだ残像が見えている……
「サミアン、頼まなくても、教会の門戸は開いているぞ」
サミアンの感情の高ぶりと、ガインの空気を読まない冷静さの温度差が激しい。
指摘するのも面倒なので、クリスは一人で教会に入って行く。
「とりあえず、入るぞ」
「おかあたま~!!」
クリスに続き、ガインも教会に入る。腕の中のサミアンは、教会内をキョロキョロしながら、挙動不審になっている。
どこからか攻撃が飛んでくると思っているのだろうか……
祭壇の奥には、翼を広げた黒い竜の像が鎮座している。
聖竜教では、世界を創った聖竜は黒い鱗を持つ巨大な竜だったと伝えられている。
「こんにちは、お祈りですか?」
奥に行くと、祭壇の掃除をしていたシスターが声をかけてきた。
「あ、いえ、少し調べ物をしておりまして、歴史や伝承に詳しい人を探しております。信者の中にそのような方がいましたら、ご紹介いただきたいと思い、寄らせていただきました」
クリスは、挙動不審のサミアンが警戒されないように、できる限り、にこやかな笑顔で言った。
「あら、そうですか。でしたら奥へどうぞ、神父様なら多少お答えできることもあるかと思いますわ」
親切な受け答えだが、表情はどこか不満そうだった。
人間のクリスが祈りを捧げないことが不満なのかもしれない。
シスターの後ろを歩いて行くと、中庭から子供達の声が聞こえてくる。
「シスター、お客さん?」
「ええ、神父様は奥にいる?」
「いるよ。ねぇねぇ、お兄さん達は冒険者?」
来客が珍しいのか、子供達がワラワラと寄ってくる。
「ああ、そうだ」
「ランクは?」
「おれがSで、こっちのクリスがAランクだ」
「うぉぉっ!! すっげぇ!」
ガインは、子供相手には駆け引きしないようで、バカ真面目に答えた。
(おれなら、適当に答える!)
「タミアンは、まだランクはありまてん」
(おまえもかっ!)
サミアンが震えながらそう言うと、Sランクに沸き立っていた子供達の興味は一気にサミアンへ向けられた。
「おまえ、獣人なのか?」
「やーん、可愛いっ!」
男の子達には、ただの興味だが、女の子達には違う意味で興味を持たれたようだ。
「あっちで一緒に遊びましょう?」
「そうだなっ、行こうぜ! タミアン!」
サミアンは、クリスとガインを見上げた。
遊びに誘われるのは、初めてなのかもしれない。さっきまでの震えは止まり、次第に尻尾が揺れ始め、「行きたくてウズウズ」といった様子だ。
「みんなと遊ぶか? サミアン」
クリスがそう言うと、嬉しそうに耳を立て、ガインの腕から飛び降りた。
「いってきまちゅ!」
「ああ、話が終わったら迎えに行く」
子供達と一緒に駆け出すサミアン。なんだか、とっても感慨深い。
しばらくその姿を眺めていたが、シスターが適当な所で声をかけてくれた。
「では、お二方はこちらへ」
神父の執務室に入ると、年老いた人間の神父が「どうぞ」と椅子を進めてくれた。
案内してくれたシスターに礼をいい、ガインと二人で席につく。
「歴史や伝承をお調べとうかがいましたが、具体的にはどのような?」
「わたしたちは、白狼の伝承を調べています」
口下手なガインの代わりにクリスが答える。
「白狼ですか…… そちらの獣人の方は、狼に近い犬種のようですが」
「ああ、ウルフドッグだ」
(聖職者相手に、嘘をつくのは問題ないのかッ!?)
「そうですか、聖竜教の教義において「白狼は神の名を語る不届き者」とされていることはご存知ですかな?」
「ああ」
(えっ? そうなの?)
クリスは必死で平静を装った。




