帳面にない名―運んでもらう紙に、書く名がない―
最終エピソード掲載日:2026/08/03
山の上の修道院。ここでは、来た者の過去を聞いてはいけない。
拾われて育ったクラリタは、その規則の中で十六年を過ごしてきた。
秋、山道を登ってきた一行が、少女を一人だけ置いていく。受け入れ簿の名の欄は、空いたまま閉じられた。
少女はセラフィナと名乗った。政争に敗れた家の娘で、麓の役所の記録では、半年前に病で死んだことになっている。二枚の紙はどちらも正式で、どちらも偽造ではない。
やがて雪が峠を閉ざし、セラフィナが熱を出す。麓の施療院は、金のない者も名のない者も診る。ただし、運んでもらうための紙に、書く名がない。
——誰も覚えていない人間を、一人だけが覚えているとき、それは何なのか。
拾われて育ったクラリタは、その規則の中で十六年を過ごしてきた。
秋、山道を登ってきた一行が、少女を一人だけ置いていく。受け入れ簿の名の欄は、空いたまま閉じられた。
少女はセラフィナと名乗った。政争に敗れた家の娘で、麓の役所の記録では、半年前に病で死んだことになっている。二枚の紙はどちらも正式で、どちらも偽造ではない。
やがて雪が峠を閉ざし、セラフィナが熱を出す。麓の施療院は、金のない者も名のない者も診る。ただし、運んでもらうための紙に、書く名がない。
——誰も覚えていない人間を、一人だけが覚えているとき、それは何なのか。