クズ夫に寄生虫と罵られた妻の三年後
ざまあ書きました!ところで最近たくさん本が出たりコミカライズでました!
よかったら見てください~!(活動報告にて)
「知っているか? 君のような女を寄生虫というらしいぞ。自分で稼ぎもできない自立もできない、夫の稼ぎに甘えることしかできない弱い女をな」
私の夫ルクセイン辺境伯ヴィクトル・ハルトマンは、三年の遠征から帰るなり、玄関ではなく書斎で唐突にこんな言葉を浴びせてきた。
埃っぽい軍服のまま。土産もなく。
唖然とした私に、彼は堂々と続ける。
「離縁しよう。久しぶりにあって確信した。子供も育ったし君はもう不要だ。戦場で俺は本当の恋を見つけた。自立して女だてらに生きる、立派な強い女さ」
頭が真っ白になる。
屋敷で子供を育て、領地を守り、夫の帰還を出迎えて突然こう言われるなんて。
「私は何もありません。帰る家も、財産も……今離縁されたら、立ちゆきません。それに」
「あー、慰謝料か。やっぱりその話になるよな」
私の言葉を遮り、夫は鼻で笑う。
「さもしいものだな、こちらが命を賭けて働いて、喰わせてやっているのに、取るものばかりは取ろうとする」
「な……」
「わかってるさ。そんな君と結婚していたのも僕の過ちだ。だからちゃんと責任はとる」
絶句する私の前に、夫はずいっと汚れたままの指を突き出す。
三本立てられた指が、私をまるで貫くように見えた。
「三年。お前がお前の財産をかき集めるだけに三年やる。その間は今まで通り俺に寄生するのを許す。その代わりに慰謝料はなしだ」
話はそれだけだった。
夫は帰宅して家族の会話もなく就寝し、翌日には早々に王都へと出立してしまった。
子供たちのことも、領地経営のことも、何も話はできなかった。
ただ一人、私は屋敷に残された。
寄生虫だ、弱い女だ、離縁だと罵られたまま。
◇◇◇
――私、エルゼ・ハルトマンは本来、王都の学院に通う予定だった。
けれど夫の領地の都合で縁組が早められ、さらに「嫁に学問はいらない」と義母に言われ、十三歳から花嫁修業をして十七歳で嫁いだ。外に出たことはほとんどない。
出ようにも、ずっと身重だったし自由もなかったし、持参金は全て取り上げられた。
銅貨一枚も自由にできなかった。常に監視の目があった。
それでも私は自分の役目を果たすべく、愚直に子供を育て、夫を盛り立て、姑や舅に仕えた。
帰ってきてくれたら、少しだけ褒めてほしい。
それだけでいい。私の望みはそれだけだったのに。
彼が真実の愛を見つけたという女は、騎士団に入って夫と一緒に戦った女騎士だという。
戦える女。強い女。立派だという。男に寄生せずとも生きられる、素晴らしい女だと。
女騎士リゼルは夫がいない日に、唐突に領地までアポイントもなしに訪れた。
来訪の大義名分としてわざわざ、夫のタイピンを取ってくるように申し付けられたと言って。
彼女はもてなした私を上から下まで見て、鼻で笑った。
「ああ、なるほどね。……そういうことね」
そして私を見下し、同情し、こう言った。
「可哀想に。田舎に縛られて、何もできない人。これならあの人を捕まえられなくても当然だわ」
言い返す気にもなれなかった。
まだ若く20代であろう彼女は自信と色気に満ち溢れていて、夫が惑うのも当たり前の姿をしていた。
対して、私は。
鏡の中の自分を見る。
そこにいるのは、嫁いで17年の苦労が滲んだ、32歳の女の姿だった。
年齢よりもずっと更けて、疲れ果てて、化粧けのない土色の顔。
このまま出戻っても、もう次に嫁げる場所などないだろう。
――寄生しなければ生きられないように飼い殺されて、私は年増になってしまった。
「寄生虫、ね……」
私は庭を見る。庭には、私が心の慰みに手入れしてきた花壇の花が咲き誇っていた。
蝶がひらひらと飛び回っている。おそらく卵を産み付けているのだろう。
卵はいずれ孵化し、幼虫となり葉を食べ、育ち、そして蝶となって去っていく。
きっと私も、あの虫のように夫の人生を食いつぶした存在に見えているのだろう。
そう思ってくすりと自嘲する。
「蝶だなんておこがましいわ。寄生虫ってもっとひどい言い方だものね」
私はそこにいるであろう、図鑑でみた様々な虫たちの姿を思い出した。
虫は誰からから見れば醜いかもしれない。けれど、生きている。
――私も、生きねばならない。
◇◇◇
そして学園の休暇で子供たちが戻ってきた。
二人には大事な話があると伝えていたので、十五歳の長男フリッツと、十三歳の長女アンナはすぐに居間に集まってくれた。
立派に育った二人は、ほとんど父の顔を知らない。
私はずっと、家を必要以上に空け続けていた夫が子供に悪く言われないように計らってきた。
けれど夫にとってはそれもしょせん、寄生虫の生存戦略だったのだろう。
私は緊張した面持ちの二人に告げた。
「いいですか。私はこの家を追い出されます。――私はあの人にとって、寄生虫だそうです」
絶句する子供たち。
「私は三年後には離縁します。おそらくこのままではその後私はあなたたちと一生会えなくなるでしょう」
「そんな……」
二人は青ざめている。私はおおよその事情を二人に説明した。
隠してもいずれ露見する話だ。ならば下手に子ども扱いしてごまかすより、親の口から伝えたほうがいいだろう。
反抗期も過ぎた二人は立場こそ子供だが、大人の事情も少しずつ呑み込み始めた年頃だ。
母の置かれた状況について、理解できるところも多いのだろう。
私は子供たちに微笑んだ。
「ですが、夫が三年間の自由を明言しました。舅も姑もすでに亡くなりました。私は笑顔でここを出て行けるように、三年間暴れ回ります。暴れ回った母でもよろしいでしょうか」
さらりと口にしたが、私は口から心臓が出そうなほど緊張していた。
これは私の賭けだった。
強い言葉を使って宣言する私を、子供たちが受け入れてくれるのかの。
子供たちは、立ち上がって私の手を取った。
「暴れてください、お母さま!」
「僕たちでできることがあればなんでもします。……さすがに、今回のことはあまりにもひどすぎます」
「私のデビュタントもお祝いすらしてくれなかったお父様だもの、全部いろいろわかっちゃったわ!」
二人はショックを受けているようだが、しっかりと現実を受け止めてくれたようだった。
安堵して私は微笑んだ。
「ありがとう。あの人に感謝しないといけないわね。あなたたちという天使を育てさせてくれたことに」
十七年間ずっと噛み殺してきた笑みではない。歯を見せて笑った。
「だからこそ、立つ鳥跡を濁さずいくわよ」
◇◇◇一年目◇◇◇
夫はよほどでない限り、こちらには帰ってこないだろう。
私はすぐに行動を開始した。
十七年間、私がこの屋敷でしていたことは――夫の思うような主婦仕事だけではない。
経営だ。
領地の収穫管理。税の計算。商人との交渉。使用人の人事。近隣領との社交。
夫が遠征で不在の間、ハルトマン辺境伯領を実質的に回していたのは私だった。
まず、領内の養蜂場を買い取った。
義母がくだらないと切り捨てた小さな養蜂場。けれど私はこの土地の花の豊かさを知っている。蜂蜜の品質が王都の高級品に匹敵することも。
十七年間、帳簿を眺めるしかなかった女は、帳簿の隅々まで覚えていた。
蜂蜜を精製し、小瓶に詰めて王都の菓子店に卸した。
商人たちは驚いた。辺境伯夫人が自ら商談に来るなど前代未聞だったから。
けれど私の見積もりは正確で、納期は完璧で、品質は申し分なかった。
「ハルトマン夫人は恐ろしい方だ」
商人たちは言った。
「あの人の帳簿には銅貨一枚分の狂いも誤字もない」
私に何かを感じ取った商人たちは、意図的にさらなる投資をもちかけたり、裏を探ったりしてきた。
商会の担当者が突然顔立ちの良い若い青年になったときは、さすがに苦笑いをしてしまった。
当然その件にはやんわりと苦情を伝え、既婚者が会っても悪い噂の立たないようなこれまで付き合いのある担当者のままにしてほしいと要望した。
次に私が手をつけたのは、領内の薬草園の整備計画だった。
夫が戦場で使う傷薬の原料は、もともとこの土地で採れるものだった。
それは義母が存命の頃、徹底的に自慢していたものだった。
実家を馬鹿にされながら、まだ10代のうちから朝から晩まで義母に仕えて仕事を覚えたけれど、涙をこらえながら薬草を煎じてた日々を決して無駄にはしない。
私は義母に教わった製法を最新の製法に整え直した。
そして領内の仕事を求める女性たちを集め、彼女たちを薬草園の工場で雇い、調合した薬を軍に直接卸した。夫の遠征の結果寡婦になった女性は多い。彼女たちの生活の支援も、私が夫人としてやっておきたかった勤めだった。
そして作った薬草は中間商人を通さないから安く、また納品も早い。軍の補給官から感謝状が届いた。
商人の顔は養蜂場で立てたうえで、あくまでもともと古くから縁のある卸のルートを活用しただけ。
私のやりかたは、誰にも角を立てることなく無事に成功した。
半年で事業は軌道に乗った。
一年目の終わりには、養蜂と薬草だけで年間の屋敷運営費を賄えるようになっていた。
社交界の秋の夜会に、私は初めて自分で仕立てた服を着て出た。
あくまで派手にならないように意識した。清潔で、仕立てがいい。それだけの服。
それでも久しぶりに会った子供たちは、私が生き生きとしていることに驚いている様子だった。
「最初はびっくりしましたけど、お母さまが元気になられるならなによりです」
「今はお父さまと顔を合わせてはだめですよ。お父さまが手のひら返しで都合のいいこと言うかも」
「お前なあ」
娘はすっかり父に失望し、女性の敵とまで思っている様子だった。
息子はそんな妹にあきれつつ、それ以上は咎めない様子だった。
彼も思うところがあるのだろう。
夜会には私の蜂蜜を使った菓子を焼く王都随一のパティシエを同行させた。
私の薬草を仕入れる軍医団の長が私を夜会で紹介してくれて、私が立て直した孤児院の子供たちが歌を披露する一幕もあった。
それらを人々は楽しんでくれたようだった。
「ハルトマン夫人が辺境伯領をここまで豊かにされたとは」
「今まで知らなかったわ」
誰もが驚いた顔をするので、私はあくまで貞淑に微笑んで、こう答えた。
「夫のおかげです。夫が安心して遠征できるよう、留守を守るのが妻の務めですから」
謙虚に。あくまで謙虚に。
だって私は寄生虫ですから。宿主を褒めるのは当然なのだから。
◇◇◇二年目◇◇◇
二年目に入る頃には、私の耳には意図せずとも様々な声が届くようになっていた。
きっかけは些細なことだった。
薬草の納品で軍の補給所を訪れた際、廊下の向こうから聞こえてきた士官たちの雑談だ。
「ハルトマン夫人って、あの辺境伯の?」
「ああ。旦那が前線で女騎士といちゃついてる間に、領地を一人で切り盛りしてるって話だ」
「……それで薬草の品質がこんなにいいのか。納得したわ」
私は足音を殺してその場を離れた。
聞こえていたと知られれば、彼らが気まずい思いをする。それは避けたかった。
噂は勝手に育つ。私がすべきことは、水をやらないことだ。
社交界でも変化は静かに、しかし確実に広がっていた。
夜会で挨拶をすると、以前は素通りしていた夫人たちが足を止めるようになった。
ある伯爵夫人などは私の手を握り、目を潤ませてこう言った。
「あなたのことは聞いているわ。――立派よ」
その一言に込められた意味を、私は正確に理解していた。
彼女は私を褒めているのではない。
私を通して、自分の夫への不満を代弁しているのだ。
社交界の女たちにとって、夫の不貞に耐えながら領地を富ませる妻の姿は、同情の対象であると同時に、自分たちの鬱屈を投影できる鏡だった。
だから私はそういう場面では決して本音を言わなかった。
聞かれればいつも同じ言葉だけを返した。
「夫は前線で戦っております。私のような者にはできないことを」
この言葉が正確にどう作用するか、私にはわかっていた。
謙遜すればするほど、人々の目はヴィクトルに向く。
私が夫を立てるたびに、彼の不義が際立つ。
それは計算だったかと問われれば――半分はそうだ。
けれど残りの半分は、本当にそう思っていた頃の自分の名残だった。
十七年間信じてきた言葉は、嘘になっても舌に馴染んでいる。悔しいけれど。
「悔しいけれど……だからこそ利用するのよ。過去の自分の愚かさまで」
私は一人、拳を握って誓った。
◇◇◇
一方、前線ではヴィクトルの歯車が狂い始めていた。
社交界での悪評は、当然王国軍にも伝わる。上官の目が厳しくなった。同僚の態度が冷たくなった。
武功を焦ったヴィクトルは無理な作戦を押し通し、リゼルと衝突した。
戦場で口論になり、連携が崩れ、ヴィクトルは右足に重傷を負った。
前線に出られなくなった夫の元に、私は見舞いの品と手紙を送った。
「どうかお体をお大事に。領地のことはご心配なく、すべて滞りなく進めております」
優しい手紙だ。完璧に優しい。
そして完璧に、帰ってこなくていいという意味だった。
傷が癒えても、ヴィクトルは前線に戻れなかった。足を引きずる騎士に、居場所はない。
リゼルは、動けなくなった男を見限った。
戦場で輝く男が好きだったのだ。足を引きずって後方で書類仕事をする男ではない。
リゼルはすぐに別の騎士の元へ走った。
けれど社交界の女たちは、リゼルを忘れていなかった。
「人の夫を奪った女騎士」の次の浮気は、たちまち噂になった。新しい相手の妻が泣きながら夜会で訴えた。貴婦人たちの怒りは凄まじかった。
リゼルは騎士団内でも孤立し、やがて辺境の砦に左遷された。
ヴィクトルはもう、連れ添うつもりだった女騎士リゼルを助けなかった。
助ける気は失せていたようだが、そもそも彼はもうすでに助ける力も失っていた。
彼は後方の療養所で、私が送る仕送りで暮らした。
ハルトマン家の財産から支出される、正当な療養費。妻として送る義務がある金。
――ただし、金額は夫が好きなだけ使えるように、少し多めにしてある。
酒を飲み、賭け事をし、太っていく夫の姿を、療養所の者たちは報告してくれた。
私は帳簿に丁寧に記録した。全ての支出を。全ての浪費を。それこそ銅貨一枚の狂いもなく。
今まで私が17年間務めてきた仕事そのままのことをやっているだけだ。
その間に、私は静かに子供たちの手続きを進めた。
ハルトマン辺境伯領の法律には、こういう条項がある。
――当主が傷病により職務不能となり、かつ不貞が認定された場合、未成年の子の親権者は配偶者の申し立てにより実家の籍に移すことができる。
私の実家、ライナー男爵家。没落しかけていた家だが、私の事業の一部を回すことで息を吹き返していた。
書類を療養所に送った。他の書類に紛れ込ませて。
ヴィクトルは読みもせずに判を押した。
妻に全部やらせていた男は、書類の中身を確認する習慣がなかった。
私はきちんと弁護士もつけていた。王都で最も切れ者と評判の女性弁護士を。
彼女は言った。
「完璧です、ハルトマン夫人。瑕疵は一点もありません」
◇◇◇三年目◇◇◇ヴィクトル目線
三年目の秋。ついに約束の日が来た。
ヴィクトルは領地屋敷に馬車で向かいながら、妻がどんな顔をして自分を待っているか想像しつつ、きつくなったトラウザーズの食い込みを丸い指先でかきむしっていた。
――三年前、ヴィクトルは意気揚々と前線へと戻った。
当時ヴィクトルは強く、前線では英雄のように持ち上げられていた。
そのうえ誰もが見とれる戦場の薔薇リゼルを侍らせていた。荒々しい男の世界では、美しい女を侍らせ武勇を誇り、故郷に残した妻のつまらなさを愚痴りあうことが日常だった。だから当たり前のように煩わしい妻を捨てる算段も整えたし全てが思い通りだと思っていた。
周りからは「思い切ったな」と笑われることはあっても、否定されることはなかったのだから。
しかし結局――思い通りだったのはそこまでだった。
最初の逆風は、戦場ではなく社交界に吹き始めた。続いて軍で孤立するのもあっという間だった。
なぜか軍属の男たちも、今までのように妻を捨てろと言うことがなくなっていた。
皆エルゼの名を聞くと気まずそうに眼をそらし押し黙った。
面白くないと、ヴィクトルはますます血気盛んに戦場で武勲を上げようとした。
しかし焦りが最悪の結果に繋がった。
踏み込んだ戦場で足を砕かれ、気がつけば後方の療養所で天井を眺める日々が始まった。
戦えなくなった男のもとに、リゼルは見舞いにすら来なかった。
残ったのは妻から届く仕送りと、丁寧すぎる見舞いの手紙だけだった。
酒を飲んだ。賭け事をした。届く金を湯水のように使った。妻が何をしているかなど、考えもしなかった。
そしてヴィクトルは屋敷に帰ってきた。
足を引きずり、腹が出て、髭も剃らず、酒臭い息を吐きながら。
◇◇◇
屋敷は静かだった。
使用人はいる。屋敷は清潔だ。庭も手入れされている。
けれど――何かが決定的に違う。
子供たちの部屋は空だった。
エルゼの部屋も空だった。
金庫は空だった。
書斎の机の上に、封筒が一通だけ置いてあった。
ヴィクトルは震える手でそれを開いた。
拝啓 ヴィクトル様
三年が経ちました。
お言葉通り、私は私の財産をかき集めました。
子供たちは、あなたが署名された書類により、私の実家であるライナー男爵家の籍に移っております。不貞の認定と職務不能の記録は、王都の法院にすでに提出済みです。手続きは全て合法であり、あなたの代理弁護士にも通知済みです。
ハルトマン家の財産が空なのは、私が持ち出したからではありません。
帳簿をご覧ください。療養所でのあなたの飲食費、賭け事、交際費。全て記録しております。
あなたが、あなた自身の手で使い果たしたのです。
養蜂場と薬草園は、私が個人の資金で買い取った私の事業ですので、持参いたします。
屋敷に残っているものは、全てあなたが三年前に私を追い出した日にあったものと同じです。何一つ、多くも少なくもありません。
最後にひとつだけ。
あなたは「強い女が好きだ」とおっしゃいましたね。
寄生虫ではない、自分の力で生きられる女が素晴らしいと。
私は三年かけて、あなたの望み通りの女になりました。
自分の力で生き、自分の財産を築き、自分の足で立つ女に。
ですから、もう寄生する必要はありません。
あなたにしがみつく理由が、どこにもなくなってしまいました。
どうぞお元気で。
もう振り向きません。
エルゼ・ライナー
◇◇◇
ヴィクトルは手紙を握りしめて、がらんどうの屋敷に立ち尽くした。
窓の外では、かつて妻が植えた花が風に揺れていた。
美しい花だった。手入れが行き届いている。
三年間、誰も踏み荒らさなかったから。
けれどもう、この花を世話する者はいない。
花を咲かせた人は、もうここにはいない。
蝶が、庭をひらひらと飛んで行った。
お読みいただきありがとうございました。
楽しんで頂けましたら、ブクマ(2pt)や下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎(全部入れると10pt)で評価していただけると、ポイントが入って永くいろんな方に読んでいただけるようになるので励みになります。すごく嬉しいです。




