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異世界あるある短編

その婚約破棄、公爵は了承しているのですか

作者: 川崎悠
掲載日:2026/08/29

「その婚約破棄について、メルベール公爵は了承しているのですか」


 たった今、婚約者である第三王子から婚約破棄を言い渡された、メルベール公爵令嬢サフィーナの言葉だ。

 多くの貴族が集まった大規模なパーティー会場。

 そのような場で、第三王子クレベリオが婚約破棄を大声で宣言した。


 両者は少し離れた場所で、互いに向き合って対峙している。

 クレベリオのそばには、側近の男性が二人と下位貴族令嬢が一人、控えていた。


「公爵の了承だと? 当然だ!」

「当然?」

「お前の弟であるエリックが認めているのだ!」

「弟とはいいますが、彼は養子であり、サフィーナ・メルベールの義弟にすぎず、この婚約がなくなれば公爵家を出る身です。彼が認めたからとて公爵の意思とはなりませんよ」

「そんなことは関係ない! 我が側近たるエリックこそが、次期メルベール公爵である! ゆえにその意思こそがメルベール公爵の意思である!」


 クレベリオがそう宣言するのを聞き、公爵令息エリック・メルベールが勝ち誇ったように笑みを浮かべる。


「……エリック。何か申し開きはありますか」

「申し開きですって? 姉上、貴方は自らの罪がわかっていないようですね」

「罪?」

「ええ! 貴方は殿下との関係をうまく築けず、この縁談を壊したのです! 僕が殿下と交流を深めていなければメルベール家は王家と敵対するところでした! それを僕が取り持ったのですよ!」

「…………」

「父上も僕を認め、姉上を廃して次期公爵と認めてくれるでしょう!」

「……そうか、それがお前の言い分か、エリック」

「……? なんです? その言葉遣いは」

「かまわん。続けるがいい」


 それからも第三王子クレベリオとエリックたちの一方的な言い分は続いた。

 果ては、彼らのそばにいた下位貴族令嬢が前に出てくる。


「サフィーナ様、謝ってください!」

「……謝るだと?」

「ええ! 私はサフィーナ様が謝ってくださるなら、貴方を許してさしあげます!」

「許す、だと」

「私がメルベール公爵令嬢になった暁には、ちゃんと相応しい婚姻相手を探してさしあげますわ!」

「……小娘、頭がおかしくなったか?」

「なっ……」

「なぜ、貴様がメルベール家の娘になる前提で話す」

「そ……」

「それは私がそう決めたからだ!」


 クレベリオが下位貴族令嬢を庇うように前に出る。


「サフィーナ! 貴様の代わりに彼女をメルベール家の養女とし、私と婚約を結ぶ!」

「……クレベリオ殿下。お戯れが過ぎますな。そのことを公爵が了承しているとでも? 実の娘をさしおいて、その小娘を養女にすると?」

「当然だ! サフィーナよりも彼女の方がずっと、」


 そこで、とうとうサフィーナが声を張り上げた。


「ふざけるなッ!!!」


 ビリビリと会場の空気が震えるような大声を上げるサフィーナ。


我が娘(・・・)を、我が公爵家をどこまで愚弄するつもりだ、第三王子風情がッ!!」


 そう、サフィーナは口にした。


「……は? 我が娘……?」


 気迫のこもった、淑女とは思えない表情を浮かべたサフィーナは、確かにそう言った。


「茶番はここまでにしよう。事前に聞いていたから、こうしたものの、度し難い」


 サフィーナは手にしていた扇を振る。

 すると扇は、またたく間に一本のステッキへと変化した。


「えっ」


 サフィーナは大人のようにそのステッキをつき、トントンと床を鳴らした。


 バキバキ、バキン!


 という、この場に相応しくない、硬質な音が響き、サフィーナの姿がヒビ割れていく。


「ひっ……!?」


 否。ヒビ割れたのはサフィーナだけではない。

 サフィーナを包む景色ごと、空間にヒビが入り、砕ける。

 砕けた景色の向こう側に立っていたのは、高齢の男性。


「あっ……!?」

「なっ!」

「ち、父上!?」


 そう。そこに立っていたのはメルベール公爵、本人だった。

 彼の娘サフィーナではない。


「な、なん……どういう、サフィーナはどこに」

「我が娘なら、我が家にいますよ。今夜は娘の代わりに私がこの場で出席した」

「は……!?」

「クレベリオ殿下、娘を迎えにも来ませんでしたな。それだけでなく、婚約者である娘をさしおき、そちらの小娘をエスコートしていた」

「あ……」


 クレベリオやエリックたちは顔面蒼白に変わる。

 今夜、ここにいたのはサフィーナではなく、公爵本人だったのだ。

 いったい何を聞かせてきたのか。


「エリック」

「ひっ……」

「貴様、今この時をもって、我が公爵家から除籍とする」

「なっ……あ、ま、待って、お待ちください、父上……!」

「黙れ。貴様が私のことを父などと呼ぶな」

「で、ですが!」

「貴様は我が娘を愚弄した! なんのために貴様を養子に迎えたと思っている? 我が娘サフィーナのためだ! はき違えおって!」

「……!」

「エリック・バトゥー、貴様の除籍は決定事項だ。この先、如何なることがあろうと絶対に覆さん。バトゥー子爵! 貴様の息子を今すぐここから連れ出せ! 沙汰は追って報せる! それまで一歩たりとて家から出すなッ!!」

「は、はい!」

「あ……ああ……!」


 エリックの実父である子爵が、エリックの腕を引き摺り、強引に会場から連れ出していく。


「さて、クレベリオ殿下」

「あ……こ、公爵、違うのだ、これは……」

「我が娘、サフィーナとの婚約破棄は承知した。だが、有責はそちらだ。王家にも抗議する」

「う……く、それは……」

「これも決定事項だ。覆さん。たとえ王だろうとだ。我が最愛の娘への愚弄は、メルベール公爵家への愚弄と同じ。断じて許さん」


 公爵に睨まれ、クレベリオは絶望した顔で膝を突いた。


「そこの小娘、貴様は無礼討(ぶれいう)ちだ」

「え……」

「今すぐ、自らの足でこの会場から出ていけ。王都で次に貴様の姿を見かけたら、その場で騎士に殺させる。家にも帰るな。貴様の家にも騎士を向かわせる。貴様の姿を見かけた時点で切れと命じておく」

「え、あ、そんなこと……」

「公爵家を、その家の娘を、著しく愚弄した。お前の身分も低い。この国では無礼討ちが許されるほどのことだ。この会場に多くの証人もいる。裁判になろうと認められるだろう。疾く、失せろ。命が惜しくば、死に物狂いでこの国から出ていけ、今すぐ。これ以上の温情は貴様に与えん」

「あ、あ、待って、そんな、私」

「失せろ。それともこの場で死ぬか」

「ひっ……! いやぁあ!」


 小娘は、逃げるように会場を去っていく。

 誰もそれを止めず、近寄ろうともしない。

 クレベリオもまたその背中を目で追うしかできなかった。


「クズが」


 ビクリと震えるクレベリオ。


「いつ、貴様が吐いた妄言を、メルベール公爵である私が受け入れた? ふざけるな」

「…………ぁぁ……」


 メルベール公爵は、ひざまずくクレベリオの近くまで来て、見下ろしながらそう吐き捨てたのだった。



 後日、メルベール公爵家と王家の間で話し合いが行われ、クレベリオは王籍を剥奪。

 離宮に封じられ、監視される日々を送ることになった。


 エリックは実家の子爵家に戻されたものの、そちらでも除籍。

 平民となり、小さな領地の片隅に押し込まれ、一生をそこですごすことになった。


 下位貴族令嬢だった小娘は実家が爵位を返上させられ、平民となった。

 そのあと、王都で彼女の姿を見た者はいない。


 他にもこの件について関わった者たちは、のきなみ処分を下された。



 そうして穏やかな日常を取り戻した公爵家の屋敷では。


「お父様ったら、何もかも自分で解決してしまわれましたわね……」

「はい、サフィーナお嬢様」

「私の出番がまるでありませんでしたわ」

「……まぁ、これが一番手っ取り早いですからね」

「そうですけどねぇ」


 サフィーナは頼れる父親に感謝しながら、淹れられた紅茶を飲むのだった。


婚約破棄RTA

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― 新着の感想 ―
言葉使いが男性になったので、実は普段は隠しているけど男言葉を話す公爵令嬢?と地の文読み飛ばしたかと思って読み直しましたわ。 実は男言葉を話す最強ママンがいる家庭で、ママンが娘瓜二つで娘のドレスを着てい…
最速!
次期公爵を勝手に定めて、令嬢すら別の家から持ってくる!とか、王家主導でお家のっとりを宣言するの封建社会では致命的じゃないのか?? 第三王子だから政治どころか常識も教えてもらえなかったのかな (頭が)可…
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