71. 夕食
夕飯はとても豪華だった。
どうやら私が眠っている間に、国庁の人が野菜や肉を届けてくれたらしい。風呂から上がってきたカロンも「オーウェンの飯は美味いんだよなあ」と機嫌良さそうに椅子に座った。
「……何でこんなに料理ができるの」
「家の料理人に教わったから」
オーウェンは、なんでもないような口ぶりで答えた。
家の料理人ということは、つまり公爵家の料理人。腕が良いのは想像に難くない。
そんな人物に教わり、さらに、もともとの要領の良さがこの目の前の光景に如実に表されている。サラダに肉が入ったシチュー、魚と野菜の煮込み……品数もたくさんある。
「趣味にしては上達したよなー。あ、うま」
「結果が合理的だから落ち着くんだよ。あとそれはもらい物のパン」
「マジか。作った人に美味いって言っといて」
私もご相伴にあずかる。シチューをスプーンですくって口に放ると、肉がほろりとほどけた。美味しい。そして、なんだか悔しい。こんなに美味しい料理、私にはきっとこの先も作れない。
「……負けてやる」
「そこでも勝負してたんかよ」
カロンはゲラゲラと笑った。顔色がいい。もう昨日の、死人のような顔はしていなかった。
「そういえば、何の任務?」
「んあー?ちょっとノールドランド城に……」
「カロン」
オーウェンがカロンの言葉を遮った。その目はいつもの馴れ合いではなく、厳しいものだった。カロンは「やべ」と身を引いてから、しばらく唸りながら私に向かって手を合わせた。
「言えねぇ!察して!聞くな!!」
「うわ……忘れるけどさぁ……」
おそらくは極秘の任務とかだろう。
カロンの使役する黒山羊は、馬よりも速く駆けることができる。そんな人物を使ったということは、急ぎの任務……
(……やめよ。変に考えないようにしよう)
それにしても、カロンに任務を預けた人も、こんなにも口が軽いと大変だろう。オーウェンはカロンを咎めた後、溜息を吐いて私に言った。
「アルクセイ、お前も軽率に聞くな」
「そうする」
とばっちりだけれど、自分の身を守るためにはその方が良い。素直に忠告を聞いて、私は話題を変えることにした。
「ねぇ、キランについて聞きたいんだけどさ」
「キラン?最近、忙しいから連絡してねぇけど」
「近況とかじゃなくて、キランってオルヴァッキのこと、どう思ってるの?」
傍から見ると、二人はお似合いだ。
オルヴァッキはオーウェンとかカロンみたいなタイプは気圧されてしまうみたいだけど、キランは話しやすいんだと言っていたのを覚えている。
カロンは「あ〜……」としばらく目を泳がせてから口を開いた。向かいに座るオーウェンは何も言わずにグラスの酒に口をつけた。
「キランは……まあなんつーか、ちと問題があってだな」
「問題?」
聞き返して、私はすぐに後悔をした。
ノールドランドに来る魔導列車での話を思い出したのだ。
こうやってすぐに私が聞き返すから、オーウェンに良からぬことを言われかけてしまうのだ。
「あいつ、あんまり異性がな、好きじゃねぇんだよ」
その返答に、私は何度か瞬きをした。
「……同性が好き?」
「ごめん、俺の言い方が悪かった。そういう意味じゃねぇ」
違うらしい。
全力で否定された。
「そうじゃなくてだな、まぁ、俺らの家って前にも話したと思うけど女当主の家柄だろ?ちょっと想像してくれると助かるんだけど、そんな家で俺らの扱いってどうなると思う?」
そういえば、騎士官になってから双子が休みを取って実家に帰ろうとする様子はなかった。
カロンの含みのある言い方、そして実家の雰囲気。
容易に想像がついた。
「……何か、ごめん」
「いや、謝んな。嫌だったら言わなければいいわけ。話したのは俺」
でも聞いたのは私だ。
カロンは何にも気に留めていない様子で、大きな口で魚を食べた。
「当主の母親とな、折り合いが悪くてよ。俺はさっさと諦めがついたんだけど、キランがな。あいつ繊細だから」
確かに。カロンと比べると、キランは穏やかで細やかな性格だ。
気を許していない相手……カンザキに触れられることも本気で嫌がっていた。
「そういうのもあって、あんまり誰を好きとかは聞かねぇんだよ。……まぁ、あとは……相手に押し切られて恋人にさせられるくれぇだし。その都度俺が間に入って別れさせたけど」
「初めて聞いた」
「茶化して周りに言う話じゃねぇからな」
いつもの軽い口調で、カロンはグラスに口をつけた。
意外なところでお兄ちゃんをしているようだ。
カロンは一気に飲み干すと、ぐうっと背伸びをした。
「俺も、オルヴァッキは良いと思ってんだけどさ〜〜……まあ、でも、お前が心配しなくても良いと思うよ」
「え?」
そしていつもの悪だくみを考えているような、にやにやとした表情で身を前に乗り出した。
「てか、今さらだけどよ。お前らこんなちっせー家みたいなとこで寝泊まりしてんの?」
「そうだけど……」
「ひとつ屋根の下じゃん。オーウェン、アルクセイに襲われないようにな!」
「はぁ!?」
「俺が襲われるかよ」
「ちょっと!!」
「うっしゃ!ごっそさーん!オーウェン、食後の煙草付き合って〜〜」
そういうとカロンはぱちんと手を合わせて立ち上がった。いつの間にかカロンの分はなくなっていたし、オーウェンも食べ終わっていた。私だけだ、食べ終わっていないのは。
オーウェンも、椅子から立ち上がった。
「あ、食器は俺が片づけるから、一宿一飯の礼ってやつ」
「……わかった」
「お前は病み上がりなんだろ?部屋で寝とけ!」
今までの会話の空気を払うような軽い調子で、カロンはオーウェンを連れて外へ出ていった。
(……なぁんか、怪しくない?)
男同士、何か話すこともあるのだろうけど。何となく、何となく違和感がある。
私は二人の後ろ姿を見送りながら、最後の一口を食べた。
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キランはアルクセイたちである程度、耐性はつきました。
けど、いざ女の子から距離を縮めようとされると逃げたり仕事を理由に連絡しない人間です。




